U2奇跡の来日公演 『ヨシュア・トゥリー』完全再現で炸裂した4人だけのマジック

U2、12月4日にさいたまスーパーアリーナにて(Photo by Yuki Kuroyanagi)



さて、さいたまスーパーアリーナ公演の初日・12月4日は、ステージ上のヨシュア・トゥリーからのびた影をかたどったせり出しに、4人が勢揃いしてスタート。ここでいきなり「サンデイ・ブラッディ・サンデイ」「アイ・ウィル・フォロー」「ニュー・イヤーズ・デイ」を矢継ぎ早に披露し、序盤から場内を一気にヒートアップさせる。容姿こそ各自齢相応に渋みを増したが、いざ音を鳴らせば、初期と寸分違わないシャープな“U2ならではのサウンド”を即座に再現。当人達にしてみれば難なくやっていることなのだろうが、空間だらけなのに隙間を感じさせない絶妙なバランス感覚と間合いを見せつけられて、ああ、自分は今生でU2を観ているのだな、という実感がこみ上げてくる。

続いて「ピースメイカー、名もなきヒーローたちのために」と前置きしてから演り始めた「バッド」では、途中にデヴィッド・ボウイの「ヒーローズ」をチラッと歌う。そしてキング牧師に捧げて書いた「プライド」でオーディエンスの合唱を誘った後、メンバーはせり出しから歩いてステージへ移動。後方の巨大LEDスクリーンが威力を発揮し始める……いよいよここから『ヨシュア・トゥリー』パートの始まりだ。


Photo by Ross Stewart


Photo by Yuki Kuroyanagi

レコーディング中、いくらやってもうまくいかないことに腹を立ててイーノがテープを全消ししそうになった……という伝説で知られる「ホエア・ザ・ストリーツ・ハヴ・ノー・ネイム」の印象的なリフが聞こえるや、オーディエンスの熱狂は最高潮に。気が付くとボノはラリー・マレンのドラムの後ろに立って煽り、スクリーンにはタイトルと呼応したどこまでも続く路地の風景が。このツアー用にアントン・コービンは『ヨシュア・トゥリー』のジャケット写真を撮影したポイントを再訪して景色をカメラに収めており、我々を旅へと連れ出してくれる。続く「アイ・スティル・ハヴント・ファウンド・ホワット・アイム・ルッキング・フォー」ではボノが客に歌を任せる場面が増え、場内はチャーチさながらの様相に。ここまでは元のアレンジに忠実な演奏だが、「ウィズ・オア・ウィズアウト・ユー」はやや崩し気味に、違った角度から気持ちを入れて歌おうと試みているように見えた。

圧巻だったのは「ブレット・ザ・ブルー・スカイ」からの流れで、ザ・フォールに着想を得たという不穏な曲調、引きずるようなヘヴィ・ファンクのリフに、ささくれたスライド・ギターが流れ込んでくる。フレット上にスライド・バーを走らせるジ・エッジの背後には、照明を担いでにじり寄ってくるボノ……『魂の叫び』(1988年)のジャケや同題の映画で見た、あのボノ&エッジそのものじゃないか!


Photo by Ross Stewart

次の「ラニング・トゥ・スタンド・スティル」は、アルバムでは乾いたアコースティック・スライド・ギターをフィーチャーしていたが、この日はエッジがキーボードに向かい、ラリーもスティックをマレットに持ち替え、より柔和なアレンジで披露。ここだけ背景の映像を止めてメンバーの演奏に集中させる構成になっており、メリハリのつけ方が実にうまい。エッジがキーボードに向かったまま、曲は「レッド・ヒル・マイニング・タウン」へ。こちらもアルバムとはタッチがやや異なる柔らかめのアレンジで、スクリーンに登場する救世軍のブラス・バンドと寄り添った演奏が新味だった。

ここでボノが「B面へようこそ!」と告げて、「神の国」がスタート。シングル・ヒットした他の曲と比べても遜色のない、U2のポップ性がよく出た曲だと思うが、何故かチャートでの成績は振るわなかった。ここでボノはアントン・コービンへの謝辞を挟む。ボノがラリーに「アントンをひと言で表現して」と無茶振りすると、すかさず「エクスペンシヴ」と返して笑わせるラリーの機転が素晴らしかった。

アルバムではそれほど目立つ曲ではない「トリップ・スルー・ユア・ワイアーズ」も、この時期の彼ららしい、土臭い演奏が印象的。必要以上にルーツ探究路線に進むことはしなかったU2だが、そちらの道もありだったのでは、と一瞬思わせる、リズム隊の円熟味溢れるグルーヴが心地いい。


Photo by Ross Stewart


Photo by Ross Stewart

前述した、ニュージーランドで急死したスタッフの葬儀をモチーフにして書いた「ワン・トゥリー・ヒル」では、ボノが感極まったように「グレッグ・キャロル」とその名をつぶやく。ここでの見せ場はラリーのドラミングで、シンコペーションを強調して情感豊かな楽曲へと磨き上げてきた。このバンドのエンジンがドラマー=ラリーとベーシスト=アダム・クレイトンからなるリズム隊であることは、生で観ると生々しく実感できる。このラインがしっかりしているからこそ、その上でボノとエッジは好きなように動きまわり、絵を描けるのだ。

そして曲は、いわくつきの「イグジット」へ。ノーマン・メイラーやトルーマン・カポーティの小説にインスパイアされ、ボノが殺人者になりきって歌うこの曲は、不幸にもある殺人事件の加害者に「あの曲に触発された」と証言され、しばらくの間セットリストから消えていた。映画『魂の叫び』で「ヘルター・スケルター」を演奏した際、「マンソンからこの曲を取り返したぜ!」と豪語していた彼らにとっては皮肉な話だ。そうしたもろもろを振り切るように、悪のペルソナを正面から演じ切るボノ。映画『ジョーカー』を観た後なのかもしれない、と思わせるムーヴもところどころで見せていた。

その「イグジット」から明転、希望を込めてじっくり噛みしめるようにボノが「マザーズ・オブ・ザ・ディサピアード」を歌い切ると、メンバー4人は再びせり出しへやって来て客席へ一礼。ここで『ヨシュア・トゥリー』の続編的なアルバム『魂の叫び』から、ロックンロールの聖地サン・スタジオで録音した記念すべき1曲、「エンジェル・オブ・ハーレム」を披露して一旦幕、という実に心憎い演出だ。

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