屈指の存在感と歌唱力の持ち主、桑名正博をプロデューサー寺本幸司が語る

内田裕也からかかってきた電話「この裏切り者め」

・桑名正博「哀愁トゥナイト」


田家:「J-POP LEGEND FORUM」寺本幸司特集。今週は4週目、桑名正博さんを語ってもらっています。寺本さんが選んだ2曲目。77年のシングル「哀愁トゥナイト」。

寺本:桑名がファニー・カンパニーを解散して約1年ちょっと、加賀テツヤと組んでバンドをやったりしていたんだけど、東京に出てきて『Who are you?』でアルバムを出して、そのあとにいよいよ勝負するぞって出したのがこれなんですね。

田家:作詞松本隆、作曲筒美京平。これは勝負作で、満を時してこれで世の中変えてやるんだという気概があって作ったシングルだった。

寺本:まったくそういう思いでやりましたね。

田家:でも当時のロックファンの中には、筒美京平さんはあっち側の敵だみたいなイメージもありましたし、松本隆さんはもともとはっぴいえんどなんだけど、歌謡曲を書くようになって、なんとなく松本さん最近どうなのみたいな空気もなきにしもあらずだった。この曲はいろいろな議論の対象になりました。

寺本:僕はいいものはいい。歌謡曲もロックもくそもない。ロックはスピリッツだ。

田家:魂のヴォーカリストだ。

寺本:そう。というふうに思い込んでいましたから、そういう勝負に出た曲ですね。

田家:そういう寺本さんの気概。これで世の中を変えてやるんだ、本物のヴォーカリストを見せつけてやるんだ、という意図は、必ずしも思ったとおりに伝わったわけではなかった。

寺本:でもね、いわゆる歌謡曲というジャンルかどうかわからないけど、いいセールスをし始めたんですね。そういうとき、夜中の2時頃に電話が鳴りまして、「お前、桑名を歌謡曲歌手にするつもりか!」って内田裕也さんからかかってきたんですよ。ああ、また酔っ払って電話がかかってくるんだと思って。歌謡曲とかなんとか関係ないじゃないですか! って言ったら、この裏切り者めって言うんですよ。

田家:ああ、言いそう(笑)。

寺本:その前にファニー・カンパニーでさんざん彼と一緒に組んでキャロルとやっていましたから、そう言ってきましたけど、ある意味では歌謡ロックっていうジャンルをこの曲で作ったと思ってます。同時に、大阪のファンも裏切ったんだっていう感じをちょっと受けた曲ではあります。

田家:大阪のファンから直接そういう声が届いたってことは?

寺本:まだこの頃は売れ始めだからびっくりしている感じで、来なかったんですよ。

田家:桑名どうしちゃったんだって感じだった、と。

Rolling Stone Japan 編集部

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