ブルー・ラブ・ビーツ、UKジャズ新世代が明かす生演奏×ビートメイクの新たな可能性

 
ガーナで受けた衝撃、フェラ・クティとウィズキッドからの学び

―Mr DMに質問で、ジョー・アーモン・ジョーンズやマーク・カヴューマとはどんなきっかけで知り合ったんですか。

Mr DM:マークとは2013年にTomorrow‘s Warriorsを介して知り合った。毎週日曜にTomorrow’s Warriorsが企画していたジャム・セッションがNoliasというヴェニューであって、そこで初めて会ったんだ。マークはトランぺッターのShane Forbes、サックス奏者のRuben Foxといった偉大な先輩ミュージシャンとも交流していた。僕らは意気投合して、そこから一緒にギグをやるようになった。彼の2作目『Bang Factory』のタイトルは彼が率いるコレクティヴの名前を冠しているんだけど、僕はその一員としてヴィブラフォンを演奏している。

マークとの関係で言えば、最近、『Legacy』というアルバムをリリースしたキネティカ・ブロコ(Kinetika Bloco:ロンドンで活動するマーチングバンド。アフリカ、カリブ、ジャズ、ラップなど様々な音楽文化を若者に伝えている)にも触れないといけない。キネティカ・ブロコとTomorrow’s Warriorsはかなり近い関係なんだ。キネティカ・ブロコはMat Foxが2000年ごろに創設した団体で、今は彼の息子が引き継いでいる。マークを介して僕はここでも演奏するようになって、その縁で『Legacy』へも参加することになった。


Mr DMが参加した、マーク・カヴューマ率いるBang Factoryのライブ映像


キネティカ・ブロコ『Legacy』のティーザー映像。上述のマーク・カヴュ―マやRuben Foxに加えて、ヌバイア・ガルシアやテオン・クロスといったUKジャズの重要人物も参加。

Mr DM:ジョー・アーモン・ジョーンズに関しては、2013年頃に彼が参加していたジャズ・ヒップホップ・コレクティヴのセッションで知り合った。彼らは毎週木曜にブリクストンでセッションをやっていて、そこではミュージシャンだけではなく、ラッパーが来てサイファーをやったりもしていた。僕はそこのジャムによく参加していたんだ。そこから意気投合して、彼のアルバム『Starting Today』と『Turn To Clear View』で4曲ずつ演奏している。それにBLBの作品にも彼は参加してくれている。

NK-OK:僕もそのブリクストンのセッションにはよく行っていた。僕はドラム・マシーンを持っていったんだけど、最初は生演奏の場所だし、ロウな感じが好まれていたからなかなかドラム・マシーンで参加することを理解してもらえなかった。だから、あまり演奏する機会をもらえなかったんだけど、徐々に変わっていって、途中からは「またドラム・マシーンを持ってきてくれよ」って感じで声をかけらえるようになった。僕にとって大切な経験だね。


Mr DMがベースで参加した、ジョー・アーモン・ジョーンズ『Turn To Clear View』収録曲「Try Walk With Me」

―BLBにとって大切なコンセプトなんですか?

NK-OK:コラボレーションは自分たちにとって大きな要素、そこではなるべくトラックのデータを送りたくないというのがこだわりかな。一緒にスタジオに入って、同じ部屋で一緒に演奏することが大事なんだ。それによってお互いの音楽制作のプロセスもわかるし、そこで上手くコネクトしていくと、何をやっても呼吸や歩調を合わせられるようになる。

―ライブ感を大事にしている。

NK-OK:そう。データのやり取りだけで曲を作るのはできるだけ避けたい。ロックダウンの時は仕方ないからリモート制作もやったけど、極力スタジオで一緒にやるようにしている。

―その辺は意識的なんですね。『Xover』の頃から器楽奏者やヴォーカリストを迎えていたり、オーガニックなセッションっぽさがある気がしていたので。

NK-OK:僕らはBLBを名乗る前、いろんなヴォーカリストのプロデュースをやっていた時期があって、そのためのトラックをひたすら作っていた。その時に僕らの楽器のソロを入れるってアイデアが浮かんだから試しにやってみたら、すごくいい感じだったんだ。それ以来、生演奏を積極的に入れていくように変わっていった。そこが今思えば、BLBが始まった瞬間だったと思う。

そこから自分たちの音楽をやるようになって、色んなヴェニューで他のアーティストたちと交流したりするうちに、ロンドンには自分たちと似たフィーリングを持つミュージシャンが相当いることに気づいた。だったら、僕らの作品に呼んで一緒に演奏したらよさそうだなって。そのアイデアが『Xover』に繋がっていった。あれはコラボを推し進めることで完成したアルバムで、改めて振り返ってみると、あの頃にいろんなアーティストとコラボしながら僕たちの音楽が徐々に固まっていったと思う。そうやって積極的にコラボを続けてきた結果が今のBLBだね。



―『Xover』の時点でジャズやヒップホップ、ネオソウル、ブギー、アフロビート、カリビアンミュージックなどいろんな要素が入っていました。多様なサウンドを一枚にまとめることもコンセプトとしてあったんですか?

NK-OK:そこが自分たちのシグニチャーだと思ってる。BLBのコンセプトの土台になっているのは、スティーヴィー・ワンダーの『Songs in The Key of Life』。あのアルバムはいろんなジャンルの音楽が入り混じっている。しかも、信じられないクオリティだよね。あの時代はあらゆるジャンルの音楽家たちが、自分の作品のなかにいろんなジャンルを取り入れるチャレンジをしていたと思う。だから、僕らもいろんなジャンルを渡り歩くような実験をしたい。それに、BLBはまだまだ発展途上だから、様々なジャンルを出入りすることで自分たちの音楽的なボキャブラリーを広げていきたいって思いもあるね。

―今回のアルバム『Motherland Journey』はアフリカやカリブのルーツを意識したサウンドが印象的です。ここではアフリカン・ディアスポラみたいなコンセプトもあったのかなと想像しますが。

NK-OK:まさにそうだね、タイトルにもそれが反映されている。以前、ガーナにMVを撮影しに行ったとき、オフの時間でクラビングをしていた。その時にすごく衝撃的だったのが、ガーナのクラブにいろんなジャンルを組み合わせてかけるDJがいたこと。まさに自分たちがこれまでにやってきたこと、自分たちのめざすコンセプトそのものが、クラブのセッティングで行われていて。あれには本当に驚いたな。サウンドシステムも素晴らしかったし、ベースの鳴りも尋常じゃなかった。それに何より、様々なジャンルがどんどんミックスされていく感覚が、アフリカ系の人たちが歩んできたジャーニーを思い起こさせるようなものでもあった。僕らが(自分たちのルーツでもある)西アフリカに戻ってきたことを深く実感し、自分たちの腰が(音楽に合わせて)自然と低くなるような経験だった。そして、あのときクラブで体験した音楽に比べたら、自分たちの音楽はまだまだミックスの仕方が甘いんじゃないかって思うようになったんだ。

―もともとBLBの音楽にはアフロビーツの要素もあったし、NK-OKはサックス奏者Kaidiとのコラボで『The Sounds of Afrotronica』というアルバムも発表していたり、アフリカの音楽と熱心に取り組んできた印象です。

NK-OK:最初に西アフリカの要素を取り入れてみたのは、モーゼス・ボイドやヌバイア・ガルシアも参加した「Pineapple」という曲(『Xover』収録)。当時、アフリカ的なサウンドをもつ曲はこれだけで、「ファンからの反応がいい曲だな」くらいに思っていたけど、気づいたらBLBにとって最大の人気曲になっていた。

その後、アフロビーツにも意識的に取り組むようになり、だったら現地の素晴らしいアーティストにも声をかけることにして、ゲットーボーイやキルビーツが参加することになった。しかも今回は、フェラ・クティのアカペラまで(音素材として)使えることになった。この許諾が下りたときは驚いたよね。「ぜひ使ってくれ」とメールの返事が来てから3カ月間、どうすべきか悩んで音源に手が付けられなかったくらい。そうやってシーンに足を踏み入れていくと、もっと実験的なことをやりたいと思うようになるし、そういうチャレンジも楽しかった。アフロビーツにはシンプルさがあって、そのシンプルさゆえの難しさが最も大きな挑戦だったと思う。




フェラ・クティのアカペラを使ったタイトル曲「Motherland Journey」

―『Mother land Journey』を作る際、影響を受けたアーティストは?

NK-OK:近年はWizkidの『Made in Lagos』を聴きまくっていた。このアルバムはアフロビーツのドラム・プログラミングのお手本みたいなサウンドだから。初めて聴いたときはぶっ飛ばされたよね。



―ドラム・マシーンと言えば、このアルバムではドラマーがセッションしているようなビートに驚きました。正直、ドラマーなのかプログラミングなのか聴き分けられないくらい。そして、Mr DMもこれまで以上にソロをたくさん弾いてますよね。今までの作品と比べて、ライブ感が突出しているように思いました。

NK-OK:いろんな人から「本当はドラムセットを叩いているんじゃないか?」って言われるんだけど、実際はすべてプログラミングなんだ。僕はスネアドラムの音作りだけでも2時間かけて作り込む。ドラムをヒットする一つ一つの音を強弱を変えたりしながら、その一音一音にふさわしいニュアンスで打ち込んでいく。なるべくリアルなドラム・ビートにしたいからね。そもそも僕の楽器に関する経歴を話すと、最初はジャンベから始めたんだ。その後にドラムセットに行って、そこからプロダクションへと移行した。でも、ずっとプロダクションをやってきたら、今度はドラムが恋しくなってきた。だから、ドラム・マシーンをサンプラーとしてではなく、楽器として使うことを思いついた。それが僕のビートの特徴になっていると思う。








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Mr DM:今回、ライブっぽい音作りにしたのはロックダウンの影響もある。あの時期のロンドンでは、閉塞感に耐えられなくなった人たちが公園で息抜きをしていた。そこでは楽器を奏でている人たちが大勢いて、演奏を聞きつけたミュージシャンが次第に集まりだして、自然発生的にジャム・セッションが生まれていた。もちろんソーシャルディスタンスを保ちながらね。僕らも公園で演奏したし、誰かが演奏している光景を眺めていたこともあった。そこでの素晴らしい体験が、今回のアルバムの方向性を決めたんだ。








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ブルー・ラブ・ビーツ
『Motherland Journey』
発売中
詳細:https://Blue-Lab-Beats.lnk.to/Motherland_JourneyPR

Translated by Takako Sato

 
 
 
 

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