音楽、文芸、映画。長年にわたって芸術の分野で表現し続ける者たち。本業も趣味も自分流のスタイルで楽しむ、そんな彼らの「大人のこだわり」にフォーカスしたRolling Stone Japanの連載。11回目を迎えた今回は、数々の映画やドラマで「熱い男」を体現してきた佐藤隆太。「芝居がうまくいかないとき、落ち込んだときは、本当に音楽に助けられてきました」と語るように、大好きなバンドの曲とともに歩んできた彼の俳優人生、その軌跡を追う。Coffee & Cigarettes 11 | 佐藤隆太「お話しできるような、ドラマティックなエピソードは何もないんですよ」
小首を傾げてタバコに火をつけると、少し照れ臭そうに笑いながらそう話し始めた。佐藤隆太、39歳。宮本亜門の舞台『BOYS TIME』でデビューを果たし、映画『海猿』シリーズやTVドラマ『ROOKIES』で押しも押されもせぬ人気俳優に。最近は芝居のみならず、CMやドキュメントバラエティのMCとしても活躍するなど、マルチな才能を発揮している。
「幼い頃からTVを観るのが好きで、知らず知らずのうちにブラウン管の向こうの世界に惹かれていました。当時はまだ“演じる”という概念はなかったけど、TVに映し出されるいろいろな世界に興味を持っていたのだと思います。映画を観に行くようになったのは、中学から高校へ入る頃。そこで初めて“役者”というものを意識するようになって。“やっぱり僕はこの道に進みたい”と明確に思いましたね」
Photo = Kentaro Kambe映画はスクリーンで観るべき。そんなこだわりを持っていたが、高校時代は野球をやっていたためアルバイトもできない。当然、映画を観る金などなく、通学電車の網棚に置き去りになった雑誌を片っ端から拾っては、試写会の応募ページだけをもらっていった。帰宅するなりハガキを書いて、応募しまくったという。
「だから元手は一切かかってないんです(笑)。そのかわり“これが当たったかぁ……”みたいなこともあるわけです。自分でお金を出して観るとしたら選ばないような作品。でも、観たら意外と面白かったりして。そんな発見が僕の視野を広げてくれた気がします。このときの体験がなければ今よりずっと、狭い世界にいたかもしれない。」