『エイリアン』から『ホミサイド』まで 記憶に残る名優ヤフェット・コットーを偲ぶ

『ホミサイド/殺人捜査課』ではアル・ジャデーロ警部補を演じたヤフェット・コットー、81歳でこの世を去る。(Photo by Dave Bjerke/NBCU Photo Bank/NBCUniversal/Getty Images)



映画やドラマに安心感を与える性格俳優

1988年、彼は最高に笑える役を演じた。ロバート・デ・ニーロ、チャールズ・グローディン主演のアクションコメディ『ミッドナイト・ラン』のFBI捜査官アロンゾ・モーズリー役だ。トップクラスの性格俳優が勢ぞろいし、互いに最高の演技をぶつけ合うような映画だったが、ここでもコットーは、自身の身分が盗まれたことを知って「俺がモーズリーだ!」と咆哮する場面に始まり、最終的に標的を逮捕した時の思わずこちらも釣られそうなしてやったりという表情にいたるまで、針のふれた演技で突出している。


『ミッドナイト・ラン』のコットーとロバート・デ・ニーロ(Photo by Alamy Stock Photo)

NBCのドラマ『ホミサイド/殺人捜査課』で7年間コットーが演じたアルフォンス・“ジー”・ジャデーロ警部補は、ゲイリー・“ディー”・ダッダリオという白人イタリア系のボルティモア警察官が下敷きになっている。ドラマのプロデューサー陣は(パイロット版を監督したバリー・レヴィンソンも)コットーをいたく気に入り、つじつまを合わせるためにこの役を黒人とシシリア系のハーフという設定にした。脚本家たちも喜んでコットーのセリフにイタリア風の言い回しを織り交ぜた(ファイナルシーズンでは、実際に黒人とシシリア系の血筋をひくジャンカルロ・エスポジートが、ジーの息子のマイク役で出演した)。

もっとも、脚本家らはほとんど――制作総指揮のトム・フォンタナや、最終的にはドラマシリーズの原作の著者デヴィッド・サイモンも――コットーのために脚本を書いた。これまで彼が演じた役柄の多くは、その大きな体格を登場人物の特徴として活用した。ジーも体格のいい威圧的な役柄だったが、同時におしゃべり好きで、因習にとらわれない刑事たちを手中に収めながら、長い説教やもっともらしい訓戒を垂れた。

刑事ドラマでは、黒人上司が白人の主人公に威張り散らし、本人はほとんどストーリーに絡まないという昔からの残念な伝統がある。だが『ホミサイド』では常に少なくとも3人の非白人レギュラーキャストが登場し、一時はアンドレ・ブラウアー演じるフランク・ペンブルトンが事実上の主役を張ったこともあった。ジーも飾り物では終わらず、むしろ独立した登場人物となった。シリーズでは6人の黒人警官が同時に登場して白人が1人も出ない場面もあったし、人種の話題は一度もあがらなかった。だが、人種の問題を掘り下げたこともある。ジーが褐色の女性とブラインドデートするエピソードでは(コットーと脚本家の1人の会話をヒントに作られた)、ジーは彼女が肌の色の濃い雑種の男との交際を先延ばししている、と推測する。役者が生命力と情熱を注ぎこんだ甲斐あって、非常に奥行きのあるキャラクターだった。ドラマが打ち切られた数年後、TV映画として『ホミサイド』のキャストが再集結したが、ロングランドラマの登場人物全員を再集結させるほどの大事件といえばアル・ジャルディーロ本人の殺害だけだった(この作品でもコットーは、死後の世界のシーンをはじめ、記憶に残る名場面を演じている)。

カメレオンのごとく様々な役を演じるがゆえに愛され、次はどんな役を演じるのか楽しみだ、という性格俳優がいる。かたや、毎回同じような役柄をきちっとこなすがゆえに、映画やドラマに安心感を与える性格俳優もいる。コットーは後者のタイプに属するだろう。これまで業界で50年以上も警官役を何度となく演じてきたことを考えればなおさらだ。だが、彼はその巨大な体躯を当たり前のようにあらゆる役柄に押し込め、まるでイディ・アミン大統領をリアルに演じた。リチャード・プライヤーやハーヴェイ・カイテルと共演した『ブルー・カラー/怒りのはみだし労働者ども』でのやぶれかぶれの工場従業員や、『ブルベイカー』で演じた模範囚もしかり。ちなみに『ブルベイカー』の役柄は『スター・ウォーズ/帝国の逆襲』を蹴って得たものだが、コットーはクラウド・シティのマントに身を包むことなく、映画界で不朽の地位を得た。役柄の大小を問わず、彼は記憶に残る俳優だった。

from Rolling Stone US

Translated by Akiko Kato

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