ビリー・ジョエルが語る、70歳を迎える心境と最近のあれこれ

―あなたとドナルド・トランプは歳が近くて、生まれもニューヨークのアウターボーロー地区です。トランプに関して、そういう類似点があるからこそ理解できる部分は何かありますか?

ない。彼は私とはまったく違う星から来た人にしか見えないよ。彼がクイーンズ生まれなのは知っている。でも、彼は裕福な家に生まれた。父親が金持ちで、息子にたくさんの金をやった。実際のところ、トランプとはまったく異なる暮らしをしている人間に対する彼の共感度がどれほどか、私にはわからない。私自身は彼に好感を持っていないから、この質問に対する答えは、理解できる部分はほとんどない、だね。

―トランプの大統領としてのこれまでの実績については、どんな感想を持っていますか?

彼の登場は、私たちを無気力や怠慢から目覚めさせるために必要な衝撃だったと思う。たぶん、人々の目を覚ますために起こるべくして起こったことで、みんなが「おいおい、こういうことが本当に起きてしまうんだな」と実感するための出来事だと思う。だって、彼が当選する前には、こんなことが実際に起きるなんて考えもしなかったからね。

―2020年の大統領選に何らかの形で関与するつもりですか?

政治的な関与はしないと思う。実は、候補者を売り込むためにセレブを利用する人たちを不快に思っている市民が多いんだよ。つまり、セレブを登場させると、引き込む人よりも離れていく人の方が多いということだ。スプリングスティーンのように、実際に候補者支援を表明する人たちには敬服するよ。スプリングスティーンは市民だし、その権利を持っている。しかし、私の経験からいうと、ライブ会場にコンサートを観に来た観客は、そこでアーティストが政治的な演説をとうとうと行うのを見ると不快に感じるんだよ。

―2017年に、トランプがシシャーロッツビルを行進した「非常に良心的な人々」(訳注:白人の国粋主義者のこと)について語ったあと、あなたはステージ衣装に黄色のダビデの星をつけて登場しました。あれは何がきっかけだったのですか?

あのとき、本当に腹が立っていた。あんなのは戯言だよ。良心的なナチスなんていない。私の父親世代はナチスを潰すために戦争で戦った人たちだ。あの連中が腕にかぎ十字の腕章をしているのを見て、あの世代が外に飛び出して、連中の頭を野球のバットで殴らなかった事実に、逆に驚いたくらいだよ。現大統領はあのとき、好機を逸したってこと。もっと重要で、もっと意味のある発言ができたはずなのに、みすみすその機会を棒に振った。

―エルトン・ジョンの引退興行が終わる前に、彼ともう一度共演したいと思いますか?

ああ、彼から依頼があればするよ、もちろん。私たちは16年間も一緒に仕事をしたし、二人で行ったコンサートは素晴らしいものだった。価値のある仕事だと思っていた。もう一度共演するかと聞かれたら、答えは「もちろん」だ。

―よく観るTV番組は何ですか?

私が好きなものは大抵の人がつまらないと思う番組だ。観るのはヒストリー・チャンネルかミリタリー・チャンネルで、ドキュメンタリー番組かニュースだよ。チャンネルを切り替えている最中に白黒映画を見つけると、必ず白黒映画でとまってしまう。どんな白黒映画でも興味を刺激されてしまうんだ。つい最近、ハンフリー・ボガート主演の『カサブランカ』を再び見たばかりだ。チャンネルをザッピングしているときに『ゴッドファーザー』を見つけたら、『ゴッドファーザー』を観る。『グッドフェローズ』を見つけたら、『グッドフェローズ』を観るという具合に、そのとき自分を惹きつけた番組を観ているよ。

―新しい音楽や作品の予定について質問されるのには、もううんざりですか?

いや、それは妥当な質問だし、今でも音楽を作っている。ただ、作った音楽を録音しないだけ。歌ものの曲ではないし、まったく異なるスタイルの音楽だよ。今作っている音楽は純粋に自己啓蒙のためのものだ。レコーディングする必要性も感じない。それを発表する必要性も感じない。さっきも言ったように、かつてはロックンロールな人生を生きていたけど、今はそういう音楽を作っていないんだ。

―でも、今でもピアノに向かって、自分のためにメロディーを作るということですか?

ああ。誰も聞いたことのない曲がたくさんあるし、その曲を録音するなり、公開するなりの決断をしない限り、今後もその曲を耳にする人はいない。自分にとって最も大事なのが音楽を作るクリエイティヴなプロセスであって、自分の曲をチャートインさせたり、レコードをたくさん売ったりすることじゃないんだ。今でも常に何かを学んでいるし、人は永遠に学び続けるものだ。曲作りプロセスの醍醐味がこの「学び」だよ。何かを作ろうとすると、必ず新しいことを学ぶからね。

―新曲を収録したアルバムは今後絶対に作らないというような声明を出したいと思っていますか?

私は「絶対に」ということは絶対に言わない。もしかしたら歌ものの曲になるアイデアが浮かぶかもしれないし、映画のサウンドトラックを作るかも知れない。シンフォニーを書き上げるかもしれないし、先のことはわからないよ。何でもありだから。

Translated by Miki Nakayama

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