死と崩壊が支配するハリコフから逃れる、ひとりのアメリカ人ジャーナリスト

破壊兵器の恐怖

これは大虐殺の序章に過ぎなかった。私がこの記事の執筆に取り組みはじめてから、攻撃は日に日に激化している。3月1日、ロシア軍は私たちが宿泊していたホテルの隣のブロックにある建物を巡航ミサイルで攻撃した。その日の夕方には、飛行機で街の中心部に爆弾を落としはじめた。その夜に撮影された動画には、真っ暗な空がロケット弾の閃光や炎によって赤く染まる様子が映されている。2日には、巡航ミサイルが増えた。ハリコフは、一つひとつの被害を特定することができる場所から、ひとつの大きな暴力行為の現場と化した。

この時点で、いくつかの動画をすでにご覧になった人も多いはずだ。こうした動画は、あらゆる大手メディアが繰り返し放送している。だが、世間の人々がこうした兵器の威力を理解しているかどうかは疑わしい。MLRSは、精密誘導兵器などではない。標的を破壊し、人々を恐怖に陥れ、深く傷つけ、燃やし、引き裂き、殺すために設計された兵器だ。なかでも、ロシア軍が保持する最大のものは「SMERCH」と呼ばれている。SMERCHとは、ロシア語で「旋風」や「竜巻」を意味する。後部には12本の筒状のロケット弾発射機が装備され、重量約1800ポンド(約816キロ)のロケット弾(弾頭の重量は550ポンド[約250キロ])が発射できる。それだけでなく、クラスター状の4ポンド(約1.8キロ)の「子弾」を72個内蔵することもでき、ひとつの子弾は最大96の金属片となって降り注ぐ。その名の通り、一瞬で人を死に至らしめることができるのだ。たいていの場合、子弾だけでは爆発しないため、攻撃が終わったあとも十数ないし数百もの恐ろしい小型爆弾が被害現場に残る。好奇心旺盛な子供が子弾を拾い、命を落とすことも決して珍しくはない(クラスター爆弾の使用は国際条約で禁止されているものの、アメリカとロシアの両国はこの条約に署名していない)。

戦争に使われる一つひとつの兵器に焦点を当てることは、概して馬鹿げている。すべての兵器は、死という目的のためにつくられているのだから。私たちがハリコフに残してきた死を目的とする暴力行為のレベルは、あまりに恐ろしい。手っ取り早くウクライナ政権を転覆させる、という目的を達成できなかったロシア指導部は、苛立ちとともに戦術を変えた。ハリコフや首都キエフをはじめ、報道されることのない小さな町は、思いつく限り残虐な手段で痛めつけられるだろう。いまでは、ロケット弾やミサイルによる無差別攻撃が民間人の居住地区を襲っている。地元当局が報じたところによると、ハリコフでは少なくとも21名が死亡し、100名以上が負傷した。2月28日、アムネスティ・インターナショナルは最初の攻撃を対象とした調査を開始した。調査団がハリコフに到着した頃には、最初の攻撃とその後の十数もの攻撃との区別ができないほど、街は荒廃しているに違いない。

Translated by Shoko Natori

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