トーキング・ヘッズのティナ・ウェイマスが名人たる所以、鳥居真道が徹底考察

より具体的にいうと、『ラバー・ソウル』や『リボルバー』あたりの「ベース弾くのめちゃ楽しい‼︎」という喜びに満ちた演奏に近いものを感じます。曲でいえば「Nowhere man」や「And Your Bird Can Sing」などです。これらの曲は、リアルタイムのソウルやR&Bのグルーヴを意識しつつも、メロディックにフレーズを動かすような演奏になっています。とはいえ、サービス精神旺盛なポールに比べると、ティナの場合はドナルド・ダック・ダン的なシンプリシティに重きを置いているように見受けられます。

トーキング・ヘッズのリズム隊は、そのミニマリストぶりから察するに、ブッカー・T&ザ・MGズの影響が強いのだと思われます。60年代中頃、英米のロック・バンドの多くがスタックス・サウンドに憧れていました。ビートルズもそうです。『リボルバー』をメンフィスのスタックス所有のスタジオで録音するなんて計画もあったそうです。トーキング・ヘッズもアメリカ南部のソウル・ミュージックに憧れを抱くロック・バンドの系譜にあるといえます。

1stアルバムのうち、最も有名なのは「Psycho Killer」でしょう。リズム隊はそれこそアル・ジャクソンとドナルド・ダック・ダンのようなスタイルで演奏しています。それゆえに、おなじみのベース・リフも60年代中頃のソウルが元ネタになっているとなんとなく考えていました。しかし実際は、アルフレッド・ヒッチコック監督の代表作『サイコ』のとても有名なシャワーシーンで流れる曲なのだそうです。言うまでもありませんが、作者は、バーナード・ハーマン。テレビでもよく使われるので誰もが耳にした経験があるはずです。あの不安を煽るような不協和音の連続が、「Psycho Killer」の元ネタだったとは。



当然、ティナの美点は他にもあります。それはドラムの演奏を輝かせるタイムコントロールです。それぞれの太鼓およびシンバルの音にどのタイミングで音をぶつけたら、それらの音が一つの塊として効果的に響くのか完全にマスターしているようです。

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