死期を悟っていたドクター・ジョン、遺作となったラストアルバムの制作秘話

完成したアルバムの詳細は、タイトルやリリース日を含めて、まだ最終決定していないが、ドクター・ジョンが存命中に彼の最後の作品が完成した。しかし、この作品を制作中のドクター・ジョンはこれが最後の作品だと感じていたようなのだ。セリオットが状況を説明してくれた。「制作開始以前のマックは、これが自分の最後のレコードになるとは思っていなかったはずだ。でも制作が進むにつれて、彼はそうなると気付いたんだと思う。

「これには本当に心が痛んだ。だってマックが僕の家にやってきたときに体調がすぐれないことが一目瞭然だったが、マックの労働倫理はオールドスクールで……つまり彼は一晩に5セットやるのが普通という労働環境で鍛えられた人なんだ。折に触れて僕にそんな話をしてくれて、マックは『やるべきことが何であれ、必ずやり遂げないといけない。だからちゃんと終わらせないとな、シャゼイン(ドクター・ジョンがつけたセリオットのあだ名)』と言っていた。『このマザーファッカーを完成させるために、やらなきゃいけないことを全部やって完成させるぞ』ってね」

この作品でキーボードを演奏したデヴィッド・トーカナウスキーは「マックはこれが最後のレコードになると知っていたよ。彼の声を聞くだけでスタジオの中がエモーショナルになった。これが最後に作るレコードだという意識が持つ独特の重みがこの作品にはあるんだよ」と語った。

ドクター・ジョンがこの作品のレコーディングを始めたのが2017年で、最初はセリオットの自宅で、次にエスプラナード・スタジオで作業を続けた。2018年初めにドクター・ジョンの体調が思わしくなくなり、エスプラナードでの2回目のセッションではついにピアノを弾くことも困難になった。「しっかりと演奏するのがかなり困難だった」と、エスプラナードのスタジオ・マネージャー、ミシャ・カクカキシュヴィリが当時を思い出して教えてくれた。

しかし、2018年3月になるとドクター・ジョンの体調は驚異的な回復を見せて、セリオットがドクター・ジョンの自宅に間に合わせのスタジオを作って、セリオットが言うところの「リック・ルービン=ジョニー・キャッシュ」方式でレコーディングできた。「必要に迫られて彼らと同じアプローチを取った」とセリオット。

Translated by Miki Nakayama

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