TikTok米国利用禁止、どうなる音楽業界?

TikTokの今後が定まらないなか、トランプ政権が期日と定める11月12日までに同アプリが譲歩する(あるいは戦いに勝利する)可能性もある。「米政府への提案として、私たちは前例のないレベルの透明性を追加し、ほかのアプリをはるかに凌ぐ説明責任を果たしてきました。そこには、第三者による監査、セキュリティコードの検証、政府による米国内のデータの安全性の監視が含まれます」とTikTokの広報担当は指摘した。「さらに、全サービスおよび米ユーザーのデータをはじめとする米国事業の維持とオペレーションは、米ITプロバイダーが責任を持って行います。私たちは、適正な手続きもなく実施され、表現と生活の手段を提供する重要なプラットフォームを国民および全米の中小企業から奪った、不当な大統領令に今後も異を唱え続けます」。

仮にTikTokが数週間、あるいは永遠に消え去ったとしても、米国における類似アプリのニーズは依然として高いだろう。Triller、Byte、InstagramのReel、Dubsmash、さらには我々がまだ知らない開発中の音楽アプリなど、音楽マーケティング担当は喜んで別のアプリを選ぶに違いないが、これらのポテンシャルについては消極的な意見も多く聞かれる。

それは、デジタルを得意とするマーケンティング担当の多くがTikTokのテクノロジーの右に出るものはいないと考えているからだ。このテクノロジーは、無名の人物を取り込んで瞬く間にブレイクさせるアルゴリズムに支えられている。何人かのマーケティング・スペシャリストは、TikTokと比べてほかの音楽アプリは楽曲を軽視していると考えている。TikTokは動画アプリを謳っているものの、実際は極めて優れた音楽発見マシンでもある。そのため、代替アプリがヒットメイカーになるには、まだまだ力不足なのだ。

TikTokに飢えた人々の代替アプリとして最有力なのは、Trillerかもしれない。実際、先日TikTokの使用が禁止されたインドでは、Trillerのダウンロード件数が急増した。だが、マーケティング担当は、どちらかというとTrillerが“トップダウン式”のアプリであると語る。企業とレーベルが協働しながら話題の動画を選ぶため、無名の新人が入る余地がないのだ。「Trillerはそこまで優れたプロダクトではありません」とあるデジタルマーケーティング担当は語った。

ほかの選択肢はどうだろう? 「Byteもそこまで優れたプロダクトではありません」と同じ担当者は言い添えた。「TikTokのライバルにあたるInstagramのReelには、ひょっとしたらチャンスがあるかもしれません」。しかし、Reelは限られた国でテストが始まったばかりだ。「少し前からDubsmashは話題にもなっていません」と彼は言うが、実際には新規ユーザーが増加している。

結局のところ、TikTokの最大の強みは——おそるべきアルゴリズムはさておき——単純にオーディエンスの規模と紐づいている。同アプリは音楽リスナーのコミュニティを集約した(全世界のダウンロード件数は20億を超える)。これは、音楽業界がアグレッシブにターゲットとしている人々だ。米国がTikTokの使用を禁止しても代替アプリがすぐに登場する、あるいはそれが同じように機能する確証はない。音楽リスナーがさまざまなプラットフォームに分散されるような状況になると、さまざまなファン層にリーチするのにいまよりも根気とコストが必要になる。

「誰もが同じゴールを追いかけるでしょう」とあるマーケティング担当は言った。「実際、音楽ファンはどこに行くのでしょう?」


Translated by Shoko Natori

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