折坂悠太が語るサム・ゲンデルの影響、記名性から解き放たれた音楽のあり方

折坂悠太(Photo by Masato Yokoyama)

折坂悠太にインタビューを行う前に、『心理』と、その約1年半ほど前にリリースされたドキュメンタリー作品『めめ live recording H31.04.03-04』を聴き、レビュー記事を書いた。“重奏”というグループとの録音であるこれらの作品に表現された音楽は、歌や楽曲と同等に、個々の楽器の音やそれらが織り成すアンサンブルや響き、録音された空間の空気や気配が大切にされていた。

それは、『心理』にフィーチャーされたサム・ゲンデルが吹くサックスの響きとも自然に重なり、さらに、ブレイク・ミルズやピノ・パラディーノが奏でる音楽にも繋がっていると感じられた。このインタビューでは、折坂悠太自身がシンパシーを表明している彼らの音楽との関係や“重奏”との演奏から、『心理』というアルバムが生まれた背景を掘り下げた。


—『心理』に参加しているサム・ゲンデルに先日、インタビューをしたところでした。まず、彼の参加の経緯から伺えますか。

折坂:元々、私が凄く好きで。一番最初に聴いたのが『4444』で、それからずっと聴いていました。2018年の来日で、私のライブに足を運んでいただいて、その時、ご挨拶して、一緒に何かやれたらいいんですけどと話も少ししました。それで、このタイミングでお願いしようと思い切って連絡して、リモートで録音が出来たという感じですね。


サム・ゲンデルが参加した、『心理』収録曲「炎」のMV


サム・ゲンデルはLA拠点のサックス奏者/ギタリスト/シンガー。2018年作『4444』を経て、近作は米名門レーベルNonesuchからリリース。「現代のアウトサイダー・ジャズ」(Pitchfork)と評され、コラボワークの数々でも注目を集めている。

—彼の音のどの辺りに惹かれたのでしょうか?

折坂:ライ・クーダーのライブ・セッションに参加していますよね。ライ・クーダーもサム・ゲンデルもどっちも好きだったんですが、その時に、サムさんの持っているアンビエントや現代音楽的なアプローチが、自分も傾倒しているようなルーツ・ミュージックの上で、ああいう風に鳴っていることが合わさった時に、自分の音楽的な感覚が凄く開けた感じがしたんです。サックスという生楽器を使いながら、そのアイデンティティ、記名性、そういうものから凄く自由になっている。身体性みたいなものを損ねることなく、だけど多様に変化させていて、空間的にだったり、温度感とか、一音一音に共感できるなといつも聴いていて思ったんです。



—折坂さんは『心理』に影響を与えた作品として、サム・ゲンデルも参加したピノ・パラディーノとブレイク・ミルズの『Notes with Attachments』を挙げてましたが、その影響について伺えますか?

折坂:バンドとして楽器を重ねていくという考え方ではなくて、まだ音を持っていない音楽そのものみたいなものに対して、その楽器が持つ個性をすごく純粋に使って、だけど、方法論からは自由で、解き放たれていて、純粋に音、音質そのものを形のない音楽を象るために添えている感じ。もの凄く新しいというよりは、昔から聴いている音楽でもそういう風に感じるものがいっぱいあるんですけど、あのアルバムで衝撃的だったのは、そういう音像って、もうちょっとぐちゃっと一体化している感じもするんですけど、すごくはっきりと聞こえてくる。音質とか音像は過去のいろいろな音源からはさらにグレードアップしているような状態で立ち現れてくる感じがして、そこに凄く衝撃を受けたんです。

自分も音楽をやる上で、自分の声もそうですし、バンドの各セクションもそうなんですが、その楽器が持つ方法みたいなものから、ちょっとずつ自由になって、そうやって作って行けたらいいなと思っていたので、一つ、そういう方法を提示してもらったように思います。


『Notes with Attachments』はディアンジェロとの共演で知られるベーシストのピノ・パラディーノと、ボブ・ディランの最新作にも参加したギタリスト/プロデューサーのブレイク・ミルズによるコラボ・アルバム。自身の特集が組まれたミュージック・マガジン2021年10月号で、折坂は本作について「21年上半期の事件として記憶に残る」とコメント。

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