toeが語る9年ぶりのアルバムに込めた「希望」、ポストロック最高峰バンドの現在地

toe

 
toeが通算4作目となるフルアルバム『NOW I SEE THE LIGHT』を完成させた。

単独名義としてはEP『OUR LATEST NUMBER』以来6年ぶり、フルアルバムとしては『HEAR YOU』以来、実に9年ぶりの作品となる。2020年に完成した美濃隆章のプライベートスタジオ「oniw studio」を拠点に制作された本作には、山㟢廣和がボーカルを担当した4曲を含む全10曲が収録され、ゲストとしては児玉奈央が「WHO KNOWS?」にボーカルで参加し、徳澤青弦が3曲でストリングスのアレンジを担当。山㟢と美濃による2本のギター、ボトムを支える山根敏史のベース、記名性抜群の柏倉隆史のドラムが絡み合うtoe独自のアンサンブルはもちろん健在であると同時に、さらなる進化を示している。

もともとポストハードコアのシーンを出自に持つ4人が集まって2000年に結成されたtoeは、間違いなく日本のポストロックを代表するバンドである。ただ、2009年にリリースした『For Long Tomorrow』の時点ですでに90年代のネオソウルやヒップホップへの愛情を語っていたように、彼らはシーンの枠組みにとらわれることなく、メインのソングライターである山㟢のリスナー的な資質を反映させたリリカルでエモーショナルなグッドミュージックを作り続けてきた。各メンバーがそれぞれの仕事を持ち、リリースの間隔がどれだけ空いたとしても、音楽ファンから長年愛されている理由はそこにある。そこで今回の山㟢へのインタビューは、彼の近年のリスニング傾向から話を始めることにした。


山㟢廣和(Photo by Yoshiharu Ota)

―いきなり古い話で恐縮なんですけど、僕が初めて山㟢さんに取材をさせてもらったのが2009年の『For Long Tomorrow』のリリースタイミングで。当時山㟢さんは90年代のネオソウルやヒップホップ、ディアンジェロやJ・ディラを影響源に挙げていたと思うんですけど、2010年代に入るとディアンジェロが新作を出して、ネオソウルのリバイバルが起きたり、ジャズやヒップホップの文脈からかっこいいアーティストがどんどん出てきましたよね。山㟢さんはそういった流れをどの程度追いかけていましたか?

山㟢:ディアンジェロは来日したとき見に行ったし、やっぱりJ・ディラとかはベーシックに好きなんですけど、ここ何年かですごく好きだなと思ってよく聴いてたのは、シャイロ・ダイナスティですね。XXXテンタシオンがサンプリングしたりしてましたけど、一時その関連をよく聴いてました。ぽそっとしたヒップホップみたいなのが好きなので。フランク・オーシャンとかダニエル・シーザーとか、ああいうのはやっぱりいいなと思うし、自分らがやってるようなギターが入ったバンドはあんまり聴いてないけど、デブ・ネヴァーとかクレイロとか、エリオット・スミスの現代版みたいなUSインディの人たちは結構好きですね。




―USインディ系で言うと、2010年代にはペレ時代から親交のあるコレクション・オブ・コロニーズ・オブ・ビーズのメンバーがボン・イヴェールと組んだヴォルケーノ・クワイアでの活動がありましたが……。

山㟢:ボン・イヴェールは大好き。

―ジャスティン・ヴァ―ノンとも交流があったりしますか?

山㟢:直接はないですね。ヴォルケーノ・クワイアが日本に来たとき(2010年)は見に行ったけど、そのときはまだそこまでボン・イヴェールも知らなくて、ペレのクリス(・ロゼナウ)の紹介で1回挨拶したぐらいですね。



―新しいアルバムでは山㟢さんが4曲で歌っていて、ジャスティン・ヴァ―ノンっぽいとまでは言わないけど、悲しみが通底しているような雰囲気には通じるものもあるなと。

山㟢:裏声になるとそれっぽく聴こえちゃうのかもしれません。歌ものだとチェット・フェイカーもすごく好きで。結局俺らは別に全てにおいてオリジナルな音楽をやってるわけではなくて、自分が考えた「いい音楽」、自分が考えた「かっこいい組み合わせ」みたいなものを、自分のバンドでやってみたらどうなるのかな?みたいな感覚でずっとやってて、サンプリングの感覚に近いのかも。それこそボン・イヴェールのあの感じでこれをやりたいんだとか、チェット・フェイカーのあの歌のこの辺をもう1回繰り返したい、その中にトリステザのあのギターの感じを入れてとか、俺の中ではそういう感じ。「自分の中から出てきた新しい音楽を作りました」みたいな気持ちは全くないので、いろんなところに似てる部分は絶対あって。逆に「僕たちの音楽は今までにない音楽です」って言ってる人は、ちょっとうさんくさいなといつも思っちゃいますね。



―2018年にリリースされた『That’s Another Story』にはceroの荒内くんによる「Song Silly」のリミックスが収録されていました。2010年代におけるネオソウルのリバイバルにいち早く反応して、独自の音楽を作り出した日本のバンドの筆頭がceroだと思うので、個人的には「ようやくこの2バンドが邂逅した!」と思って嬉しかったし、先ほどのサンプリング、組み合わせでオリジナルな音楽を生み出すという意味では、まさにceroもそうだなと。

山㟢:ceroは僕が一方的にすごく好きで、カクバリズムで出したときから超かっこいいと思ってたから、リミックスしてくれないかなと思って頼んだ感じでした。やっぱりすごいですよね。天才だなと思いました。




美濃隆章のスタジオで話し合った音像

―『NOW I SEE THE LIGHT』はフルアルバムとしては実に9年ぶりのリリースとなるわけですが、やはり自分たちの思うかっこいい組み合わせを目指して作っていった?

山㟢:そうですね。ずっとアルバムを出したいとは思ってたので、曲のアイデアはめちゃくちゃためてたんです。ギターのリフやコード進行、歌メロとかは携帯に何百も入ってるんですよ。ただ「録音しよう」って決めないと、それが曲にならないというか、10秒ぐらいの曲のアイデアはたくさんあるんだけど、それを3~4分の曲にする作業がめんどくさくて(笑)。だから今回「よし、作ろう」ってなったら、まずはそのストックの中からどれを曲にするかをピックアップしていきました。


左から美濃隆章、柏倉隆史(Photo by Yoshiharu Ota)

―2020年に美濃さんのプライベートスタジオが完成しましたが、録音はそこを使っているのでしょうか?

山㟢:ドラムとかのベーシックは大きいスタジオを借りて録ったけど、その後はずっと美濃くんと2人で、美濃くんのスタジオでずっと作業をしました。普通のスタジオみたいに、毎回車を頼んで機材を運んでもらってとかもないし、チャリンコで行って、一日作業して、もう1回直したかったら戻ってやるみたいな、結構気楽にできましたね。

―コロナ禍以降はホームレコーディングの割合が増えたりもしていますが、しっかりスタジオで音を鳴らして録っていると。

山㟢:今回ギターに関しては全部リアンプでやりました。最初からアンプを決めて、マイクを立てて録るんじゃなくて、最初はラインで録って、その後にいろんなアンプでリアンプを試しながら、「この曲はこのアンプのこれでやろう」みたいな感じだったので、どっちかっていうと、宅録寄りな録り方な気がします。ギターのダイナミックさはそんなに求めてないので、リアンプでも十分かなって。フィードバックさせたりとかだと、アンプの前に行かないとダメだと思うんですけど、俺らは今そういうことはやらないので。ギターのちょっとした音色とか音像の感じは、決め打ちでマイクで録っちゃうとそこからはイコライジングしか変えられないけど、リアンプさせるってことはアンプ自体を変えられて、根本的なカラーも変えられるから、やりやすかったですね。


山根さとし(Photo by Yoshiharu Ota)


柏倉隆史(Photo by Yoshiharu Ota)

―音像に関しては美濃さんとはどんなやり取りがありましたか?

山㟢:基本的に、僕は音のいい悪いが全くわからないんですよ。世間の人たちが「これはいい音、これは悪い音」って判断してるさじ加減が全然わからなくて、自分にわかるのは音像とか雰囲気のことくらい。なので、美濃くんに「この曲こうしたいんだよね」みたいな話をボソッとはするけど、まずは彼が録ったものを、彼がいいと思うバランスと音色でミックスしてもらって、そこから俺がああじゃないこうじゃないって言って、2人の考えを合わせていく感じ。

―みんなが宅録をやるようになって、立体的なミックスの音源も増えた印象ですけど、今回のアルバムは比較的ベーシックに各楽器があるべきところに置かれている印象です。でも声だったりとか、上ものに関しては面白いステレオ感になってたりもして。

山㟢:フライング・ロータスの最初のころに売れたやつとかもさ、ずっと左右交互にボーカルが鳴ってたりするじゃん? 俺はああいうのが面白いなと思って結構好きなんだけど、エンジニア的な耳で聴くと嫌なのかもしれない。なのでそこは俺もいろいろ言いつつ、美濃くんの意見も聞きつつ、最終的にこうなった感じですね。

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