レッチリ来日公演を総括 破天荒な4人がロックの歴史を背負い、東京ドームを揺るがす意味

Photo by Teppei Kishida

レッド・ホット・チリ・ペッパーズ(Red Hot Chili Peppers)による「The Unlimited Love Tour」の一環として5月18日・20日に東京ドームで開催された、ベストヒット満載のスペシャルライブが大盛況のうちに閉幕。音楽ライター・石井恵梨子による公演2日目の本誌独自ライブレポートをお届けする。

【ライブ写真ギャラリー】レッチリ東京ドーム公演2日目(全40点)

暗転。まず始まるのはチャド・スミス、フリー、ジョン・フルシアンテによるジャムセッションだ。ゆったりした音の会話、他愛ない戯れに見えたものが、チャドの加速によってどんどん熱を帯びていく。ジョンはすでに最高のエモ顔でギターをギュインギュイン泣かせているし、高速スラップを連発するフリーは後半ステージにひっくり返って放心。最初の焦らし、というにはあまりにも熱量の高いスタートである。

そして、寝転がったままのフリーが、ベィーン、と鳴らすイントロは「Around the World」! 同時にアンソニー・キーディス登場! 彼がスタンドマイクを掴み雄叫びを上げた瞬間に会場中がどっかーん! 本格的な歌の始まる前から最高潮を迎えてしまう東京ドーム、というのがまずは圧巻だった。

さらに信じ難かったのは、いきなりピークを迎えた客席がその後二時間弱ずっと同じテンションであり続けたことだ。セットリストは「まさか!」「からの!」「さらに!」と全曲ビックリマークをつけたいものだったし、バンド演奏は硬すぎず弛緩もしない安定感。特に凝った演出も必要としない、4人をただ映すだけのスクリーン使いにも唸ってしまった。なんというか、ロックスターとはここまでのものになるのか、という感慨だ。


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思い出すのは、同じくセッションから始まり、「Around the World」で幕を開けた、2000年の日本公演のことだ。

それ以前、少なくとも90年前半までのレッチリは、人気はあっても王道ロックスター的に扱われる存在ではなかった。裸体を晒し、危なっかしい行為も平気でやらかすことで、テレビに映るスター偶像を破壊する時代のヒーロー。音楽的に言えば本格的なファンクやラップ風歌唱をいち早く教えてくれた、ヤンチャで格好いい先輩と呼ぶべき存在だった。

来日公演も毎回波乱含みだ。途中でまさかのジョン脱退となる92年、巨大台風が直撃した97年の第一回フジロックなど、さすが先輩、ヤバい話ばっかりじゃないっすかと言いたいエピソードが満載である。実際には笑えない状況だったのだけど、トラブルも含めて笑い飛ばすのがレッチリ先輩の流儀、という気分があった。みな総じて若かった。


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転期は四度目の日本公演、2000年の武道館だった。先輩は、突然メロウに枯れていた。ジョンの色が強烈な『By the Way』はまだ出ていない時期だから、ファンの間には路線変更に戸惑う声が多少残っていた。また、バンド内でも以前との切り替えが完全にできていなかったのか、バキバキのファンクと泣きの新曲が交錯する内容はあまり脈略がないように見えた。それでも、と思ったものだ。日本武道館が一杯になるんだから、これはこれで幸せなことだよな、と。

今となれば噴飯ものである。ヤンチャな先輩からメロウな歌主体に切り替わったのは、要するにレッチリのロック王道宣言だ。『By the Way』以降も増えていく名盤の数々が、またジョンの在/不在をめぐる4人のストーリーが、いつしかスター街道を揺るぎないものにしていった。武道館の五倍の集客量を誇る東京ドームが二日間ばっちり埋まる。中高年も20代も親子連れも、あらゆる世代が「*」に似たレッチリマークを着込んで全国から集まってくる。「Around the World」のイントロが響いた時のどよめきは、この曲が最初に人前で鳴らされた25年前とは比べ物にならないものになっているはずだ。

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