死期を悟っていたドクター・ジョン、遺作となったラストアルバムの制作秘話

そして完成したアルバムは伝統的なカントリー・ミュージックに軸足を置いたものとなった。「彼は子供の頃からカントリーもよく聞いていたが、それを知る人は多くないんだ」と、セリオットが説明した。ドクター・ジョンが10代の頃から憧れていたのがハンク・ウィリアムス・シニアだった。また、ジョン・スコフィールドなどのベテラン・ジャズ・プレイヤーたちによると、ドクター・ジョンは、少なくとも80年代からずっと、カントリー調のピアノとレイ・チャールズのモダン・サウンドを掛け合わせてカントリー&ウエスタン・ミュージックをレコーディングしたい、と話していたという。今回のアルバムには、「Old Time Religion(原題)」(ウィリー・ネルソンとのデュエット)、ジョニー・キャッシュの「Guess Things Happen That Way(原題)」と「Funny How Time Slips Away(原題)」などのカントリーのクラシック曲が多数フィーチャーされていて、それに加えて「Ramblin’ Man(原題)」など、ハンク・ウィリアムス・シニアの曲もカバーしている。

「それに(ハンク・ウィリアムス・シニアの1949年の歌)『I’m So Lonesome I Could Cry(原題)』のカバーもあって、この曲を歌うマックの声を聞くとみんな涙するはずだ。このレコードの形が出来上がるにつれて、まったく意図していなかったのに、取り上げた曲に共通するのが“時間と過去を振り返る”だと気づいた。マックの歌声を聞くと、彼が人生を精一杯生きたことがわかる。最高の歌声なのだが、同時に危うさも感じさせるんだ」と、セリオットが述べた。

「歌詞の内容はカントリー風のものなのだが、完全にレベナック色に染め上げている」と、トーカナウスキーが付け加えた。

セリオットが「ホーンと女性シンガーを従えたマックのお馴染みのスタイル」と呼ぶアップテンポな新曲4曲に加え、ドクター・ジョンは自身のクラシック曲をアレンジし直して再録音している。「Such a Night(原題)」と「I Walk On Guilded Splinters(原題)」がそれで、後者はリッキー・リー・ジョーンズをフィーチャーした「トリッピー」なアレンジになっている。

セリオットは必要以上に豪華に飾ってこの作品を台無しにしたくなかったと言う。「たくさんのゲストを招きたいとは思わなかった」と。ジョーンズ、ネルソン、アーロン・ネヴィルがドクター・ジョンと一緒にプレイしている“ニューオリンズのストリートパーティー”風にアレンジしたトラヴェリング・ウィルベリーズの「End of the Line(原題)」以外は、余計な装飾を一切排除して、ドクター・ジョンの歌声とピアノに重きを置いたミックスになっている。「どの曲も彼がすぐ近くで歌っているようだ」とセリオット。

ドクター・ジョンが存命中に完成したこのアルバムを聞くことができて本当に良かったとエリオットは言って続けた。「マックはこのアルバムを聞いて、このアルバムと生きて、提案もしてくれた。これは彼のクリエーションの一つだったんだ」と。

Translated by Miki Nakayama

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