藤井 風やyamaも出演、『tiny desk concerts JAPAN』知られざる番組誕生秘話

yama、『tiny desk concerts JAPAN』出演時の場面写真

 
アメリカの公共ラジオ局NPR(National Public Radio)よりライセンス供与を受け、NHKの制作で『tiny desk concerts JAPAN』が今年春より放送開始。初回ゲストに藤井 風を迎えて注目を集めると、5月よりNHKの国際放送「NHK WORLD JAPAN」でレギュラー放送がスタート。KIRINJI、君島大空に続いて、7月29日放送の第4回にはyamaが登場する。人気音楽コンテンツの日本版が立ち上げられた経緯とは? 東京・渋谷のNHKオフィスでyama出演回の収録現場を見学させてもらったあと、チーフ・プロデューサーの柴﨑哲也さんが取材に応じてくれた。


収録現場で体感した「ありのままの音」

7月某日の午後。NHK広報局の方に案内されたのは、同局エンターテインメント番組のスタッフルームの一角だった。マイクや楽器が設置されたスペースを囲むようにセッティングされた小型のカメラを、技術スタッフが入念にチェックする。赤い棚には音楽雑誌やレコード、ビデオ、「どーもくん」などNHKキャラクターの小物が飾られ、L字型に並んだ机のうえには、けん玉やNPRのロゴ入りマグカップと共に、トイピアノや鉄琴、MPCが置かれている。

オフィスの片隅を使っての収録は『tiny desk』のお約束だが、デスクとの距離は想像よりも遥かに近い。カメラの画角を少し外れると、職員が机に向かって業務に取り組む、一般企業と同じような光景が広がっている。

見学に集まったNHKのスタッフに向けて、「生声なので近くで観てください」と呼びかける声。まもなくyamaとバンドメンバーが音合わせを始めると、生々しい楽器の鳴りに周囲がざわめく。PAは一切用いず、アンプの出音も最小限。ドラマーの吉田雄介は音をミュートするため、スネアに布をかぶせている。録音の妨げにならぬよう、カメラの脇にあった小型サーキュレーターの電源もオフにされると、プロデューサーの前説を挟んで、いよいよ本番が始まった。



yamaはボーカロイド曲の歌い手というルーツを持ち、人気アニメのテーマ曲を通じて海外にもファン層を広げているミステリアスなシンガー。『SPY×FAMILY』EDテーマ曲「色彩」で幕を開けると、アンニュイで澄んだ歌声が臨場感をもって聞こえてくる。そこから「a.m.3:21」「Oz.」「偽顔」と続いていくなかで、バイオリンやチェロを含む8人編成が、『tiny desk』のために用意されたオーガニックな特別アレンジを奏でる。途中、有島コレスケの弾くギターの弦が切れるトラブルもあったが、収録はそのまま続行された。撮影はNGなしのワンテイク、それがこの番組の信条である。


yama、『tiny desk concerts JAPAN』出演時の場面写真

曲間のMCにて、イヤモニや転がし(モニタースピーカー)を用いずにライブをするのは初めての経験で、「自分の耳で生の音を聞きながら奏でるのが新鮮」と笑顔で語ったyama。そのあとに白い仮面を着けてパフォーマンスする理由や、ステージに上がるために弱さを克服していった過程をエモーショナルに打ち明ける。自分のストーリーを世界中の視聴者とシェアし、孤独感を肯定するように「ないの。」を歌ったあと、最後に披露されたのはyamaの名を一躍知らしめた代表曲「春を告げる」。軽快なイントロから拍手が巻き起こり、多幸感に包まれながらパフォーマンス及び収録が終了した。





「yamaさんはネットカルチャーという出自も令和を感じますし、他の番組でご一緒したことがあり、ボーカルの表現力が素晴らしいことも知っていたので、『tiny desk』に出演してもらったらどうなるだろうと期待しながらオファーしました」

そう語るのは、『tiny desk concerts JAPAN』チーフ・プロデューサーの柴﨑哲也さん。1992年にNHK入社して以来、『紅白歌合戦』の制作統括を務め、『SONGS』『おげんさんといっしょ』など数々の音楽番組を手がけてきた彼は、自身の役割をこのように説明する。

「番組制作を家づくりに例えると、大工さんの役割を担うのがディレクターで、僕の仕事は設計図を書くこと。どういう番組を作るのか企画して、編成と交渉して枠と予算を取り、出演者と交渉してアサインし、収録〜編集して番組というパッケージに仕上げ、広報に協力してもらいながらパブリシティする。そうやって番組が生まれるところから送り出すところまでの全部をまとめ上げるのがプロデューサーですね」

そんな柴﨑さんは『tiny desk』の日本版を立ち上げる前、テレビの音楽番組のあり方について「このままでいいんだっけ?」と危機感を抱いていたという。

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