VivaOla、藤田織也、つやちゃんが語る「オルタナティブR&B」の変遷

R&Bの系譜から見る『T R A P S O U L』

—お二人は、『T R A P S O U L』以前のR&Bで、それに近いフィーリングを感じる作品だと何を思い浮かべますか?

藤:R&Bってついているからこそ、オルタナティブR&Bも過去のR&Bからの流れに位置づけたいですよね。そう考えると、『T R A P S O U L』はジョデシィのフィーリングが近い。DeVante Swingのサウンド。パフダディー率いるBad Boy Recordsが押してたヒップホップベースのR&B作品たちも。いずれも多くのR&Bアーティストがサンプリングし再解釈してる。もっと遡るとテディ・ライリーのニュージャックスウィングもそういう感じだったんじゃないかと思ってて、『T R A P S O U L』は現代のニュージャックスウィングに近いと言えるかもしれない。ドラムとベースはヒップホップだけど、コードと歌がR&Bだというのは、名前もサウンドも『T R A P S O U L』の組み立て方に近い。

V:ジョデシィの「Freek’n You」とかは、フロウが同じだもんね(と歌う)。ほら、ノリが同じ(笑)。R&Bってナインスで終わるものが多いけど、『T R A P S O U L』もメロディがナインスで終わる。ロックはルートとか5度で終わるけど。あと、ウワモノだけじゃなくてテーマもR&B的。夢があってファンタジックなのが多い。そういう意味ではやっぱり『T R A P S O U L』はR&Bの系譜にあると思う。



—ちなみに、『T R A P S O U L』はリアルタイムで聴いた時も衝撃を受けましたか?

藤:受けました。

V:登校中ずっと聴いてた。自分はジャスティン・ビーバーの『Journals』(2014年)とかが好きなミーハーな人だったんだけど、さっき言ってた通り、フォーマットが変わっただけで歌モノの要素やグルーヴ感は変わってないからすんなり聴けた。



藤:当時は全体的にエスセティックやコンセプトがちゃんと作られてるなと思った。特に男性アーティストはミステリアスな人が多くて、無理に頑張ってない感じのアーティストがたくさん出てきたよね。

V:過剰にエロくなかったのもある。

藤:リアルにモテそうな人というか。上半身裸にならなくていい感じ(笑)。リアルだった。

—確かに、嘘っぽくなくなった。大仰に作らなくなったというか。

藤:写真もスマホで撮ったような画質のポラロイド系のフィルター多め、文字は細いフォント。ファッションも無地多めで、ミニマル志向。それまではモードファッションにフッドのDr Jaysでも売ってるようなアイテムをミックスして大きなチェインを下げたコーディネートだったのが、オルタナティブR&Bになるとサイズ感は引き継ぎつつももっとスマートになった。キャップやスニーカーでちょっとだけストリート要素を見せる、みたいな。

—ファッションやアートワークなど、そういったキャラクターの変化がリリックにも反映されましたよね。

藤:言葉遣いも会話調になったり独り言調になったりした。

V:今回のアルバムで二人で一緒にやった「O.M.M」っていう曲はSWVをサンプリングしてて、それもあってSWVをよく聴いてたんですけど、やっぱりメタファーが全然違うんですよね。『T R A P S O U L』は急に時事ネタが出てくるし、パーソナルでリアル。



藤:フランク・オーシャンの「Biking」とかもそうだよね。ブランド名を出したり、ヒップホップっぽい。ラフ・シモンズの2002 FALLコレクションのタイトルをさりげなく入れてるんだけど詞としてもちゃんと意味を持たせてる。彼なりの分かる人には分かるフレックス。とてもポエティックでありながらも韻を踏む対象にR&Bを感じたりする。



—そして、歌唱方法も変わった。

藤:2000年代の「どれだけ歌が巧いか・レンジが広いか」という歌唱力が重要な時代から、大きく変わりました。クルーニング唱法、いわゆるぼそぼそした歌い方が増えましたよね。オートチューンを挿してるから口をあまり開かなくても歌える。フェイク、リフも語尾にちょっと添えるだけの人が多くなった印象です。ロングトーンが全体的に減ったと思います。

V:そもそも2000年代以降のポップスって、ボーカル・スタッキングが主流で、基本的には真ん中と左右とハモリを音量下げて一つの大きいボーカルみたいに見せてたけど、『T R A P S O U L』以降はヒップホップの機材の影響が大きくて、みんなこぞってソニーのC-800Gっていう黒いガイコツみたいなマイクを使うようになった。それか、ロックで定番のNEVE1073にCL1Bという青いコンプ。そのあたりを初めて使ったのはカニエとからしいですけど。それが徐々に広がって、2020年以降は定着した。

『T R A P S O U L』はボーカルの音の置き方も面白い。以前からアッシャーとかがやっていた通り、R&Bにも早いヴァースはあったけど、音の置く場所やアクセントやどこでライムするかがかなり変わった。でも、もどかしいのは、『T R A P S O U L』って最近の日本のシンガーでもそこまで影響を受けてないじゃないですか。そうなると、やっぱり日本のR&Bシンガーってアッシャーとかアリシア・キーズとかがやっていた昔のアクセントになってしまうんですよ。それで言うと、クリス・ブラウンは『Breezy』あたりで追いついてきましたよね。



—日本はちょっと特殊かもしれないですが、世界的に見て、『T R A P S O U L』以降の現在まで続くオルタナティブR&Bの流れをお二人はどう捉えていますか?

藤:ザ・ウィークエンドの『Starboy』(2016年)、中でも「Reminder」とかは、やっぱり『T R A P S O U L』が出たからこそあれがポップスとして昇華されたと思います。でもそれ以降ザ・ウィークエンドはメトロブーミン以外とはそういうスタイルを多くはやってないし、トラップが基礎になりすぎたからこそもう飽和しちゃって、最近は2000年代のネプチューンズとかティンバランド的なサウンドがR&Bでは戻って来てますよね。ヒップホップでもトラップも飽和しちゃってオーセンティックなビートが戻ってきてる。またシンガー達の歌唱法がここから変わってくると思う……んだけど、SZAの『SOS』(2022年)が出たからね……! あれは『T R A P S O U L』ぽさも感じるんだけど、毎行パンチインして録ったようなボーカルやフロウにヒップホップを感じつつも、歌としてのライティングも徹底されていて、新たなアプローチが多かった。





V:「Snooze」と「Gone Girl」がめちゃくちゃ好き。ヴァースがラップっぽいのに、サビにいくと歌になる。

藤:宇多田ヒカルさんみたいだよね。「Automatic」的というか。



V:そうそう。

藤:ベイビーフェイスやレオントーマスがライティングに入ってるのもしっくりくる。

V:Tiny Desk Concertの話をしないといけなくて、あれによってR&Bは名声をもう一度獲得したところはあると思う。アッシャーなんてみんな馬鹿にしていたところがあったのに、最近あれを見て好きになったっていう人が多い。ベイビーフェイスも出てたしね。ああいう企画が追い風になって、2000年代のR&Bがまた一巡して戻ってきた気がする。

藤:あとSped Up等も大きい。ああいう違うヴァージョンがSNSで度々流行ることで、若者の間ではR&Bだと知らないけど普段からたくさん耳にしていて、話題となる機会が多くなった。昔のVineで起きてた事が進化してTikTokで起こってる。

V:やっぱりSZAによって『T R A P S O U L』は完全にスタンダードになったんだよね。

藤:そう。そして完全なるポップスとして昇華された。


VivaOla(Photo by Mitsuru Nishimura)


藤田織也(Photo by Mitsuru Nishimura)

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