キム・ゴードンが語る電子音楽とリズムへの傾倒、『バービー』、カート・コバーン、大統領選

ILLUSTRATION BY MARK SUMMERS

キム・ゴードン(Kim Gordon)はまだノイズを出し終えていない。挑戦的なソロ2作目『The Collective』を3月8日にリリースし、フジロック出演も決定している元ソニック・ユースのメンバーが、最新アルバムや過去にまつわる話、時事的なトピックなどへの見解を率直に語った。本記事の翻訳は、回顧録『GIRL IN A BAND キム・ゴードン自伝』(DU BOOKS刊・2015年)の訳者・野中モモ。

キム・ゴードンはソニック・ユースでの30年に及ぶ活動で、ロックの可能性を広げるのに貢献した。たとえばその不安を掻き立てる声と地下鉄が響かせる重低音の如きベース演奏から、自身のフェミニズムとアートスクール教育のバックグラウンドをバンドの歌詞と精神に組み込む手法に至るまで。現在、ソニック・ユース解散後2枚目のソロアルバム『The Collective』を引っ提げてのツアーを準備中のゴードンは、これから進もうとしている道について熟考している。「いまのバンドはすごくいい」と、彼女は言う。「でも、いちばん難しいのはすべての決断を自分でしなくちゃいけないことね。Tシャツのデザインからステージの背景をどうするか、オープニングを誰にするかまで。決めることが本当にたくさんある」。

信じ難いことだが、ゴードンとサーストン・ムーアが夫婦としての関係解消を発表し、それに伴ってソニック・ユースも解散してから13年の時が流れた。解散後、ゴードンが最初に取り組んだ音楽プロジェクトはギタリストのビル・ネイスとの実験的デュオBODY/HEADだった。しかし5年前、ゴードンは本格的にひとりで表に出はじめた。エンジェル・オルセンやチャーリーXCXからリル・ヨッティ、キッド・カディ、ティーゾ・タッチダウンまで誰もかれもを手掛けているプロデューサーのジャスティン・ライゼンと組み、2018年の『No Home Record』を制作。彼女の語りのような歌声をポストアポカリプス的な電子音のサウンドスケープにのせて強い印象を残した。

ライゼンとの2度目のコラボレーションになる2ndアルバム『The Collective』は、前作よりほんの少しだけスウィングしている。まるで彼女はまだ終末後の世界を彷徨い歩き続けていて、アンダーグラウンドなダンスクラブに行き当たったかのようだ。「基本的には前作の続きだけれど、今度はもっとビートを重視したかった」と彼女は言う。「ジャスティンはサウンドを選んでめちゃくちゃにするのが本当にうまい。そういう意味で彼はパンクみたいなものね。ある意味テクノロジーをリスペクトしてないところが」。

現在ロサンジェルスに暮らすゴードンはかつての拠点ニューヨークが恋しいと認め、彼の地に住む娘のココを折々に訪ねているという。LAの音楽シーンもまたNYと同じではない。「音楽シーンはかなり栄えている様子だけれど、私は本格的に関わっているわけじゃない。ここでは音楽の作りかたが違う」。だが光あふれる自宅の部屋に座っているゴードンは、相変わらず控えめでありながら鋭い切れ味をみせている。



―ソニック・ユースの解散後、生まれ故郷のカリフォルニアに戻りましたね。日々どんなふうに過ごして、周りに馴染んでいますか? たとえばハイキングをするとか。

ゴードン:私はハイカーじゃないわね。自宅が好き。カリフォルニアではしょっちゅう車を運転することになる。だけど、ヴィジュアル面に関しては昔からずっとお気に入りの場所のひとつだったんです。ただ家とか建築を見て、一軒の家が隣の家とどう違っているか観察するだけでも.....ここではまだ70年代を感じられます。

―これで電子音楽的な要素が強めのソロアルバムを2枚出したことになります。ソニック・ユースではできなかった、あるいはしなかったけれど追求したかった音楽的な方向性とはどんなものでしょう?

ゴードン:そうね、私は生まれもってのシンガーじゃない。でもリズムと空間を使う感覚に関しては自分にとって何がいいのかをわかっていて、リズムに取り組むのが本当に好き。単純にそれをもっとやってみたかったんです。ある意味、何を歌うかに関してはずっと自由に感じます。いろいろな意味で自分を抑えなくちゃならないと感じなくなりました。

―以前はそう感じていたのでしょうか?

ゴードン:ある意味ではね。(ソニック・ユースの)音楽は私たちみんなで作るものだったから。バンドの型があったし、ヴォーカルはその一部だった。いまはそれと同じやりかたで自分自身に問いかけるわけじゃない。

―あなたは自分を疑ってばかりの人には見えませんが。

ゴードン:両極端なんですよね。自己不信とは違う……ただ思いを巡らして、考えて、それから「やっちまえ」となる。このレコードでは、リリックの多くは即興です。何行かの言葉からはじめました。その割合は曲によって違うけれど。レコーディングに臨むと、ただ頭に浮かんだり口から出てきたりする。そこからはジャスティンが得意な編集と音づくりの問題になります。このレコードを作っていてある種の本物の自由と自信を感じました。自分のやっていることには不安を感じていません。



―「Tree House」はソニック・ユースの「Pacific Coast Highway」の続編みたいですね。どちらもヒッチハイカーが関わる不気味な話で。そこにつながりはありますか?

ゴードン:ある意味では。最初のパートはトラウマみたいな、記憶の中の10代っぽい経験的な。次のパートは実際にあった大人になる経験をもとにしているけれど、マルグリット・デュラス(フランスの作家)の影響も受けています。『愛人』を読んでいたのに加えて、私は(若い頃)香港に住んでいたんです。彼女はベトナムについて語っていて、記憶を表現しようとしていました。

―「Trophies」の題材は……ボウリング? あなたはボウラーなんでしょうか?

ゴードン:明らかに違います。友達のレイチェルに「何について書いたらいいと思う?」と聞いたら、「ボウリングのトロフィーは?」と。それで、いいチャレンジになると思ったんです。

―「Bye Bye」の歌詞は文字通り旅行の持ちものリストですね。

ゴードン:そう、これもまた友達に何か題材はないか聞いたら、「持ちものリストは?」と言われたんです。それで「オーケー、いいじゃない」と。私は日々の記録を書いてるんです、テイラー・スウィフトみたいに。同じやりかたではないけれど。



―こうしたソロ作品を作ることで、自分についてどんなことを知りましたか?

ゴードン:自分はよく心配するってこと。私は自分のことをミュージシャンだと思ったことは一度もないんです。いまでも自分は音楽を演奏するヴィジュアルアーティストだと思っています。いまだにコードとかはわからないし。でも、音楽とパフォーマンスについてはある程度わかっていることに気づきました。それは私の中に埋め込まれていて、ちょうどいいタイミングで活性化するみたい。(ソニック・ユースが終わる)以前には「あぁ、40歳までだな……これをやるには年を取りすぎてる 」と思っていたんだけど。これはひとつのライフスタイルなんです。ブルースやジャズの人が生涯演奏し続けるみたいにね。

Translated by Momo Nonaka

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