「ゾンビランドサガ リベンジ」主題歌・挿入歌の制作者が語る、音楽の力とアイドルアニメの新境地

「激昂サバイブ」「大河よ共に泣いてくれ」についての話

ー音楽と映像が合っているって意味だと、加藤さん作曲の第4話挿入歌「激昂サバイブ」のライブシーンも素晴らしいですよね。

加藤:「激昂サバイブ」に関しては、作曲半分と編曲全般をやらせていただいたんですけど、佐藤とも相談する中でああいう形のロックになって。ただ僕の世代っていわゆるハードロック、ヘヴィメタル全盛の時代で、ミクスチャー的なものは次の世代の人たちの音楽だったんです。なので作り方としては、サビの歌いあげるメロディとアレンジ全般を先に提示しつつ、作曲を一緒に担当したKOMUさんのミクスチャー的な要素が入り込む余地を空けてお渡しして作ってもらいました。コラボで作っているとうまくいかないことが多いんですけど、あれに関しては、僕より少し若い世代のミクスチャー文化に触れてきた人のエッセンスと、ばっちりドッキングできたかなぁと思ってます。



佐藤:いかにコードを動かさないかみたいな話し合いをしましたよね(笑)。はじめ、割とちゃんと歌謡曲してましたもんね。

加藤:最初はもっと僕の曲っぽくて、コードが動く感じのメロディだったんです。ラップの後ろもコードがガンガン動いてたんですけど、ちょっと違うなぁって話を佐藤として。僕も洋楽のミクスチャーとかを改めて聴いてみて、なるほどなって。音数もそんなに多くないし、あんまり要素が入ってないんですね。なのでそれを参考にさせていただきつつ、サビはコテコテに歌謡メロディで。第1期の時もそうなんですけど、純子の歌声をいかに響かせるかってところに頂点を持ってこないといけないと思っていたので、盛り上がるところを先に作らせてもらってからラップパートのかっこいいところをKOMUさんの感覚でガッツリ入れてもらったので。あれもフルサイズを聞いていただくと、より世界観がわかっていただけると思いますね。

佐藤:アレンジ的にも今まで加藤裕介がやってきていないトラックなので、もう単純に楽しくて(笑)

加藤:ヘヴィメタルに関しては好きで学生の頃聴いていたんですけど、仕事としてなかなかああいう割り切ったものを作る機会はなかったので、僕も楽しかったですよね。あとはアニメのストーリーでたえちゃんのドラムソロが入ってる部分を、どういうふうに聞かせるか。最初ドラムだけが出てきて、バーンとバンド全体が出てくる流れ自体、あの形になるまでにいろいろと紆余曲折があったと思いますね。ほぼ佐藤が苦労して、なんとかあの形に持っていったんですけれども。


「ゾンビランドサガ リベンジ」第4話より(©ゾンビランドサガ リベンジ製作委員会)

佐藤:レコーディング前までに、どうしたらこういう演奏をできるようになって、尺も合わせられるのかって議論を2人ですごいして(笑)。で、最終的にはドラムの川口千里さんに全投げしました(笑)。

加藤:(笑)

佐藤:結果それが一番早かったって話なんですけど(笑)。世の中的には別に新しいことでもなんでもないと思いますが、「激昂サバイブ」は僕ら的にはすごく新しいやり方だったんです。この曲が一番話し合ったんじゃないですか?

加藤:そうかもしれないですね。時間自体は「大河よ共に泣いてくれ」とかの方がずっとかかってるのですが、内容についてのディスカッション量はもしかしたら一番かもしれないですね。あとは、ラップパートはKOMUさんとコラボさせていただいたんですけど、皆さんに注目していただきたいのは、歌パートの作詞はma-sayaさんがされているというところ。僕からみてもちょっと世界観が違うんですね。KOMUさんのラップの世界観と、ma-sayaさんの歌の世界観、2人の異なる世界観で一つの世界が構成されている。例えばサビの途中なんかで、歌の隙間からラップが出てきたりするところも、いい感じにまとまっているんです。フルサイズを聞かれる際には、そんなところに注目していただきたいなって、全体のアレンジをしながら思ってましたね。

ーそれはぜひライブで聴いてみたいですけどね。

加藤:ふふふ(笑)

佐藤:いやぁ、とてもハードルが上がってしまっていますよね。。そもそもドラムがいて真ん中にギターがいて、何も持たない4人がいてっていうちょっと不思議な編成のパフォーマンスじゃないですか。あれをちゃんと振りに落としているのがまず凄いなって思います。特にサビの、さくらとゆうぎりがコーラスで出てくるところの振りとかがすごく好きで。映像では豆みたいな状態でしか映ってないんですけど(笑)。あれを、あんな細かくできるのは凄いですよ。モーションのダンサーさん達歌いながら踊っていて、歌詞も含めて曲を全部覚えてくれていて。それを覚えないとあの割り振りで動けないってことだとは思うんですけど……。ライブ時は歌い分をこんなにトリッキーにしてごめん、とか思いながら多分ライブ終わるまではずーっと申し訳ない気持ちでいるんだろうなと思います。

一同:(笑)。

佐藤:いつやるのかわからないですけど(笑)


「ゾンビランドサガ リベンジ」第4話より(©ゾンビランドサガ リベンジ製作委員会)

ー先ほど、ディスカッション量の多かった「激昂サバイブ」以上に、「大河よ共に泣いてくれ」の制作時間が長かったとお話しされていましたが、この曲ではどんな制作過程を踏んだんでしょうか?

加藤:「徒花ネクロマンシー」が70年代から80年代前半までの古き良きアニメソングを目指していたのに対して、「大河よ共に泣いてくれ」では次の時代のアニメ主題歌的なものを目指そうということで始まったんですね。だけど最初そこに僕の表現したい熱さみたいなものが合わなかったんですよ。で、いろいろ試行錯誤した結果、最初の頃に作曲していた曲はボツにしたんですけれども。僕としては今回もオープニングの主題歌を担当させていただけることになった時に、やっぱり第1期の「徒花ネクロマンシー」がお陰様で皆さんに好評をいただいていたというところから、どうしても入りがちになってしまって。それですごく個人的に印象に残っているのが、ティンパニ禁止令というものがありまして……。



ーティンパニ禁止令?(笑)

佐藤:そんな話しましたね、私(笑)。

加藤:ティンパニという楽器は、それこそ「徒花ネクロマンシー」的な、荘厳にガーンと盛り上げるときに使う楽器なんですね。それで最初の頃は、極端に言うと“徒花ネクロマンシー2”みたいな方向に行きがちだったんです。それでティンパニ禁止という話が出た時に、あ、もう要は、「徒花ネクロマンシー」の手法を完全に0にした状態で今回は作るんだなっていうのが実感としてわかったんですよね。前から言われてはいたんですけどいまいちピンと来ていなかったものが、ティンパニ禁止令で割とわかりやすく理解できた。そのあたりからいろいろやっていく中で、もう1から別の曲を作ろうって話になったんですよね。ただそうは言っても「ゾンビランドサガ」の主題歌は、やっぱり熱く盛り上げたいってところがあるので、違う手法で熱く盛り上げるように作った曲が「大河よ共に泣いてくれ」なんです。音数というよりは音の種類、使っている楽器が全く違うので、「徒花ネクロマンシー」とは違う盛り上げ方をした形で、最大限メロディを聞かせる曲を作りました。

ーティンパニ禁止令がきっかけだったんですね(笑)。

佐藤:今まで割とティンパニを使っていることが多くて(笑)あと「徒花ネクロマンシー」の印象もすごく強くて。メロディは置いておいても、各時代で楽器の使い方とか、音色の選び方みたいなところでなんとなくのトレンド感ってあると思うんですよね。それが、急激に新しく作るといったところで、かじを切れたというか。しかもモノシンセそのままを使うわけじゃなくて、昔みたいにスタジオ行ったら壁一面にシンセサイザーが置いてあって、全部MIDIで同期して走ってて繋がってますみたいな考え方で作ってもらっています。「大河よ共に泣いてくれ」ってシンセがすごくシンプルなフレーズになっているんですけど、思いの外音色自体はレイヤーされていて。オケヒットも含めて、一音色では出せないものになっています。音色に至っては、普通にDTMをやっている方が、この音色って何使ってるんだろうって思っても、多分探し出せないかもしれないです。細かいこだわりがあって、そういう意味でもすごく昔っぽいですね(笑)

加藤:ちょうど80年代後半から90年代前半くらいまでって、シンセサイザーが隆盛してきた頃なんですよね。アニソンに限らず、それまでの時代の「徒花ネクロマンシー」で目指していたような音域は、大きいスタジオにみんな収容して、なんなら指揮者もいて、バッと一発で録って、ギターをダビングしてっていう、いわゆるアナログレコーディングの世界観。打って変わって「大河よ共に泣いてくれ」で目指したのは、シンセサイザーを駆使する時代の音楽。ただピコピコいっているだけだと厚さは出ないので、ある程度ロックの要素を入れながら、さっき佐藤が言っていたみたいないろんな音をレイヤーして音色を複雑化していく手法を取り入れてる。そこで一番見落としがちなのは、メロディまであっさりしてしまわないようにするってことで。あくまでもメロディは熱くってところに気をつけましたね。なので世界観は違うけど、「徒花ネクロマンシー」にも熱量は負けないものができたのかなと思ってます。

ーボツ曲もどういう曲だったのか聴いてみたいですけど。

佐藤:たぶん、いつかこっそり世の中に何かしらの形で、生まれるかもしれません(笑)。別にその曲自体が悪いわけではなくて、僕は曲としてはとても好きだったんですけど、テンポ的なこととかいろいろあったので。

加藤:まぁでも落ち着くまでに、半年ぐらい紆余曲折がありましたよね。

佐藤:そうですね。

加藤:その間一個だけ仕事していたわけではないにしても、半年もの時間を一つの目的地に向かって使ったのは、もしかしたら僕がプロになってからはじめてかもしれません。

ーそういうやりとりって基本的には、SNSだったりメールだったりでするのか、どこかに集まってするんですか?

佐藤:いや、ほとんどメールで音源を送ってもらって確認後に電話してって感じで、最終的な細かい音色の詰めとかは、加藤の自宅に一回だけ行って詰めていったことはありますね。でも基本的に曲のやりとりは電話ですね。

加藤:基本、僕と佐藤の場合は電話が多いですね。一言で済む話はパッとLINEとかできますけど。

佐藤:大体どうしましょうって話をしてますね(笑)。

加藤:そうですね(笑)。で、意見が違うと、たまに論戦がはじまったりもするんですけど。まぁ、そんな感じで10何年やらしてもらっているので、僕にとってはもう、音楽はそうやって作っていくものって形になってますね。

佐藤:途中で加藤さん、ちょっと心折れかけてましたもんね(笑)

加藤:今回はいろいろと、最初に話したような壁もあったので……。

佐藤:「ゾンビランドサガ」の話をいただいた当初、加藤裕介を中心に音楽をやってほしいってオーダーで始めたので、ここまでやっておいて例えば、第2期のオープニングを違う人がやるのはどうなんだっていう僕の思いも正直あったし、加藤裕介ならできると思っていたので。途中でちょっと心折れかけてましたけど、いやいやいや、いけますよって説得しつつ。でも最終的には、満場一致でこれでしょうみたいな曲になったので、結果よかったなって思います。

加藤:できないとは思ってないんですよね。ただあまりにもお待たせしている状況だったので、一言、僕で大丈夫ですかっていう意味で。基本的には僕も楽天的というか、自信過剰な方だと思ってるんですけど(笑)。

佐藤:今回はすごいそういうのが多かったですよね。「ChouChouture」もそうだったじゃないですか。これ僕じゃない方がいいんじゃないか、みたいなくだりが発生して(笑)

加藤:言ったかなぁ?(笑)。例えば僕の得意ではないジャンルのオーダーがくると、本当に僕がやっていいの?っていう意味で確認はすることはあるかもしれませんね。

佐藤:「ChouChouture」は3つ4つ作りましたもんね。

加藤:でもいくつ作っても、ちょっと違うなって思う曲はボツにして、ちゃんと合うものができるまで作らせてもらえるのが、すごくこの作品のありがたいところですよね。時間とか予算の都合で表現したいものをとことん追及させてもらえない作品もある中で、やっぱこれだけ音楽を大事にしてもらってみんなが納得するものができるまでとことんやらせてもらえるのは、作曲家冥利に尽きるなって気はします。

佐藤:普通は待ってもらえないですからね。はじめ、2020年の夏かな、気温が暑いうちに聴きたいですよね、って話が現場であって。そこから気づいたら冬になるっていう(笑)だからよくそこまで待ってもらえたなっていうのは、正直思いましたね。

ー今、クリエイターとしての作品の面白さを話していただいたんですが、いち受け手としての「ゾンビランドサガ」シリーズの魅力って、他のアニメ作品と比べてどういうところにあると感じますか?

加藤:やっぱり第1期から言えることとしては、音楽がテーマのアニメはいろいろあれど、ここまで表現がとんがったアイドルアニメはなかったんじゃないかなって思います。あと、ありがたいことに第1期を受け入れていただいた皆さんのおかげで、「ゾンビランドサガ リベンジ」ではより挑戦的な表現が出来るようになっていた気がします。僕が手がけたもの以外でも、例えばいきなり第1話から、ローカルな社歌でオープニングが始まるっていう。シナリオの時点から、よりみんなが何も恐れず表現されてるんだなって思います。普通に僕らも音楽に必要な情報以外はいただいてない状態でOAを見たりしますので、見て「おおなるほど、攻めてるな」って部分がより「ゾンビランドサガ リベンジ」になって増えて、単純に面白かったって思います。

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