VivaOlaが『APORIE VIVANT』で表現したかったこと—でもここまで話してきて、VivaOlaさんが今作『APORIE VIVANT』で『T R A P S O U L』の再解釈をされたというのは、タイミング的にも納得しました。というか、オルタナティブR&Bをようやく振り返られるタイミングになってきた。V:本当は2022年に出したかったんですよ。SZAが『SOS』をリリースした時に自分はちょうど「TOO LATE」という曲を作ってて、マジで同じことをしてて負けたと思った。ヴァースは強めにいくけど、サビは歌モノという。そのあと今度は「Shirt」が出て、あれはもう『T R A P S O U L』と比べてTR-808がもっと歪んできてるじゃないですか。あぁ、これからは絶対こっちが来るなと思って、その歪み感はすごく意識しました。究極は「ROLLS ROYCE」で、あれはもう行き過ぎてロックになってるというか。
—藤田さんは、VivaOlaさんの『APORIE VIVANT』を聴いていかがでしたか?藤:自分が『T R A P S O U L』を一番感じたのは、やっぱり二人で作った「O.M.M」です。SWVの”You’re Always On My Mind”のピアノをサンプリングしようとしたところとかは、明らかに『T R A P S O U L』思考ですし。あと、ビートがミニマルで無駄な音が入ってない、二番の三連符のフロウも。英語の表現を日本語にしていて、リリックもダブルミーニングが多い。他だと一曲目の「VIVA」も『T R A P S O U L』の流れを感じますよね。
V:織也くんはラップユニットとしてBleecker Chromeをやってるじゃないですか。自分は「Alive」という曲が好きなんですけど、ああいうラッパーかシンガーか分からない曲を意識して作りました。日本でああいうのやってる人いるんだ!と思って。
藤:結局、全く違ったサウンドになったね(笑)。後半で、オクターブ下げてると思うけど、あれはヒューストンのDJスクリューのチョップド&スクリュード的なアプローチなのかな? その後クラウドラップアーティストやエイサップ・ロッキーがやって、それが流行ってるのを見たトレイ・ソングズが取り入れて、それを見たブライソンティラーや韓国のDEANの世代がやってるのを見たケシや僕らの世代に引き継がれてるはずです(笑)。
V:そうだね。長い長い流れがある(笑)。
藤:日本でやってる人があまりいないよね。
V:Yo-Seaくんとかがやってる音楽は確かにすごく好きで、『T R A P S O U L』とか聴いてそう。でもそれをそのままやってるわけではない。自分もそう。再解釈して同じものが出るわけがないし。
藤:本場があるからこそ、それと同じものをやっても意味がないしね。自分が今まで生きてきて見聞きしたものを反映してる。
—再解釈というのは、非常に難しいですよね。当然、模倣とは違うわけで。藤:僕らって、オルタナティブR&Bから影響を受けて曲を作ってる第一世代だと思うんです。だから、自分たちが通ってきたジャンルを正直に作るっていうこと自体が、オルタナティブR&Bの次につながるんじゃないか。正直に作るというのは、自分自身であり、他には真似できないから。
V:そうだね。今回アルバムを作るにあたって(ブライソン・ティラーの)「Don’t」みたいな曲もあったんだけど、ボツにしたのは「Don’tすぎるから」という理由(笑)。リニアなビートがあって、どこがサビか分からないようなトップラインが鳴っている、みたいな。でもそれはブライソン・ティラーじゃん。
藤:フランク・オーシャンもザ・ウィークエンドも、出た当時は評価の指標となるものはなかったけど、それをなんとなくオルタナティブR&Bっていう括りでふわっとまとめたのは、おかげで色んなことがうまく成り立っている感じもあると思う。ヒップホップになると、もっと細かくジャンル、エリア、集団で派閥分けがされているじゃないですか。
—オルタナティブR&Bは、内省的で自分の中にあるやりきれなさや哀しみといった感情を吐露する面があるじゃないですか。そもそも、お二人のキャラクターがそういったものと親和性が高いというところもあるんでしょうか?藤:迫害されているような気分で生きてきてますよ(苦笑)。僕は5歳から歌を歌ってて、12歳から16歳までNYに行ってモータウンミュージックから90年代R&Bを通ってきて、留学中にR&Bとヒップホップの大きな転換期に出会し、吸収して帰国したんですけど、自分と同じような音楽をやっている人は居なかったんです。それで、一人孤立しちゃった。最初はトラップ系のタイプビートの上で歌ってたんですけど、日本のシンガーでそんなことしてるのは2017年当時ほぼいなかった。自分はファッションやストリートの友達が多くて、ボロい部屋でマイク一本で音楽やってると、業界にいた友達からは「あいつはラッパーになった」とかシンガー友達からも散々言われて……みんないなくなっちゃったんです。困惑される理由を理解しながらも、自分は音楽に正直で新しくて正しいことをしているという気持ちを常に持っていた。だからこそ受け入れられない怒りや悲しみ、ニューヨークで受けた衝撃を具現化できない悔しさは16歳の自分には大きかった。周りに人がいないから、メランコリックな気持ちを独り言のようにつぶやきながら歌を歌うじゃないですか。それは、トラップソウルのアーティストたちと共通してたんだと思う。僕はシンガーだけどヒップホップのメンタルも持ってR&Bを歌ってる。
V:反逆的なところはあるよね。自分の場合は、元々バークリーに行ってソングライティングを学んでた時も、歌うつもりはなかったんですよ。やっぱり、初期のアンダーソン・パークとか、プロデューサー気質だったりライター兼アーティストみたいな人が好きで。リアーナも好きだけどそれ以上にシーアが好き、みたいな。それで、織也くんと出会った時に感動して、マジなシンガーがいた!と思った。自分もマインドは織也くんに近いところはあって、だからマイケル・ジャクソンもそういうところが好きなんです。皆が一方向に向かってる時に一人違うことをやりはじめる感じ。急にスラッシュと組み始めたり、50セントが一番好きとか言いだしたり(笑)。
藤:マイケルは今生きてたら絶対ドリルやってるよね。
V:やってる。しかも、めちゃくちゃ早い段階でやるか、流行り切って廃れたあとに「ドリルってこうやってやるんだよ」ってカッコいいのを出してくる。
—最後の質問です。今日オルタナティブR&Bについてたくさん話してきた中で、本当に色々なスタイルがあることが改めて分かりました。でも、それだけ多様化した音楽を私たちは相も変わらず「R&B」と呼んでいる。2024年の今考える、そのコアにある「私たちがR&Bと呼ぶ変わらないもの」は何だと思いますか?V:うわ、難しい! 歴史的に見たら、(
この言葉自体は本来差別の意味を含んでいるけれど)まずはレイスミュージックであると思う。ラジオでかける黒人の音楽。スタイルというよりは、カテゴライズ上。だから、ヒップホップみたいなカルチャー音楽とは違う。
藤:トラップソウルだけで言うと、コアはカニエの『808s & Heartbreak』だと思う。あとは、あまり言及されないけどザ・ドリーム。
V:そうだ、ドリームがいた!
藤:歌唱法的にそうだよね。
V:それでいうと、「R&Bのコア」にあたるものとして歌唱法は定義しやすいんじゃないかな。
藤:そうなると、モータウンに遡っちゃうんだよな。
V:そうだよね。モータウンなんだよ。
—ありがとうございました(笑)。藤:トラップソウルって、日本で全然語られてないじゃないですか。こういう日本語での記事も残しておかないとあと数年経ったらマジでなかったことになってしまうのではないかと、何年も思ってたので良かったです。今ヒップホップが日本で盛り上がりを見せてるからこそ、トラップソウルに関することはちゃんと伝えておいた方がいいと思う。
V:すべてはコンテクストだから。確かに過去のソウルミュージックやR&Bも知られるべきだけど、現行の音楽がちゃんとシーンに根づいていたら、過去のそういった音楽も自然とさかのぼっていけると思うんです。だから、僕たちももっと仲間を作ってそういうものを育んでいきたい。
Photo by Mitsuru Nishimura<INFORMATION>
『APORIE VIVANT』VivaOla配信中
https://vivaola.lnk.to/APORIE_VIVANT01. VIVA
02. HURT
03. TOO LATE
04. GIVE MINE
05. BOLD (feat. reina)
06. ROLLS ROYCE
07. PRESENCE
08. HANDLE
09. O.M.M (feat. 藤田織也)
『Enfant Terrible』藤田織也配信中
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3月29日発売