マウント・キンビーが語る「バンド」という新たな方向性、ギターサウンドの実験と探求

西海岸のスピリチュアリズム、キング・クルールへの信頼

─今回の曲作りの多くは、ユッカ・バレーというカリフォルニアの田舎町で行われたそうですが、そのユッカ・バレーを含むジョシュア・ツリー地域といえば、ドノヴァンやグラム・パーソンズをはじめ、60年代や70年代、それ以前に遡る時代からスピリチュアルなものを求めるミュージシャンやアーティストを惹きつけてきた場所でもあります。今作について、そうした土地柄や、アメリカ西部の自然と紐づいた文化や歴史みたいなものにインスパイアされたところもありましたか。

カイ:そうだね。あの土地は、さまざまな文化的側面について論及されているからね。カリフォルニア全体に独自のライフスタイルが根付いていて、それが多くの人たちを惹きつけていると思う。特に、太陽の光が他のどの土地にもないような存在感を持っている。LAは大都会だけど、わずかな距離を運転するだけで、自然と隔離された空気感の場所へと辿り着くんだ。LAの都会的な雰囲気と、それを取り巻く環境とのコントラストは本当に独特だと思う。逆に、そうした隔離された地域からLAへと入っていくと、まるで違う惑星に来たような衝撃があるよ。なにかのプロジェクトに集中して取りかかるのに最高の場所だし、一方でそれを取り巻く環境へと逃げ込めば、完全に姿を消してそこで生活を始められるような感覚にも満ちているんだ。多くのミュージシャンは、その両方を求めていると思うんだよ。人里離れた場所で、じっくり熟考する自分の時間を持ちたいし、その期間を満喫したあとは、自分が創ったものを他の人たちとシェアしたくなるものだからね。そういうものが、なぜこの土地が人々を魅了しているのかという答えになると思うけど。

─あからさまな形での「フォーク」や「サイケデリック・ミュージック」ではないにせよ、それこそプレイリストにも収録されているムーンドッグだったり、あるいはブライアン・イーノやデヴィッド・バーンのいくつかの作品におけるミニマル・ミュージックやアンビエント・ミュージックに流れるスピリチュアリズムやユーフォリックな感覚、フォークロア的な手触りみたいなものを、例えば「Dumb Guitar」や「Fishbrain」といった楽曲の背景や底流には感じたりもするのですが、いかがでしょうか。

カイ:そうしたスタイルやアーティストが、ごく初期の頃から僕たちの音楽、特にサウンドのディテイルに多大な影響を与えているのは間違いないよ。そうした遺産は、僕たちのプロダクションの根底にいつも流れていると思う。レコーディングする時はいつでも、リヴァーヴやディレイといった、アンビエント・ミュージックの痕跡がどこかしらに現れていると思うんだ。そういう効果が、いろいろな曲に質感を与えてくれていると思うんだよね。最終的にアンビエント・ミュージックとはまったく違ったサウンドになっていたとしても、そうした影響はどこかに感じ取れると思うな。「Shipwreck」なんかもその良い例だね。



─実際、ユッカ・バレーではスピリチュアルなものを感じる瞬間はありましたか。

カイ:そうだな……ヤバイ人と思われない言い方が難しいけど、エネルギーのようなものは確かに感じていたよ。それは必ずしもポジティブなものばかりではなくて、あの土地の持つ禍々しいエネルギーのようなものもね(笑)。そういうものが、空気の中に漂っているんだ。

ドム:(笑)分かるよ。谷間でUFOを見なかったか何度も訊かれたんだけど(笑)、むしろ説明のつかない電流というのかな。不思議なシュールレアリズムのような空気感をプラスしてくれたことは間違いないね。すごく興味深い土地だよ。それと、ちょっと奇妙で奇抜な人たちが人里を離れてそこで生活している。スピリチュアルな面で言うと、砂漠は平穏で長閑なところだし、僕たちが住んでいたところは主要幹線からも遠く離れた片田舎で、とても静かだった。夜には、借家の外にあるプールサイドに座って、静寂に包まれて時を過ごしたりしたよ。真夏だったからとても暑くて空気が重くて。カイが言うように、禍々しい空気を感じたのも確かだね(笑)。どこかコミカルな意味でね。

─今作には前作に引き続き、キング・クルールがヴォーカルで参加した曲が収録されています。彼とは創作をシェアする関係が長く続いていますが、キング・クルールというアーティストのどんなところに魅力を感じ、またどんなところに信頼を置いているのでしょうか。

ドム:彼がもたらしてくれる自然体のエネルギーに魅力を感じているよ。最初に会った時、すごく感動したのは、彼はつねに頭をフル回転させてアイデアを生み出していることだった。彼と一緒にいることがすごくプラスになっているよ。しかも、彼にはなにかを制作に持ち込んで欲しいとお願いしたことは一度もないんだ。むしろ、はじめから僕たちの制作過程の一部のような存在になっていて。同じスタジオを使っているし、同じミキサーにミキシングをお願いしているし、多くのものを共有しているというところも大きいだろうね。アーチーに僕たちが作ったものを聴かせて、彼が自分で「じゃあこれ」って選んで、そこからすぐにレコーディングを始めるという、とても流動的で自然な方法で一緒にやっているよ。僕たちは彼が作る音楽も大好きだし、そもそも大好きな友人なんだ。



─ここ数年、イギリスではロンドンを中心に若い世代のギター・ロック・バンドのシーンが活気付いていますよね。個人的に、マウント・キンビーが今のような「バンド」形態になり、ポストパンク的なエッジを纏うようになった『Love What Survives』にかけてのサウンドは、当時台頭し始めたロンドンのギター・ロック・シーンを先行するものだったと思うし、彼らを触発してきた部分も大いにあったように思います。逆に、そうした若い世代の動きに刺激を受けたり、実際にライヴを見たり作品を聴いたりして関心をそそられたりするようなところもあったりしますか。

カイ:もちろん、当時のギター・バンドの中には今でも好奇心をそそられる人たちもいるよ。でも、この新作ではそうしたシーンを大きく飛躍させた音楽からはかなり遠いところに前進していると思う。いくつかの曲にはその要素があるけどね。僕個人としてはテクノやクラブ・ミュージックの環境に身を置いていたことに対する反応から、クリエイティブな面でのフラストレーションを感じていて、何かまったく違ったものを作りたいと思うようになっていったところが大きいね。

ドム:そういえば僕たち2人とも、昔ウー・ライフというバンドがすごく好きだったのを思い出したよ。短い間しか活動していなかったんだけど、すごく良かった。バンド音楽はずっと好きだけど、違う方向に進んでいったのはごく自然な流れだったんだ。アンテナを敏感にしていれば、今のUKミュージック・シーンがすごくエキサイティングだというのはよく分かるけど、だからといって誰か特別なアルバムやライヴが僕たちの進化に影響を与えるということはないね。

─前作のリリース・インフォには「これまで自分たちの成功の基盤だったものをすべて払拭することから始まった」というカイのコメントが記載されていたのを覚えています。現時点で、今作を完成させたこと、またその内容や出来についてはどんな手応えを感じていますか。

ドム:かなり大胆なことを言ったね(笑)。

カイ:このアルバムに関して言えば、今は眼前に拓かれているすべての可能性に対してとてもエキサイティングに感じている時期、ということかな。どの曲もすごく楽しんで作ったし、リリースしてどんなリアクションが待ち構えているのかわくわくしているんだ。これから時間をかけて、自分自身でも違った楽しみ方が出てくることもそうだし、こんな素晴らしいことを職業にしていることに対する喜びを享受できることも楽しみだね。経験を積み重ねると、初期衝動のようなものを保つのがとても難しくなる代わりに、自信や客観的な視点というものを身につけていけるよね。その中で、アルバム一枚一枚が、最終的な目標を達成するための一歩ではなく、昔と変わらず自分たちが変わらず興奮して楽しめるものを作りたいと思っている。プロフェッショナルで輝きを失ったミュージシャンにはなりたくないからね。この作品は、僕たちにとって新たな方向性を示したものだと思うし、18歳当時と変わらない興奮が息づいている。そう感じることが、またこの作品に生命を吹き込むんだと思うよ。




マウント・キンビー
『The Sunset Violent』
国内盤CD:ボーナストラック追加収録、歌詞対訳・解説書
詳細:https://www.beatink.com/products/detail.php?product_id=13900

Translated by Yumi Hasegawa

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