ジョン・スペンサーが爆走し続ける理由、『ベイビー・ドライバー』から振り返る過去と現在

―最近、世界的にロックの人気が下がっていると言われていますが、そういった状況についてどう思いますか?

売上に関して言うなら、それは気付かなかったな。本来なら把握しているべきなんだろうけど(笑)。俺にとって今でもロックは生き生きとしているし、下降なんてしてないよ。確かにレコードは売れなくなったかもしれないけど、みんなコンサートに行くしね。

―音楽の聴かれ方が変わったことについてはどう思いますか?

音楽が大量生産されて広く流通されるようになって以降、聴かれ方は常に変わっているよね。元々は楽譜だったし、それからラジオが生まれて、LPがあって、CDがあって……技術、製造、流通、すべてが常に変わってる。CDが出てきたときは「LPはどうなるんだ?」って言われたし、もう長くは続かないと思われてたよね。

―そうですね。

そういうふうに音楽の消費のされ方は変わっていくものなんだ。個人的にはまだLPを買うのが好き。Spotifyも、俺はヘヴィユーザーではないけど使いやすさの点では素晴らしいと思う。でも、たくさんの楽曲がある一方で、多くのミュージシャンはそこから利益を得られていない。もちろん、何人かはそれなりに儲けられているんだろうけど、少なくとも俺はそうではない。でも、一度ドアを開けたらまた閉じるのは難しいよね。一度ただで手に入れられたら、再びそれにお金を払う気にはならない。

―確かに。

ひとつ面白い話があって、去年の夏にこのソロプロジェクトでアメリカをツアーしたんだけど、ライブのあとに物販を売ってたら客の何人かが近寄ってきて、何も買ってないのに俺に10ドルとか20ドルを渡そうとするんだよ。だから、「いいよ、そんなの渡す必要ないよ」って返したんだけど、そういうことが何度か続いて。そうしたらバンドメンバーのサム・クームズが「それは“Spotifyマネー”だよ」って。罪の意識からくるお金だって。みんなストリーミングサービスで音楽を全部タダで聴いているから、自分の好きなバンドのコンサートを観に行くときに、そうやってお金を渡してくるんだよ。チップみたいなものだよね。

―ええ~、それは興味深い話ですね。

でも、いつもじゃないよ? 2、3回ぐらい。最初は「なんでみんなお金を渡そうとするんだ?」って思ってた。あとは、15ドルのTシャツを買うために20ドルを払ってきて、お釣りを渡そうとしたら「いいよいいよ、とっといてよ」って言われたり。

―今後、日本でもそういうことが起きるかもしれないですね。さて、昨年11月にリリースしたソロ作『スペンサー・シングス・ザ・ヒット』ですが、「I Got the Hits」のMVがシュールなショートムービーのようで面白いですね。

「I Got the Hits」と「Do the Trash Can」のビデオはアレックス・イタレックスっていうロサンゼルス在住の映像作家が監督したんだ。「I Got the Hits」は、名前は忘れちゃったけど、とあるフォトグラファーからインスピレーションを得ていて、彼は一見すると平凡な風景を撮っているように見えるんだけど、よく見てみるとまったく普通じゃない。街を歩き回って撮ったようなものではなくて、上手くデザインされたシュールな写真なんだ。そういうちょっと気味が悪いものからインスピレーションを得てる。それでこのビデオも、俺と歳をとった紳士が同じ家に住んでいて、次第に変なことが起こり続けて……っていう内容になってるんだよ。






Photo by Yoshika Horita

Jon Spencer Setlist
2019年2月20日 恵比寿リキッドルーム

Alien Humidity
Wilderness
Overload
Pretty Fuck Look(プッシー・ガロア)
Time 2 Be Bad
Ghost
Dang(JSBX)
Beetle Boots
New Breed(プッシー・ガロア)
Cape
Love a handle
Tough Times(サム・クームズ)
Shirt Jac(JSBX)
I Gotta Hits
Do The Trash Can
Loveless(ヘヴィ・トラッシュ)
Roadrunner(モダン・ラヴァーズ)

*アンコール
Hornet
Jus Wanna Die(プッシー・ガロア)
Polish A Turd(サム・クームズ)
Bellbottoms(JSBX)
No Count(プッシー・ガロア)



ジョン・スペンサー

『スペンサー・シングス・ザ・ヒッツ』
発売中
https://www.sonymusic.co.jp/artist/jsbx/discography/SICX-114

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