マウント・キンビーが語る「バンド」という新たな方向性、ギターサウンドの実験と探求

サウンドの実験と探求、その影響源

─カイが話してくれた「ギター・サウンド」に関して言うと、今作はシューゲイザーやドリーム・ポップだったり、あるいは『C86』辺りのインディ・ロックも連想させる多彩なスタイルが特徴的です。制作過程でカイは「かつてないほどギターに手を伸ばしている自分に気づいた」とリリース・インフォにありますが、具体的に今作のギター・サウンドのアプローチはどういったものだったのでしょうか。

カイ:デモを作る段階から、ギターで曲作りを進めたんだ。スタジオではなく僕たちが借りた砂漠の一軒家でレコーディングをしたから、ギター・アンプは持ち込みたくなくて、ディストーション・ペダルを2つくらい、それに最も重要なのがAMS DMXというクラシックな80年代のディレイ・ユニットだね。個人的にはマーティン・ハネットの作品(ジョイ・ディヴィジョン『Unknown Pleasures』、ドゥルッティ・コラム『LC』他)がいちばん有名だと思うけど。とてもユニークなサウンドになるんだ。オーバードライブのギターをそれに通した。ギターのピッチを変えられるから、この手法はかなり使ったね。ディレイよりも、むしろピッチを変えることに使ったんだ。このユニットはステレオだから、ギターをモノで録音して、左右のピッチを変えることで壮大なサウンドになるんだよ。それに、アンプやマイクを通さないことでダイレクトに音が伝わるし、空気音が入らないからクリーンでアグレッシヴな音色になる。このやり方がすごく気に入って、楽器を演奏することの楽しさに繋がったんだ。

他には、色々なチューニングを用いたことかな。ほぼランダムにチューニングを変えてみて、どれがいちばんしっくりくるか試してみたんだ。その時に重要なのは自分の耳で、耳だけを頼りに音楽づくりをしたという感じだよ。これまで自分自身を「ギタリスト」と呼ぶことには抵抗があったんだけど、自分のやり方を模索して、ひとつのチューニングについて学んでリフを生み出すという意味では意義のあるものだったね。



─特にその手応えを感じている曲はどれでしょう?

カイ:アルバムが完成して、最初に聴き直した時、「Dumb Guitar」がこのアルバムの方向性……キャッチーさやポップさを体現する最も適した見本だという風に感じたかな。この曲が僕たちと世界やみんなを繋げてくれるような気がしてとても興奮したんだ。「Fishbrain」は同じような面を、より興味深く表現している曲だね。でも、このアルバムが完成してまだ日が浅いから、いつかライブの環境でみんなが一緒に歌ってくれる光景を見られたらなと楽しみにしているんだ。そういう経験は、これまでになかったからね(笑)。



─今作に関連してSpotifyで公開しているプレイリストには、インスピレーションになった楽曲として、フォールやソニック・ユースと並んで、ピクシーズやガイデット・バイ・ヴォイシズ、ラッシュといったアメリカのオルタナティヴ・ロックやUKのドリーム・ポップ/シューゲイズ・バンドが多く収録されています。今回の制作を通じて、ギター・ロックを「再発見」した、その魅力をあらためて実感した、といったような感覚が強くあったのでしょうか。

カイ:そうだね。このアルバムの制作にあたって、4〜5曲をまず固めて、他の曲をどのように制作していくかということを学ぶというか、そこにある要素をある意味コピーして他の曲に反映させていくというようなやり方をしているんだけど。そうした面で、ギター・ミュージックはスタジオで制作する原動力のような働きをしてくれたよ。音楽を制作することの楽しさ、より良い曲を作るための手助けしてくれたんだ。僕はギター・バンドが好きだし、僕たちはいろいろなスタイルの音楽に常に立ち返っているけど、良い曲というのは未来永劫残るものだと思っていて、そうしたソングライティングに関してはギター・バンドからインスピレーションを受けているよ。



─そうしたギター・ミュージックの魅力や、ギターを使って曲を作ることにあらためて惹かれたのには、何かきっかけのようなものがあったんですか。

カイ:2年ほど、エレクトロニック・ミュージックに特化して仕事をしていた時期があったんだ。同じことをずっとやっていると、何か他のことをやりたくなるというごく自然な反応がきっかけだったと思う。小さなことが積もり積もって、エレクトロニック・ミュージックにフラストレーションを感じるようになっていったんだろうね。同じように、エレクトロニック・ミュージックの世界に深くはまっていったのも、ギター・ミュージックに対するフラストレーションからだったんじゃないかな。だから、どちらが優れているかということではなくて、いろいろなフェーズのフラストレーションを乗り越えてきたことが、そうした音楽遍歴となって現れているんだと思うよ(笑)。

─7年前の来日時にインタビューした際、『Love What Survives』についてドムが「ソウル・ミュージックが重要な要素の一つだった」と話していて、オルガンにドラムマシーンの音を組み込んだり、スライ・ストーンのアルバムから面白いパターンを拾ってきたりしたと明かしてくれたのが印象に残っています。今回のアルバムでも、ビートやプロダクションの部分に関してそうしたリファレンスや新たなアプローチはありましたか。

ドム:僕もカイもリンドラムに惚れ込んでいたというのが大きいね。個人的には、始めにグルーヴ感が独特で面白いなと感じたよ。そこから、あまり複雑な手を入れることなく、ただ流れのままにそのビートに合わせてプレイしていったという感じなんだ。トリックを使う必要がないというか。その感じがすごくクールで、サウンドの持つ個性みたいなものがとても気に入っているよ。それとひとつ、僕もカイもお互いに共有し合っているのがソウル・ミュージックに対する愛情なんだよね。僕個人としては、あの時代のヴォーカルに影響を受けているよ。曲を書く時、そうした音楽の持つ記憶に残るメロディが多大な影響を与えていると思う。あの時代の音楽やメロディに僕が受けた衝撃を、僕らの曲を聴く人たちにも同じように感じて欲しいんだ。リズムやドラムに関しては、リンドラムはこのアルバムを制作する初期の段階から採用していて、アルバム全体の枠組みを形づくる存在だと思うね。

─リンドラムのどんなところに魅力を感じたんですか。

カイ:リンドラムの魅力は、サウンドをほとんどいじれないところかな。サウンドを微調整することがほとんど出来ないんだ。それと、どこか大胆な手触りがあって。人工的なところが、もはや面白いとさえ感じられてね。最初はひとつのオプションと考えていて、曲が出来たらリンドラムのパートは外そうと思っていたんだよ。実際にセッションしてみて差し替えをしようと思ったんだけど、でもその時点でリンドラムがサウンドの要になっていることに気付いてね。それで、デモで録音していたリンドラムのサウンドをそのまま再利用したんだよ。いろいろな機材を使うことの面白さは、例えばコンピュータだったらタイムコードを常にチェックして、全く同じパターンを繰り返すから違ったグルーヴやフィーリングを感じることはほとんどないと思う。でも、リンドラムにプログラミングすることで、面白いグルーヴを生み出すことが出来るんだよね。とても興味深いニュートラルな質感をサウンドに与えることが出来るんだ。




─ちなみに、カイは先ほどの7年前のインタビューの時、『Love What Survives』について「スライ・ストーンとスーサイドを自分たちなりにミックスした中間点がちょうどこのサウンド」という、とてもキャッチーな表現をしてくれて。それに倣うなら、今作についてはどう表現することができそうですか。

カイ:そうだな……クリーナーズ・フロム・ヴィーナス(Cleaners From Venus)とリル・アグリー・メイン(Lil Ugly Mane)の中間という感じかな。

─というと?

カイ:クリーナーズ・フロム・ヴィーナスはより分かり易いリファレンスだと思う。このアルバムを聴いたら、英国的な感性を感じ取ってもらえると思うから。それと、ドラム・マシンのDIY的な部分とギターとのコンビネーションもね。僕はデモづくりだったら、一日中座って続けられるけど、完成品にはそこまで興味がないんだよね。それと、ドムとリル・アグリー・メインを較べるつもりはないけど(笑)、より現代的でLAの雰囲気がヴォーカルに感じられるところ、プロダクション全体に目新しさが感じられるところがちょっと彼を想起させる気がするんだ。




─先ほどのプレイリストには、ウェンズデイのような現行のアメリカのインディ・バンドが収録されているのも新鮮でした。新たにプレイリストに追加したいアーティストは誰かいますか。

カイ:どうだろう……スティル・ハウス・プランツ(Still House Plants)を加えたいかな。彼らは、グラスゴー出身のとてもエキサイティングなバンドなんだ。アルバムのレコーディングに入る直前に彼らのライヴを観たんだけど、ギターについて違う角度から考えるきっかけを与えてくれたんだ。最終的には、彼らのサウンドとは似ても似つかないものにはなっているけどね。

ドム:それと、ティルザも加えたいね。彼女のヴォーカルは本当に素晴らしいんだ。彼女やミカ(・リーヴァイ)のヴォーカルは完璧ではないからこそ、クリエイティビティを引き立ててくれる魅力があると思う。彼女が音楽を創ることの楽しさを教えてくれて、それをレコーディングに持ち込むことが出来たんだ。彼女はインスピレーションを与えてくれる存在だね。あれこれ試しながら音楽を創ることの楽しさ、そこにあるハッピーな気分を思い出させてくれる。自分がやっていることを楽しめるのがいちばんだからね。もし、創っている過程を楽しめなければ、完成した音楽から幸せや満足感を得ることは出来ないから。ティルザの曲を聴いているとそれを実感するよ。



Translated by Yumi Hasegawa

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