セックス・ピストルズ「最後のライブ」から振り返る、パンクという夢の終わり

運命の日、ピストルズが見せた「限界」

そして訪れた運命の1月14日、サンフランシスコ・ウィンターランド。マルコムは米ツアー終了後バンドをブラジルのリオデジャネイロに連れてゆき、大列車強盗のロナルド・ビックスとレコードを作ろうとしていたが、これをコンサート直前に聞かされたジョニーが激しく反発、楽屋でスティーヴらと怒鳴りあいになった。ジョニーは「今夜はなにもかもぶち壊してやる」と宣言、メンバーは険悪な状態のままステージに上がった。

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ジョニーの「ロンドンへようこそ」というMCに始まる演奏は不安定極まりない。ギターのチューニングが狂っていて、おまけにアンプの調子が悪く音が途切れる。プレイは不安定でミスを繰り返し、やる気なさげにダラダラと続く。シドはしばしばベースを弾くことをやめ、古臭いロック・スターのポーズを決めることに忙しい。客席からはしょっちゅうモノが投げ込まれ、客はステージに無秩序に乱入する。演者も客も集中力、一体感を欠いていた。そんな中、ジョニー・ロットンだけが、語尾を強調し吐き捨てるような独特のロットン節全開で、迷走するバンド演奏の中で孤軍奮闘を続けている。まさに消えゆかんとするバンドの生命を、彼ひとりが必死に押しとどめようとしているようにも見える。その冷え冷えとした孤立感と空回り感が、見るたびに辛い。

演奏は後半に行くにつれ徐々にまとまりが良くなり、タフでソリッドなパンク〜ガレージ・ロックンロール・バンドとしてのセックス・ピストルズの実力の片鱗を見せるようになる。だがそれだけに、このバンド、このメンバーの限界がはっきりと見える。この演奏がこの先行き場のないどん詰まりであることがわかるのだ。アンコールのストゥージズ「ノー・ファン」のカバー演奏の終盤、ステージにうずくまったジョニーの虚脱したような、諦めきったような、疲れ切ったような寂しげな表情が印象的だ。

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