オルタナを蘇らせるUK大型新人、ドライ・クリーニングの映画みたいな結成物語

デビューアルバムに潜む「内面的モノローグ」

ショウは、たくさんの言葉や文章を準備してリハーサルに臨んだ。「昔描いた絵に添えた言葉や、スマホに残したメモ、日記、広告で見かけたキャッチコピー、自分が思い付いた文章などを集めたの。面白かったわ」と彼女は言う。そして他の3人がプレイする楽器に合わせて、彼女は用意した文章を次々と朗読した。「準備した紙の束をとにかく必死でめくったわ。床に屈んでマイクを持って、“どうせ彼らに私の声は聴こえていないでしょう。それでも構わないわ。とにかく頑張ろう”って感じだった。でもメンバーは、“素晴らしかったよ!”と言ってくれた」と彼女は振り返る。

リハーサルに参加して、部屋を出る時には友人の組んだロックバンドのメンバーになっていた、という展開を彼女は楽しんでいるようだ。「バンドが作った曲がヒットしたりマジックが起きたりといった、よくあるバンドのドキュメンタリー映画を観ているようだった」と彼女は表現する。「自分的には、“歌い方は後で覚えればいいや”と言う感じだった」

まもなくドライ・クリーニングは、EP『Sweet Princess』をリリースしたが、収録曲の「Magic of Meghan」は話題を呼んだ。歌詞は、ショウがその頃夢中になった2018年のハリー王子とメーガン・マークルとの結婚をテーマにしている。「精神的に苦しんでどん底にいた私は、気を紛らわせるために王室の結婚物語にのめり込んでいた」と振り返る。彼女は「数週間は自分の私生活のことは忘れ、彼らの生活について考えていた」という。その後メーガン妃は、たちの悪いタブロイド紙の見出しに悩まされることとなる。「彼女に関する報道のやり方には本当に頭にきた。イギリスのメディアには、人種差別主義が蔓延している」とショウは続ける。「あんな卑劣なやり方でしか書けないメディアは、もういい加減にして欲しいわ!」



1枚目と同じく素晴らしい2枚目のEP『Boundary Road Snacks and Drinks』をリリースしたドライ・クリーニングは、ポストパンクの老舗レーベル4ADと契約した。そしてダウスとショウは、それまで続けていた大学講師のアルバイトを辞めた。2020年3月、バンドは大西洋を越え、ブルックリンのセイント・ヴィトゥスとユニオン・プールというロッククラブで初のアメリカでのコンサートを実現させる。「喜びが爆発しそうだった」とダウスは言う。アメリカのバンドに憧れて育った彼だが、それまでアメリカでプレイしたことはなかった。「僕にとってニューヨークは、魅力たっぷりな伝説の音楽都市だ。ついにそこでのコンサートを実現できた。神聖とも言える体験だった」

バンドとしての最初の絶頂期から程なくして起きた新型コロナウイルス感染症のパンデミックにより、バンドは計画していた残りのツアーを断念せざるを得ず、彼らはロンドンへ戻った。不幸中の幸いに、その時点でデビューアルバム向けの楽曲の大部分が出来上がっていた。そこでバンドは、プロデューサーにPJハーヴェイも手がけたジョン・パリッシュを迎え、2020年の年末にかけてアルバム『New Long Leg』をレコーディングした。

デビューアルバムでドライ・クリーニングは、オーガスタス・パブロのダブ・レゲエから、ベースのメイナードがお気に入りのレッド・ツェッペリンやブラック・サバスまで、バンドが影響を受けたサウンドの幅広さを証明した。歌詞の多くは、ショウが罫線付きノートに書き溜めたものをベースに書かれている。「一度にたくさんのことを処理しきれないことだってあるわ」と彼女は言う。「例えば、“今はベイクドビーンズを作っているから手が離せない”とか、“新スタートレック以外は全く興味がない”とか。そんなことについて、思い付くままに感じたことを書いている。時には話が別の方へ向くことだってあるけれど、私にはこのやり方しかできない」

デビューアルバムからのタイトなリズムのリードシングル「Scratchcard Lanyard」を彼女は、リベンジ・ファンタジーだと表現する。「30過ぎの女性に求められる役割に腹を立てたり、うんざりした気持ちを歌っている」と彼女は言う。「子どもを産むというプレッシャーは、“今度はあなたが面倒を見る番よ”というように突然やってくる。この手の話が何でもかんでも不快だと言っている訳ではない。母親は世界で最も偉大な人々よ。でも、男の兄弟や男友だちにはないプレッシャーを突然感じることがあるという事実は、無視できない」



楽曲「Unsmart Lady」はストーナーロックのグルーヴに乗せて、人の外見をテーマに歌っている。「“デブ、ずんぐり、すっぴん”など、一般的に恥ずかしいとみなされていることについて考えてみた。そして、効果的な方法でこれらの表現を使いたいと考えた」とショウは言う。「疲れ切ってしまったり虐待を受けたり、自分にうんざりした時でも、“気にしない。大丈夫”と言って乗り切って欲しいのよ」

アルバム『New Long Leg』には、冷たく無関心な世界の中に少しでも喜びを見出そうとする姿勢が見られる。ショウの内面的モノローグは、私たちの多くが自分の殻の中に閉じ込められてきた1年強の期間をよく表しているようだ。彼女のバンドメンバーのリフとリズムが、熱気に溢れた満員のクラブに大音量で響き渡る日が待ち遠しい。

「僕らが望むのは、ライヴでプレイすること」とダウスは言う。「その日が来たらバンに乗り込んで、2025年ぐらいまで絶対に降りないぞ」


From Rolling Stone US.




ドライ・クリーニング
『New Long Leg』
発売中
詳細:https://www.beatink.com/products/detail.php?product_id=11710

Translated by Smokva Tokyo

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