ソランジュも魅了した「別格」の天才肌、カインドネスの集大成に高橋芳朗が迫る

洒脱なセンスが光る、2ndアルバムでの飛躍

また、『World, You Need a Change of Mind』にはジャジーな「Bombastic」やアニタ・ドブソンの1986年のヒット曲のカバー「Anyone Can Fall in Love」など、ちょうど再評価の兆しが見え始めたAOR的なアプローチも見受けられたが、前作から一転して多数のゲストを起用して作り上げた2014年リリースの2ndアルバム『Otherness』では、その感覚を流行のアトモスフェリックなR&Bのマナーでスタイリッシュに昇華している。




そのあたりは「Who Do You Love?」や「It’ll Be OK」といった80年代アーバン・コンテンポラリーのオマージュにわかりやすく打ち出されているが、やはりここでもカインドネスのブラック・ミュージックに対する造詣の深さがアルバムに厚みを与えている。クール&ザ・ギャング「Jungle Jazz」~ジェイド「Don’t Walk Away」の系譜を意識させるオープニングの「World Restart」も心憎いが、やはり「This Is Not About Us」でのボブ・ジェイムス「Take Me to the Mardi Gras」や「With You」でのアート・オブ・ノイズ「Moments in Love」など、ヒップホップのクラシックなサンプリング・ソースを随所に織り込んで曲にフックを生み出していく洒脱なセンスこそが彼の真骨頂。この『Otherness』の制作時、カインドネスはあのジミー・ジャム&テリー・ルイスの要請を受けて彼らの新プロジェクトに参加しているが(残念ながらその成果はまだ陽の目を見ていない)、もはや彼の手腕は16曲もの全米ナンバーワン・ヒットを生み出した史上最も成功したR&Bプロデューサーの眼鏡に敵うものになっていたのだ。

新作『Something Like a War』は集大成的アルバムに

いま、カインドネスが到達しているのはそういう境地だ。心地よいグルーヴを提供してくれるインディ・ダンス系アクトは大勢いるが、彼のように確かな見識に基づいたブラック・ミュージック/ダンス・ミュージックの血脈みたいなものをスマートに楽曲に落とし込める者は数少ない。今回のニュー・アルバム『Something Like a War』は、そんな肉体と頭脳の絶妙なバランス感覚でダンス・サウンドを構築してきたカインドネスの集大成といっていいだろう。前作の「I’ll Be Back」を発展させたようなゴスペル調のスピリチュアルなハウス・トラック「Raise Up」を筆頭にいままでになくビート感の強いダンス・オリエンテッドな内容だが、そのどれもに穏やかなソウル・フィーリングと漆黒のグルーヴが息づいている。





『Something Like a War』には、これまでの基準からはまったく異なるタイプのゲスト・アーティストがふたり招かれている。ひとりは、いまや米R&Bシーンきっての売れっ子ソングライターでもあるグラミー賞の常連ジャズミン・サリヴァン。もうひとりは、ギャング・スターとザ・ルーツから愛された90年代の東海岸ハードコア・ヒップホップを代表する女性MCバハマディア。凛としたブラックネスを体現する、この2名のキャスティングから垣間見えるカインドネスの成熟と未来は11月の来日公演でより鮮明なかたちで提示されるにちがいない。普段クールに構える彼のファンクネスがエモーショナルに湧き上がる、その瞬間を目の当たりにできる絶好の機会になる。



〈公演情報〉



カインドネス来日公演

2019年11月19日(火) 渋谷 WWW X
OPEN 18:30 / START 19:30
オールスタンディング:¥6,500(税込/別途1ドリンク代)
※未就学児 (6歳未満) 入場不可

企画・制作・招聘:Live Nation Japan
協力:Beatink

お問い合わせ:info@livenation.co.jp
公演リンク:https://www.livenation.co.jp/show/1279056/kindness/tokyo/2019-11-19/ja


〈リリース情報〉


『Something Like A War』
カインドネス
発売中
国内盤はボーナストラックが追加収録、歌詞対訳と解説書が封入

詳細:
https://www.beatink.com/products/detail.php?product_id=10320

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