フェイ・ウェブスターが語る、どこにでもいそうなスーパースターの自由と葛藤

「どこにでもいそうな存在」であり続けるために

ウェブスターの家系には音楽的ルーツがある。彼女の祖父はブルーグラスのギタリストであり、長兄のジャックは彼女がギターを弾き始めるきっかけを作った。またもう一人のきょうだいであるルークは、彼女の作品のグラフィックデザインを手がけている。彼女がリル・ヨッティと出会ったのは、アトランタのInman Middle Schoolに通っていた頃だ。「彼女とは中学2年の時、学期が始まる前のオープンハウスのカフェテリアで知り合った」。ヨッティは本誌にそう語っている。「共通の友人から紹介されて、それ以来ずっと友達なんだ」。その後、ウェブスターがアトランタ近郊でラッパーの写真を撮り始めたとき、ヨッティは最初の被写体のひとりとなった。

ウェブスターが1stアルバム『Run and Tell』を自主制作したのは16歳の時だ。彼女は音楽で生きていくと既に決めていて、それ以外の選択肢は検討したことさえなかった。「高校の卒業を控えて、誰もがそれぞれの人生を歩み始めようとしていた頃も、『私は音楽しかやってこなかったし、どうやって続けていこうかな』って感じだった」。彼女は当時についてそう振り返る。

ベルモント大学で作曲を学ぶためにナッシュビルに引っ越したものの、彼女はホームシックになり、週末はたいてい車でアトランタに帰省していた。地元では、同名のレーベルを中心に結成されたヒップホップ集団、Awfulのメンバーたちとつるんでいた。彼女は次第に、学校で過ごす時間が無駄だと感じるようになった。故郷に戻った後、彼女は2017年にAwfulと契約し、2ndアルバム『Faye Webster』をリリースする。「あんなにも仲間意識の強い集団に属したことはない」と彼女は話す。「まるで家族のように感じてた。音楽は二の次だって思うくらいに」。


Photo by Kendrick Brinson

筆者が2019年に取材したとき、彼女はヒップホップのレーベルに所属する白人女性であることについて、自分ははみ出し者だと感じると語っていた。そのことに触れると、彼女は肩をすくめた。「周囲からは間違いなくそう見られてたと思う」。彼女はそう話すが、ヨッティの見方は少し異なるようだ。「僕は別に変だとは思わなかった。だってここはアトランタだから。この街はすごく小さいから、ヒップスターのシーンは境界が曖昧だった。それがこの街で育ったアーティストの音楽に影響しているのは確かだよ」。

ウェブスターはアトランタではよく声をかけられるが、決して不愉快ではないという。名前を知られるようになった今、彼女が気を揉んでいるのはインタビューでの受け答えがどう解釈されるか、どれくらいの取材をこなすかといったことだ。「あまり考えないようにしている」と彼女は話す。「私はそういうのに向いてないから。どう対応していいかわからない」。

無意識のうちに、ウェブスターは新作の収録曲「Wanna Quit All the Time」の一説(“投げ出してしまいたいといつも思ってる/気を逸らすことができないの/私が怖いのは世間からの注目”)を引用している。これまでに発表した5枚のアルバムを通じて、ウェブスターは自伝的な内容の曲を多く残しているが、自分の脆い部分をこれほどストレートに表現したことはかつてなかった。



2021年作の『I Know I'm Funny Haha』以降、彼女の名前は徐々に浸透していき、「I Know You」や 「Kingston」といった過去の曲がTikTokで流行し始めた。ボーカルが早回しされた歌詞のクリップの中には何百万回も再生されているものもあり、TikTokのある投稿では、ファンが彼女の演奏中に感極まって号泣している。去年の秋、シカゴで彼女と一緒にステージに立ち「In a Good Way」をプレイしたクラインは、彼女のファンがどれほど増えたかを実感した。「ウィルコの前座をした時、おそらく大半の客が彼女のことを気に入ったと思う。持ち時間が30分しかなかったにもかかわらずね」とクラインは話す。「2年後、状況はまるで変わっていた。ちゃんと調査したわけじゃないけど、熱狂的な歓声をあげる客のほとんどが若い女性だった」。

「私はずっと、どこにでもいそうな存在として映ることが大切だと思ってる」とウェブスターは話す。「私が感じている不安や緊張の大半は、自分がごく普通の人間だっていう証拠だと思う。誰かから崇められたりすると、私は居心地が悪くなる。だって私は自分のことを特別だとは思っていないから。世間の人々が共感してくれるのは嬉しい。一番共感してくれているのは歌詞だと思うけど、私にしてみれば『あなただって誰かの興味を惹くアイデアを持っているはず。あなたが考えていることの中には天才的な何かが絶対に隠れてる』って感じ。そう思わない?」。

「フェイと僕はそれについて何度も話し合った」とヨッティは話す。「彼女はかなりうまく自由を維持していると思う。できることは限られているんだよ。残念だけど、それがこのキャリアの現実なんだ。有名になればなるほど、成功すればするほど、プライバシーが守られる普通の生活から遠ざかっていくんだよ」。


Photo by Kendrick Brinson

『Underdressed at the Symphony』のリリースに際して、ウェブスターは取材の数を制限し、遠隔取材ではカメラ機能の使用禁止を徹底し、ソーシャルメディアから適切な距離を保つなど、不安を最小限に留めるための策を講じている。断るということについても、彼女は以前よりも上手になった。「私のマネージャーは、キャリアのためにはただクールなものを作っていればいいと言うの」とウェブスターは話す。「彼らにしてみれば不満もあると思う。私に受けさせたい仕事を、私は平気でパスしちゃうから。そういう時は『大丈夫、丸一日ヨーヨーをしてる自分の写真を撮っとくから。万事解決!』みたいな感じで返してる」。

「ルールに縛られまいとする彼女の姿勢には共感できる」。トゥイーディはそう話す。「割に合わないことってあるんだ。多くのマネージメントやレコード会社、そしてその世界に生きる人々は、稼げるお金を1セントたりとも逃すまいとする。最初期から(ウィルコの)意思決定は、『活動をできる限り長く続けるにはどうしたらいいか』ということに基づいていた。そうやって下した決断は、目の前にあるお金をすべて手に入れるために取るべき行動とは相反する傾向がある。ビジネスの世界の人間にしてみればフラストレーションがたまるだろうけど、彼女もきっと同じ結論に達するんじゃないかな」。

その時が来るまでは、ウェブスターはツアー先でコートを見つけてはテニスに興じるのだろう。彼女と過ごした日から数週間後、私たちはもう一度だけZoomチャットをした(もちろんカメラはオフ)。メルボルンに滞在していた彼女は、全豪オープンの女子決勝を見に行ったという。

「ツアーって本当に大変なの」と彼女は話す。「楽しいことをたくさんしてるし、たとえそれがテニスでも……何ていうのかな」。わずかな沈黙の後、彼女は大笑いしてこう言った。「バレてると思うけど、私はいまだにこういうライフスタイルに慣れてないってこと」。

From Rolling Stone US.

Photography Direction by EMMA REEVES. Hair by KAZIA ROSEMOND. Makeup and Styling by MICHELLE MERCADO. Videographer: CLIFFORD L. JOHNSON. VFX Designer: MIGUEL FERNANDES. Lighting Direction by DAVID WALTER BANKS. Digital technician: DONNY TU. Additional retouching by MOLLY REPETTI. Studio: CHIL STUDIOS




フェイ・ウェブスター
『Underdressed at the Symphony』
発売中
詳細:https://bignothing.net/fayewebster.html

Translated by Masaaki Yoshida

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