レッチリ来日公演を総括 破天荒な4人がロックの歴史を背負い、東京ドームを揺るがす意味

極東の観客も虜にする「我々のテーマソング」

もちろん歳月のぶん容姿も変わる。ジョンはともかく他の3人は還暦を超えているから、スクリーンに映るのはたっぷりと皺を刻んだ初老の男たちである。ただ、枯れ気味というなら25年前からその路線が続くレッチリなので、逆に目立つのは維持される技術力と体力であった。特にすごいのはチャドとフリーで、二人のグルーヴは今なお驚異的に若い。さらには、曲調がミドルテンポだろうがバネのように跳ね続けるフリーの体力に見惚れ続けた。本当に超人じゃないかと思える肉体が、今もまだそこにあるのである。


Photo by Teppei Kishida


Photo by Teppei Kishida


Photo by Teppei Kishida

突然メロウに枯れた、ように見えて早25年。実際はそこまでの衰えも知らぬまま、ただ枯れた味わいの名曲が増え続けたのだ。二曲目以降続くのが「Dani California」「Zephye Song」「Here Ever After」というのは、贅沢極まりないメロウ歌謡の波状攻撃。どの曲でもジョンのギターがむせび泣くが、ベタベタした感情と直結していないのもよかった。自分の世界に没頭することなく、常にフリーと至近距離で向き合い、曲のアウトロが自由なセッションにつながっていくシーンが何度もあった。このバンドは、まだまだみずみずしい生き物たりえている。


Photo by Teppei Kishida


Photo by Teppei Kishida

そのうえで、最もグッときたのは最新アルバム『Return of the Dream Canteen』収録の「Eddie」なのだった。どこか乾いたメランコリーを持つメロディと、遠慮なく泣きまくるアウトロのギターソロ。タイトルが示すように、これはエディ・ヴァン・ヘイレンに捧げた一曲。アンソニーが高校生だった時代の思い出を歌う曲である。

彼が故人を歌にするのは珍しいことではない。リヴァー・フェニックスに捧げたと解釈できる曲、カート・コバーンの名前が出てくる曲もある。ただ、同時代を生きた仲間でもない、ハードロックの大先輩までが範疇に入ってくるのは、ロックの歴史を背負った今だからだろう。気が合うだけでは始まらないが、技術ある者だけを集めても続かないのがロックバンド。その複雑で長い歴史への敬意、今も自分たちが存在できる感謝と愛。そういうことまで歌っているのが今のアンソニーだ。繰り返される〈Please don’t remember me〉は、どうしても〈don’t〉を省いた意味で受け止めたくなってしまう。

いささか大袈裟か。ちょっとした思い出ソングに、かくも鬱陶しい解釈を加えられてしまうのが今のレッチリ、と書くのが正解なのかもしれない。ただ、ここまで来ると背負うものはどこまでも大きくなる。ただ演奏するだけで五万人を心酔させるロックバンドは現代でも稀だ。いつまで続くのだろうと考えてしまう。そんな季節になったと思わせるのが「Ediie」を筆頭とする新曲群である。


Photo by Teppei Kishida

ただ、前半ずっと着衣だったアンソニーが、後半「Suck My Kiss」で結局上半身裸になった瞬間、いややっぱこれ永遠だわ、と爆笑したくなる私がいた。怒涛の勢いでヒット曲が押し寄せる。「Californication」に「By The Way」、さらにアンコールに「Under The Bridge」。どれもカリフォルニアを舞台とする曲だが、極東の東京ドームにおいて、これらの曲も間違いなく「我々のテーマソング」なのだった。勘違いとは、なんと幸せなことか。それがまだずっと続きますように、と思う夜だった。

【ライブ写真ギャラリー】レッチリ東京ドーム公演2日目(全40点)

RECOMMENDEDおすすめの記事


RELATED関連する記事

MOST VIEWED人気の記事

Current ISSUE