ムーンチャイルドが語る、ひとりで音楽を作れる時代にコラボレーションから学んだこと

 
レイラ・ハサウェイ、タンク・アンド・ザ・バンガスなどから得たもの

―ここからは『Starfruit』の多彩なゲストについて聞かせてください。まず、どういった基準で選んだんですか?

アンバー:単純に自分たちが素晴らしいと思っている大好きな人たち。ずっと一緒にやりたかった人たち。それから女性をフィーチャーしたい気持ちもあった。音楽業界で女性、または黒人女性にスポットライトを当てることは大切だと思うし、でもたとえ私たちにそういう考えがなかったとしても、たぶん同じ顔ぶれに声をかけていただろうなと思う。本当に、今回依頼した人たちのただの大ファンだから(笑)。実は「コラボレーションしてみたい人リスト」にはもっとたくさんいたんだけど、どの曲に誰が合うのか検討して組み合わせていったら、最終的にこうなった。

―それぞれにキャラクターも音楽性も異なるボーカリストです。彼女らが歌うなら、必然的にムーンチャイルドの楽曲もいつもとは少し違うものになると思うのですが、いかがですか?

マックス:まず、誰にどの曲を送るのか決める前に、事前に基本的な曲の構成はできていたんだよ。でも送り返されてきたものがあまりにかっこよくて興味深いことが多くて、曲を最初とは別の方向へ持っていきたくなったというのはある。たとえば「Bet By」なんかはそうだった。

アンバー:「Need That」もイル・カミーユのヴァースが返ってきてから、彼女のヴァースを強調するためにかなり変えているけど、その作業もすごく楽しかった。それから「You Got One」の最後のアレックス・アイズレーのアウトロ部分は、変更前はフルで演奏が入ったトラックだったけど、あまりにも美しかったから声とキーボードだけに解体している。

アンドリス:ラプソディの「Love I Need」も、ヴァースを目立たせるために曲を手直ししたよね。

アンバー:あと個人的にはバックコーラスを加えるのがすごく楽しかった。そこは自分が勝手に楽しみにしていた部分で、たとえ同じ場所で一緒に歌ってなくても、彼女たちと一緒に歌いたかったから(笑)。ボーカルのちょっとしたことを付け加えるっていうのが本当に楽しくて。

アンドリス:それを聴くのも楽しかったよ。ゲストから曲が戻ってきてから1〜2週間後にアンバーがボーカルを加えたバージョンを聴いて、その曲に合った形でいい感じに混ざり合っていてすごくよかった。楽しい実験だったよね。

―ゲストが参加していると、リリックもこれまでとは変わってくると想像しますが、どうですか?

アンバー:ほとんどのゲストは、自分がやる部分は全部それぞれが書いてくれたもの。リリックもメロディもね。こちらから送ったのはオープンな部分を残したトラックで、好きにやってくださいと伝えて。彼女たちが普段からやっていることがすごく好きだから。唯一こちらでリリックを書いたのはレイラ・ハサウェイをフィーチャーした「Tell Him」だけど、それも彼女がメロディに当てはめる上でとても美しく変えているし、彼女が加えたボーカル・パートもあるしね。



―ゲストにもよると思いますが、そもそもどういうきっかけで知り合った人たちなんですか?

アンバー:ライブとかフェスとか、レイラとはいろんなところで何度もばったり会っていて。ロバート・グラスパーがLAでやる時に観に行って、彼女がそこで歌って、そのあとで演奏するとかね。彼女もLAに住んでるからいろんなところで偶然会うし。本当に気さくで包容力があってバンドのことも応援してくれてる。実はいまだに彼女に対しては、スターを目の前にした感じになっちゃうけどね(笑)。「遊ぼうよ!」とか言われると「え、私と?!」って内心思っちゃう。とにかくレイラに関してはすべてをリスペクトしてる。2人は?

アンドリス:いや、もう、彼女のボーカルを最初に聴いた時は「何だこれは!」って思わず立ち上がったし、実際に曲が完成した時には感動したね。レイラが彼女の自宅でレコーディングした時もアンバーが手伝っていて、すごく独特のものがあったよね。



アンバー:そうだね。じゃあ次はアレックス・アイズレー。

マックス:彼女も最高のボーカリストの1人で、リスペクトしかないよ。

アンバー:彼女のメロディってこの世のものとは思えない、あまりに美しすぎて。私はナインス・ワンダーとコラボしたことがあって、彼女もそのとき一緒だった(2018年の『9th Wonder Presents: Jamla Is The Squad II』、ラプソディも参加)。私がナインス・ワンダーから曲を聴かせてもらってどう歌おうか考えていた時に、その同じ曲で彼女が歌ってるものを聴いて、「すごい、こんなのどうやって思いついたの?!」となって、もう本当に感心しちゃって。自分は同じ曲を前にして「どうしたらいいか分からない」となってたから余計にね。ということで私は彼女の最高に素晴らしい声に加えて、メロディの選び方も大好き。

アンドリス:さっき「You Got One」のアウトロの話が出たけど、あの声の繊細な複雑さから言っても、彼女がハーモニーから何から熟知していることが窺えるよね。一見簡単そうだけど難しいことをやってるんだ。



アンバー:イル・カミーユについては、直接会う前に彼女の存在は知っていて、私は彼女の大ファンで、SNSでお互いにフォローして好きな気持ちを伝え合っていたんだけど、ついにあるライブで彼女と直接会って連絡先を交換して、お互いLA在住だからばったり会うこともあったしね。私は彼女のフローと声のトーンが好きで、心を穏やかにしてくれて、でもすごくかっこいいハードな感じにもなるっていう」

アンドリス:実をいうと、僕は直接彼女と会ったことがないんだけど、アンバーの意見には100%同意だよ(笑)。声のトーンとかまさに。アンバーが彼女の『Harriett』を車で聴かせてくれた時に心を奪われたんだ。タイミングとかフレージングとか本当に魅力的で。世界がもっと彼女を知ってくれることを願ってやまない。




―タンク・アンド・ザ・バンガスについてもお願いします。

アンドリス:たぶん3人とも覚えてるのがNPRタイニー・デスク・コンサートの動画で、あの瞬間から大ファンになったんだよ。実際会うなんて想像もしていなかったけど、自分たちのライブがニューオリンズであった時に彼女たちがほぼ全員で来ていて、サウンドチェックかライブ終了後か忘れたけど……会ったんだよね。

アンバー:確かネットで観に行くって教えてくれてたと思う。それでライブ後にFaceTimeで話したんじゃなかったかな。帰らなきゃいけないとかで。

アンドリス:あ、そうだ!




アンバー:それでRoots Picnic(ザ・ルーツ主催のフィラデルフィアで行われているフェス)でばったり会って。直接会ったのはそこが初だったと思う。タンクはとにかく個性が際立っていて、ステージに立って輝き、歌っても輝き、ラップしても輝くっていう。本当に力強い声を持っているし、他の誰とも似ていない本当に個性的な人で、遊び心に満ちていて、ほとんど歌ってる内容が関係なくなるくらい。私にとっては彼女の歌を経験すること自体が喜びをもたらしてくれるもので、ステージ上の彼女を見ていても同じ気持ちになる。

アンドリス:まったくその通り。

アンバー:「Get By」は結構古い曲で、『Little Ghost』に入れそうになったくらい古いもの。今回改めてあの曲を見直して、曲とゲスト候補のリストを並べた時に、彼女の雰囲気があの曲に合ってるんじゃないかと思って選んだ。もちろん曲を送ってそれが戻ってきた時に、彼女がやったことを踏まえて変更を加えたりはしてるけどね。それにしても『Little Ghost』で使わなくて本当に良かった(笑)。全然こっちの方がかっこよくなったから。

Translated by Akiko Nakamura

 
 
 
 

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