国内外の豪華アーティストとコラボした新作EP『Same Thing』が大ヒットを記録中の星野源。11月23日からは念願のワールドツアーもスタート。新たな境地へと向かう星野の2019年ここまでを、初の著書『リズムから考えるJ-POP史』を刊行した気鋭のライター/批評家・imdkmが考察。初々しさが剥き出しになった『Same Thing』10月14日に星野源がリリースしたEP『Same Thing』は、これまでの活動のなかでも意表を突く一作だった。なにしろいままで試みてこなかったコラボレーションに乗り出したのだ。それもあって、同作は星野がアルバムごとに築いてきた円熟味を一度リセットしてしまったかのような初々しさに満ちている。スーパーオーガニズム、PUNPEE、
トム・ミッシュ。それぞれのコラボレーターに思い切って身を任せ、相手の色に染まるのを楽しんでいる様子が思い浮かぶ。
もし3曲だけ並べていたら、星野源の作品としてまとめるにはちょっと難しかったかもしれない。スーパーオーガニズムのお家芸といえる大胆なエディット、PUNPEEのオフビートなフロウを踏まえたラップ、トム・ミッシュのチル感覚……等々、各々のサウンドが持つキャラクターに「あえて抗わない」星野源の力の抜け方が面白い。
しかし、シメにシンプルな弾き語りの「私」がおかれることで、一種の所信表明としてのまとまりが感じられるようになっている。いわば『POP VIRUS』までのキャリアをいちど脇においての仕切り直し。それがこのような肩の力の抜け方で届くことに意義がある。
「世界」という「近所」に乗り出す星野源EPまでを振り返ると、2019年はある意味激動の年になった。2019年8月30日には待望されていたサブスク参入を発表。同時に、Beats 1 Radioで日本人として初めて番組ホストを務める。また、Netflixで最新のライヴ映像作品「星野源 DOME TOUR "POP VIRUS" at TOKYO DOME」も
配信開始した。
とはいえ、2018年の
『POP VIRUS』にもその前兆はあった。コンセプトの面から言えば、「イエロー」(『YELLOW DANCER』)から「ポップ」(『POP VIRUS』)へ、という転換は、「イエロー≒日本」というくくりを相対化するものと言える。サウンドにおいてもバンドサウンドを軸としつつ、エレクトロニックなサウンドを要所要所に取り入れて、一気にモダンな手触りをモノにしている。
そんな作品を聴いたら、「ゆくゆくはサブスク解禁を含めたグローバルな展開があるのではないか」と思うのも無理はないでしょう。思ったよりも早く
その展開が訪れたので驚いたが。
いきおい、ついに世界へ進出か、と期待をかけてしまいそうになるけれど、ラジオやインタビューで星野は「近所」という表現を使う。ここが重要な点だろう。
あらかじめどこかのマーケットを目指す(たとえばビルボードのHOT100をめざしましょう、とか)のではなく、あくまで作り手同士、リスナー同士の自発的なネットワークを信頼する。EPでのコラボレーターはみんな、星野源がもともと知己を得ていた人たち。企画のために、作品のためにフックアップしてきたわけではない。
EPの力の抜け方は、そのネットワークを活用するために、星野源がこれまで築き上げてきたポップスターとしてのしがらみをちょっとずつ脱ぎ捨てている過程、というふうに思う。
とまあ、いくら仰々しい「世界」ではなくむしろ「近所」なのだ、と言っても、星野源が世界に提示したい日本像というのは少なからずあるだろう。その点、Beats 1の番組
「Pop Virus Radio」でまっさきにかけた日本の曲が(自身の曲を除けば)DOOPEESの「DOOPEE TIME」だったことは興味深い。コスモポリタンな架空のユニットによるコンセプチュアルなアルバムから、アメリカのコメディドラマの主題歌をサンプリングしたキュートな一曲。これもまた星野の言う「イエローミュージック」の範例なのだろうか。