アジア首位テンセントが唯一出資できない大手音楽会社ソニー、その戦略とは?

ここでテンセントに再登場してもらおう。過去4カ月にわたり、テンセントは世界3大レコード会社のうち2社の少数株を取得してきた。3月の株式取得(34億ドル)によってユニバーサルミュージック・グループの株式の10%、6月の株式取得(2億ドル)によって、NASDAQにワーナーが上場した直後に同グループの株式の2%を手に入れた。さらに忘れてはならないのは、株式交換によってテンセントはSpotifyの約9%の株式も所有している。

多くの人は、次のように予測した。テンセントの大計画は、音楽業界でもっとも影響力のある全グローバル企業の少数株を手に入れることだと。これは、いくつかのライバル(TikTokの運営元であるバイトダンス(ByteDance)など)の音楽業界での立場を観察する限り、テンセントに特等席が与えられるような状態かもしれない。これによってテンセントは、自社が運営するデジタルサービス——その代表例が中国最大の音楽ストリーミングプラットフォームであるQQ音楽——とレーベルとのライセンス契約にまで影響を及ぼすこともできるのだ。

しかし、ソニーの最近の動きはテンセントの大計画にとっては思わぬ障害かもしれない。ソニーの音楽事業(ロブ・ストリンガーCEO率いる、同事業を統括しているソニーミュージックとジョン・プラットCEO率いるソニー・ATV)がいまだかつてないほど親会社のバックアップを得るなか、テンセントが株式を手に入れるとは考えにくい。

この状況をユニバーサルと比較してみよう。3月の取引の条件としてテンセントはユニバーサルのさらに10%の株式を買収できただけでなく、ユニバーサルの親会社であるヴィヴェンディが2023年に新規株式公開を通じて別の音楽事業を設立する際にさらなる株式を手に入れられる結果となった。

世界3大レコード会社は、一様にライバルとの差別化を模索している。だからこそ、最新の年次報告書で「もっともタレント・フレンドリーな音楽会社」を豪語するソニーもほかの2社によって権利を主張される可能はある(たしかに、保有していたSpotify株を売却して得た資金をアーティストやレーベルに還元するという2018年の判断は称賛に値するが)。

筆者が思うに、音楽業界におけるソニーの真の差別化は、同社が年次報告書でぜったい明言しない2点に最終的に絞られるのではないだろうか。ひとつは、「One Sony」という計画。そこにエピックが加わったいま、この計画は特定のアーティストにクロスメディアというキャリアを約束できる(アデルやビヨンセのようなソニー所属アーティストが「ストライサンド効果」によってこの10年以内にオスカーを勝ち取る姿が浮かぶ)。

もうひとつは、いまやソニーは、テンセントの息がかかっていない唯一の大手音楽会社ということだ。

・【コラム】メジャーレーベルを待ち受ける5つの脅威


著者のティム・インガムは、Music Business Worldwideの創業者兼発行人。2015年の創業以来、世界の音楽業界の最新ニュース、データ分析、雇用情報などを提供している。ローリングストーン誌に毎週コラムを連載中。


Translated by Shoko Natori

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