Official髭男dism「Cry Baby」に見る、めまぐるしい転調とダイナミックな物語

official髭男dism(Courtesy of ポニーキャニオン)

Official髭男dismのニューシングル「Cry Baby」が大きな話題となっている。今年2月の「Universe」に続いて、気鋭のライター/批評家・imdkmが考察。

去る5月7日に配信リリースされたOfficial髭男dism(以下、ヒゲダン)の新曲、「Cry Baby」。アニメ『東京リベンジャーズ』の主題歌でもあるこの曲、リリースされるなり、ちょっと異様な反応を巻き起こしている。

まず語り草になっているのが、転調の多さだ。作曲した藤原聡本人も、「今回の『Cry baby』は、「鬼のように転調してやろう!」と思って作っています。たぶんですけど、フル尺で10回くらい転調してるんですよね」と語っている(『東京リベンジャーズ』公式サイト掲載の対談より)。リスナーもこのポイントがとにかく気になっているようで、YouTubeやSNSで話題になっている。



じっさいこの曲、これでもかと転調する。しかも、転調によってドラマチックに場面を転換するというよりも、世界がぐんにゃりと曲がるかのような奇妙な効果をもたらしているのが面白い。マイナーで展開していくAメロ~Bメロからサビでがらっとメジャーになるのはいかにも劇的でわかりやすいけれども、サビの途中で転調する「ぐんにゃり」感はなかなか独特だ。

この「ぐんにゃり」感、おもしろいだけじゃなくて、サビの歌詞に貫かれる主題とよくマッチしていると思う。

この曲のAメロやBメロは、具体的な情景や主人公の心情が軸になっている。最初のAメロは特に見事で、1行ごとに鮮烈な映像を喚起しつつ、主人公と「お前」とのバディ感を過不足なく伝え、そこはかとない「負け犬」の哀しみも湛えている。それに対してサビは、そうした具体的な情景や心情を前提とした意志の表明になっている。繰り返し味わってきた苦渋を振り返りながらも、“腐り切ったバッドエンドに抗”い、リベンジを誓う。この曲のなかに勝利の影はつゆほどもないのだけれども、不思議と清々しい。

曲がることのない意志を力強く綴るサビの言葉は、「ぐんにゃり」とした転調をものともせず進んでいくメロディと組み合わさることで、いっそうまっすぐに響く。どれほど世界のフレームが変わっていったとしても、意志だけは揺らがないのだ。さらにこの意志はかなりねばっこい。“土砂降りの夜に 誓ったリベンジ”とバシッとキメる1番サビの簡潔さを最後の最後にも期待すると裏切られる。これだけ強力で印象的なフレーズでもまだ足りないとばかりに、実に6小節ほどのダメ押しのフレーズが挿入されるのだ。しかもここでもまた転調して、さらにまた転調して戻る! このしつこさ、生半可な“誓い”なんかでは収まらなさそうだ。

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