世界的ヒットメイカーの仕事術とは? ジョシュ・カンビーに学ぶ音楽づくりの最先端

「裏方」として成功するには? 音楽づくりの哲学

―ところで今更ですけど、ソングライターってどんなことをやる仕事なんですか?

ジョシュ:えっと(笑)。

―というのも、今日のヒットチャートでは、一つの曲に複数の作家が参加している曲の方が一般的ですよね。さっき話に出た「Sunny Days」も、あなたとトビー、アーミン・ヴァン・ブーレンの他に、ソングライターやプロデューサーとして何人かクレジットされています。

ジョシュ:そうだね。

―そんなふうにチームを編成する「コーライティング」が曲づくりのデフォルトになってから、作曲とプロデュースの境界線がちょっと曖昧になっているような気もして。そういうなかで、ソングライターの役割とはどういったものなんでしょう?

ジョシュ:もしかしたら、僕が法務の勉強をしすぎたのかもしれないけど……著作権の観点から考えると、「ソングライティング」とは歌詞と歌メロを書くということ。「ソング」とは歌詞とメロディのことだ。例えば「虹の彼方に」というソングは、ストリングスでもギターでもなく、正に「somewhere over the rainbow〜♪」っていう、あの歌詞と歌メロのことだ。だからソングライターとは、その部分を担っている人のことだね。

もちろん、プロデューサーや(曲の)トラックを作った人、演奏したミュージシャン等々、その他の要素を担っている人達がみんないい仕事をしてこその「ソング」なのは間違いない。ただ、今日の定義は少し幅が広がりすぎている気はする。プロデューサーって仕事はそれ自体が素晴らしくて、誰にでもできることじゃないんだから、曲を書いたというクレジットまでもらわなくてもいいんじゃないかな。それが僕の見解だ。

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―ソロとして自分の曲を作るのと、チームの一員として誰かの曲を作るのでは全然違うものですか?

ジョシュ:場合にもよるかな。誰かとコラボレーションする時は、具体的に要求されるものがあるから、ビートを提供することもあれば音楽的なアイディアを出す時もあるし、あるいは歌詞を手伝う時もある。いつもは3人も4人も制作者がいる中の1人として仕事をしているから、自分なりの意見やアイディアがあっても、それが採用されるとは限らない……というか、そもそも自分の考えが(曲に)最も相応しいとは限らないので、みんなの意見を聞いて「なるほどねー」と学んでいるわけ。

かたや自分の音楽を作る時は、そうやって学んだことをどんどん生かしていく。例えば「Brave Enough」っていうシングルでは“もう一度傷つく勇気を持てば、前に踏み出せる”という歌詞がまず先にあって、これが映画だとしたら、どんな場面でどんな映像だろうか……っていうふうにイメージを膨らませていったんだ。

―そんなふうに、自分のなかで映像が浮かぶことはよくあること?

ジョシュ:そうだね。ただ、思っていたのと全然違うところにたどり着く場合もある。僕が思うに、曲を書くうえで一番見失ってはいけないのは、目指す先ではなくて、曲を書き始めた時の気持ち。「自分でも理解できない、この気持ちを伝えたかったから……」っていう動機が必ずあるはずで、それを最後まで見失わずに書ければ良い曲になるはずだよ。


2ndシングル「Brave Enough」は、人恋しいクリスマスイブに予期せず学ぶことになった人生の教訓を、アナログシンセと独特なパーカッションで描いた楽曲

―ちなみに、ソングライティングとスタジオ作業のどっちが好きとかあります?

ジョシュ:曲を書くのは、たぶん僕にとってカタルシスなんだと思う。自分で歌う曲なら、そこはひとりでやりたい。いわばセラピー的な行為だね。それに対して、音作りのプロセスはとにかく楽しい。僕はとんでもないオタクだから、音をいじってたらいつの間にか何時間も経っていたりする。良い音ができると「こいつはクールだ!」って、スタジオでひとり飛んだり跳ねたり踊ったりしてるんだ(笑)。

―プロデューサー、ソングライター、シンガーなどいくつも帽子を被りこなしていますが、自分の肩書きは何だと認識していますか。

ジョシュ:僕としては、その時々で曲の求めに応えられる存在でいたいと思っている。複数が関わるプロジェクトであれば、僕の出番は少ないかもしれないけれども、その狭いなかで求められる最大限を発揮して曲を良いものにしたい。そのなかにトビーみたいな人がいたら、彼が能力を発揮できる環境を整えるのも僕にできる仕事だ。一方、自分自身のプロジェクトであれば、このクレイジーな脳味噌をどう回転させたら良いものができて、それが仲間やレーベルやマネージメントにどんな作用を及ぼすかを考えている。

―そこまで!?

ジョシュ:僕の周囲には、ここまでずっと付き合ってくれた、愛とリスペクトで繋がっている仲間が大勢いるんでね。自分が作った作品が、彼らの仕事にも良い影響を与えられたら嬉しいじゃない?

―そんなふうに考えられるのは、やはり音楽制作の裏も面も見てきたからですか。ソングライターを目指す若者がいたとしても、いきなりそこまでは想像が及ばないでしょう。

ジョシュ:うーん……でも、プロセスを楽しめないと続かないんじゃないかな。ソングライターに限らず、この世界で燃え尽きてしまった人を何人も見てきたけど、そういう人達は結果しか見ていなかったんだろうね。まあ、誰だって成功したいに決まってるけど、仕事の大半はプロセスでできているわけで、そこを楽しめないと辛いと思う。1カ月間、毎日10時間ぐらいスタジオに詰めて30曲書いたとして、それらがレーベルや出版社から全て拒絶されたとしても、「書いてて楽しかったからいいや」と思える人は正しい道を進んでいる。そう思えない人は、やり方をどこか変えなければいけないだろう。成功しなくても楽しめるかどうかがポイントだね。

Translated by Kazumi Someya

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