ポートランド出身「フォーク界待望の逸材」と称されるヘイリー・ヘンドリックスの素顔

シカゴ公演のタイミングに合わせ、ヘンドリックスと音楽学校で会う約束をしていたが、セントルイスからの交通渋滞に巻き込まれてしまい、代わりに生花店で待ち合わせることにした。何とも粋な計らいだ。とくに、彼女はツアーのせいでお気に入りの庭を台無しにしてしまっていたのだから。店のオーナーが、欲しいものはないかとやたらと世話を焼いてくる。彼女のアクセントはどこから来たのかと尋ねるオーナーに、「心配性だからよ」と答える彼女。言葉のトーンが違っていたら、不思議ちゃんだと思われたかもしれない。

歌詞の中でも、ヘンドリックスは独特な思考やユーモアを発揮している。「Fish Eyes」と名付けられた彼女のファーストシングルは、両親の香港での最初のデートを歌った曲だ。彼女の歌はどれも、失望の粒が数珠つなぎに連なっている(「ミルクを腐らせちゃった/大学は自主休校/ずっと怪しいと思っていたの/私が夢見ていたことすべて」)。白昼夢から零れ落ちてきたような歌ばかり。昔むかしのおとぎ話。小さな昆虫やハチ、お化けやオリーブの物語。

曲を書くためには沈黙が必要だと、彼女は打ちあける。「ルームメイトもだめ。他人の声が聞こえてくるのが危険なの。私はじっくり考えてものを作るタイプ。世の中には騒音がありすぎるわ。メディアの騒音も含めてね」

ツアーに出るのもお気に召さないらしい。「ライブは大好きよ。でも、時々自分の歌に操られているみたいな気分になる。本当は新しい曲を作りたいのに。最初の2か月は地獄だったわ」ツアー中jは曲作りなんてできないと、その時に悟ったと言う。あちこちから出演オファーが殺到するとは思ってもみなかったようで、彼女とチームはキャパオーバーの状態だった。「なんでもかんでも『いいわよ』って言っちゃったのよ。こんなに注目されるとは思ってもいなかったからね」

『I Need to Start a Garden』は、地元の小さなレーベルMama Bird Recording Co.からリリースされた。「うちのレーベルも私も、従来の音楽業界のやり方には興味がないの。才能があって、やる気のある仲間たちと仕事をするのがしっくりくるわ」

7月が過ぎ、もうすぐ8月を迎えようというころ、ヘンドリックスはツアーを一段落させてしばし故郷へ戻ろうと計画していた。徐々に物価が高くなる街では、どこからお金を引っ張ってくるかがアーティストたちの悩みのタネだ。「家に帰るのが怖くなっちゃう。メディアでは調子いいように取り上げられてるけど、ポートランドに戻ったら、仮住まいのトレーラーハウスを探さなくちゃいけないんだもの」

アルバムについて語っていると、曲作りが懐かしくなると言うヘンドリックス。「2年前の女性についてしゃべってる気分よ。だけど、この女性は」と、今現在の自分をさして彼女は続けた。「自分が本当に好きなことができずに、イライラしてる」

近々新曲を書きたいという彼女だが、「でも、それっきりかも。そうじゃないといいけど」 そのために、彼女は毎朝誰よりも早起きして、1日1曲、新しい曲を作ることを日課としている。「お遊びみたいな曲だけどね」

だが当面彼女には、デビューアルバムという力強い味方がいる。アルバムの核となる「Oom Sha La La」は、ガーデニング事始めを歌った曲だ。「私たちのヒットソングよ」とヘンドリックスはコンサートで冗談めかしていうと、ムーグ担当のLily Breshearsが「クラブでノれる曲よ」と、付け加える。世知辛いこの時代にガーデニングのことを叫びあげるとは、感性が鋭いというか、なんともワイルドだ。

ヘンドリックスは別れを告げる前に、友人への贈り物のサボテン選びを手伝ってくれた。ふと、植物を枯らす原因の大半は水のやりすぎだということを思い出した。ヘンドリックスもその通りと頷く。「みんなそう。過保護なのよ。どう扱っていいのか分からないんだわ」

Translated by Akiko Kato

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