君島大空 合奏形態インタビュー この4人で演奏することが特別な理由

君島大空 合奏形態(Photo by Kana Tarumi)

うだるような暑さのなか、フジロック初日(7月28日)のFIELD OF HEAVENに登場した君島大空 合奏形態の4人は、出番直前のサウンドチェックから音の実験に取り組んでいた。君島(Vo, Gt)、西田修大(Gt)、新井和輝(Ba)、石若 駿(Dr)の4人がフジロックに出演するのは2019年のROOKIE A GO-GO、2021年のRED MARQUEE以来となるが、今回のステージには心底驚かされてしまった。

シンセやドラムパッド、エフェクターなどの機材を駆使した大胆なリアレンジに加えて、メタル的でテクニカルなギターソロ、空間を捻じ曲げるようなループやコラージュ、人力ハイパーポップのような演奏など「そこまで攻めるか!」と言いたくなる展開のオンパレード。おまけに、君島ならではの詩情、この4人だからこそのアンサンブルもこれまで以上に冴え渡る。今年1月リリースの1stアルバム『映帶する煙』に安住せず、その先の未来へと猛スピードで突き進む60分間だった。

そして、ライブ終了後すぐに、合奏形態の4人を取材。フジロックで見せつけた最新モードへの手応えと、このバンドにまつわるエピソードの数々を語ってもらった。いまや日本の音楽シーンに欠かせない重要人物からなるバンドだけあり、ライブ/レコーディング以外で揃う機会は多忙ゆえに限られ、合奏形態でのインタビューは今回が初となる。この翌日には独奏形態としてPYRAMID GARDENに出演するなど、2つのスタイルを使い分けながらライブ活動を行なう君島だが、彼とメンバーにとってこのバンドで演奏することの意味とは? 缶ビールで乾杯してから大いに語ってもらった。


─最高のライブを終えて、まずはみなさんの感想を聞かせてください。

君島:ヘヴンでやるのは夢だったんですよね。ルーキーで初めて出演したのが2019年(2日目の深夜)だったんですけど、その年にこれまで知り合ってきた友達とか、SNSだけで繋がっていた人たちとフジロックでようやく会う、みたいなことが結構あったんです。それで翌日の夜、ジェイムス・ブレイクをWHITE STAGEを観る前にヘヴンに行ったらクルアンビンが出てたんですけど、あのときの雰囲気がメチャクチャ狂ってて(笑)。みんな気持ちよさそうで最高だなと思ったんです。

そのときのイメージがすごく強くて、あそこに自分も出れたらなって当時からぼんやり思っていたので、こうして出演することができて嬉しかったですし、内容も今までで一番……やりたいことが形になっていたような気がします。新しく試したことがかなり多かったんですけど、思った通りにうまくいったと思える瞬間が多かった。そこがよかったですね。


君島大空(Photo by Kana Tarumi)

─「新しく試したこと」というのを具体的に言うと?

君島:なんて言うんだろうな。かなり過激な……回線の使い方?(笑)。

西田:シンプルに説明すると、まずは君島大空がCharvelのロック式エレキギターを買ったんですよ。

君島:そう、フジロックのために買いました。

西田:あのギターを使った過激なアーミングダウンとアーミングアップ。まずはこれをやりたかった。なんなら、そのために(曲間の)インタールートを作った。さらに、駿にSimmonsのドラムパッドを導入してもらったんですけど、これも今回が初。もちろん普段は使ってないけど、フジロックでは頼むよってことで。

石若:初登場!

西田:あと、和輝のシンベ(シンセベース)は最近登場していたけど、今回はそのシンベを別回線に分けて、俺たちのラインを一台のミキサーに突っ込んだんですよ。だから、(バンド演奏のピッチが)いきなり全部上がったり下がったりしたところがあったと思うんですけど、あれをやりたかったんです。

君島:僕の声とギターも、駿さんのパッドも、和輝さんのベースもすべて修大メンのミキサーで操作することで、こう……。

西田:グニャグニャするっていう。あれがやりたくて。

君島:新しく試したのは、大きくその2つですね。

─あそこは強烈だった! 「過激な回線の使い方」をしてましたね。

西田:今日のライブは、自分たちとしても面白いと思えることをやれた確信が結構あって。しかも、「どうですか!」と反応してほしいポイントで、お客さんが「イエイ!」となってくれてたのもすごく嬉しかった。頑張ったらいいことあるなって。


西田修大(Photo by Kana Tarumi)

─新井さんは過去のフジロックで合奏形態のほかにも、King GnuでRED MARQUEE(2018年)とGREEN STAGE、millennium paradeでWHITE STAGE(共に2021年)に出演していますよね。

新井:ヘヴンに出るのは初めてだったんですけど、まずはロケーションに感動しましたね。(観客としての視点では)見たことあるけど、ステージ側からの景色は初めてだったので。グリーンともホワイトともレッドとも違う景色というか。ここが最も一体感の生まれやすいステージなのかもしれないと思いました。

というのも、ヘヴンは自然の膜が張られているような感じがして。レッドは(屋内なので)物理的に膜があるじゃないですか。ホワイトはもっと視覚がドーン!と開けた感じ。グリーンも自然に囲まれているけど、とにかく広い。そういう意味で、ヘヴンはお客さんとの距離も近いし、野外なんだけど閉じているというか。その感じがすごく合奏形態に合ってるし、出てみてすごく感動しました。

君島:ライブハウスっぽいよね。

西田:別世界って感じがする。


新井和輝(Photo by Kana Tarumi)

─石若さんはどうですか。

石若:個人的な話で言うと、合奏形態が始まってからたくさんライブをしてきたなかで、今日が一番精魂こめて演奏することができたというか。脳みそで考えてることと体が分離しているような感じ。いつもは(その2つが)合わさって伝達している感覚なんですけど、それぞれバラバラの状態で、しかも新しいシステム(Simmons)もあったので「不思議だな」みたいな。新感覚でした。

西田:今日の駿はアガって叩いてたよね。それは見ていて思った。

─たしかに、いつにも増して気合が入っていた。

石若:あと、2019年のルーキーで「遠視のコントラルト」をやったとき、映像も残ってますけどオーディエンスもすごく盛り上がってくれて。あの頃を経て、今日の「遠視」の1サビでバーン!って一発目が入ったときに、いろんなことをふと思い出して。すごくエモーショナルな気持ちになったんですよね。

君島:僕も「遠視」をやってるとき、あの曲で駿さんのドラムをレコーディングしたときのことを思い出した。「おわー!」みたいな(笑)。

石若:今日の「遠視」はそういうふうに、このバンドの記憶や思い出みたいなのが詰まった演奏だったなと。それがすごく気持ちよかったです。

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石若駿(Photo by Kana Tarumi)

─Simmonsの導入については意外すぎるというか、石若駿が使ってるのを初めて見ましたけど。

石若:僕はエレドラ(電子ドラム)やパッドを使うことが全然なくて。だから、「できないです」「持ってないです」「得意じゃないです」と、いろんな現場で言ってきたんです。音を鳴らしても楽器感がなくて、人力でやる方がやっぱり好きなんですよね。

でも、Simmonsは楽器感がすごくあって。ちゃんとスネアの音がサブスネアに聞こえるし、楽器であるという重み、楽器として演奏している感覚があって。それで導入してみたらすごくよかった。

西田:見た目もかっこいいしね。駿には基本的に生ドラムでやってもらいたいというのはこの先も変わらないけど、今回やりたいことを踏まえたとき、生音ではどうしてもダメで、駿にもチャレンジしてもらう必要があった。そこで、何を使おうかとなったとき、「Simmonsがよくない?」ってことで、借りることにしたんだよね。

新井:ウチのドラムから。

─そうか、勢喜遊さん(King Gnu)のSimmonsだったんですね!

石若:いい楽器だなと思いましたね。「ああ、ついにSimmonsをセットできた」と感動しました。実は夢だったんですよ。誰か友達のドラマーが買ったら「どうなの?」って聞いたり、ずっと気になってたので(笑)。

西田:去年、このバンドでフェスに出るときは、出演時間が短かったのもあって「フェスだったらこういう曲、こういうセットをやらなきゃ」というのを変に意識していたんですけど、そういうふうに続けていると合奏形態がちょっとずつ弱っていくから。頑張ってチャレンジすることで強くなっていくバンドなんですよね。そういう意味では、今回は普通ならワンマンでやるようなことに挑みました。

新井:これはフェスに持っていくセットやサウンドシステムじゃなかったね。

君島:こんなこと言うのもアレかもしれないけど、(フジのセットリストには)全然練習してない曲もいっぱいありました。「そういえばこの曲、2回ぐらいしかやってない」みたいなのとか(笑)。 でも、新しい要素を取り入れながらスタジオで詰めた、普通にフィジカルで(生演奏するのは)難しい曲を4人でやると、なんか勝手に良くなってたりする。それが合奏の……。

西田:特徴だよね。リハの初日が終わってからキミ(君島)と電話して、 「やっぱり合奏はこうだよね」って。この感じ。しんどいけど。

君島:脳が焼き切れるぐらい色々やらないと、充足感が得られない。

西田:そういう場だね、このバンドは。

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