VivaOla、藤田織也、つやちゃんが語る「オルタナティブR&B」の変遷

ロックとの接点、クラウドラップからの影響

—フランク・オーシャンは、やっぱり特異な位置にいますよね。

V:そうなると、ミゲルはどうなんだという話になる。彼は、ルーツがR&Bでありながら明らかにロックが好きじゃないですか。ロックバンドよりロックしてる時もあるし、サイケデリックな時もある。2017年に出した『War&Leisure』が印象的で、「Sky Walker」はトラップなんだけど『T R A P S O U L』みたいなパツパツで歪んでるサウンドじゃなくて、あえてTR-808の元の音みたいなサウンドを出し始めて。当時、彼は時流を凄く意識してたんじゃないかな。あれはオルタナティブR&Bの多様化の一つとして捉えられると思う。ドレイクもやっぱり重要で、カニエ、ブライソン・ティラー、フランク・オーシャンとかがファースト・ムーバーだったとしたら、ドレイクはそれを大衆に広めた功績がある。



それで言うと、ミゲルはファースト・ムーバーでもありながらセカンド・ムーバーでもあった。自分で打ち立てた音楽性に対して、『T R A P S O U L』に影響を受けたうえで自分にカウンターを働かせたから(笑)。だから、アルバム毎に方向性を変えるという意味で、ミゲルはR&B界のプリンスとかベックとかの立ち位置にいる。いま話していて気づいたけど、オルタナティブR&Bに特有の、声にエフェクトをかけるというオリジンはプリンスかも。あの人もダークなところがあるし。でもそれ以上に、フランク・オーシャンはやっぱりジャンル関係なく何でもできる。オルタナティブR&Bにくくれない。「Solo」という曲ではコリー・ヘンリーというゴスペルのオルガン奏者の重鎮が参加してるけど、そういうのってトラックでは絶対作れないじゃないですか。と思ったら、「Nights」みたいなザ・プロデュースっぽい曲もやったり。





—確かに、フランク・オーシャンもミゲルも、ロックに影響を受けてはいますが全く違う音楽性ですね。

V:いま2020年代になってようやく見えてきたのが、ミュージシャンの種類が増えてきたということなのでは。昔はミュージシャンはギターが弾けないといけないか色々条件があったけど、そういうスキル的な巧さよりも、何を表現できるかというモダン・アートのようなことになってきてると思う。歌も、巧いフェイクは味付け程度で良くて、ヴァースで何を吐けるかというラッパー的要素が重視されてるし。それをやったのが『T R A P S O U L』なんじゃないか。フランク・オーシャンはやはりバックグラウンド的にはそこにいない。デフ・ジャムでソングライターをやってた人なので。ちょっとオールド・ファッションな人。でも、気づいたらその全く違う二人がマッチしていたというのがオルタナティブR&Bの不思議なところ。それが2015年~2016年だったと。

藤:あと、SoundCloudの影響は大きかったと思う。あの頃はSpotify等のサブスクも今ほど普及してなくて、i-tunesで音楽を購入するような時代。そんな中SoundCloud上に自主のミックステープをフリーでアップロードしてたオルタナティブR&Bの人たちのラッパー的ムーブは大きかった。フランク・オーシャンも結局はレーベルからの待遇が良くなくて自主で出したし、そういったインディペンデントでアナーキーな姿勢があった気がする。

V:あの人たちのおかげで、状況が変わった。TikTokもそのマインドに近くて、インディペンデントな人たちが「売れてる曲じゃなきゃ流れない」ではなく「売れるムーブをすればいい」というふうに意識が変わった。当時のVineって今のTikTokに似てるし。

藤:そういう、現代的なSNSでのバイラルヒットはあの時が初めてだった気がする。

V:SoundCloudってマスタリングプロセスが全部込みで、まとめてリミッターかけたみたいになるから、トラップと相性が良かったのかなとも思う。Bandcampは綺麗な音にするからそれとは真逆。SoundCloudの方が、どんな音でも入れたら一律にカッコよくはなる。

—当時は、ヒップホップでもSoundCloudから新たなラッパーがどんどん生まれていましたね。

藤:クラウドラップは重要ですね。リルビー以後、エイサップ・ロッキー、ヤング・リーン、プロデューサーで言うとクラムス・カシーノなどが打ち出した、浮遊感のあるサウンドデザインにそれらを突き落とすような808ビートはこの類のR&Bにも間接的に影響を与えたと思う。クラウドラップはそこからレイジやPlugnBにまで派生していったけど、いずれもダークなエスセティックを持った気鋭な人たちが多く、それをホットなスタイルと捉え実験的に取り入れたシンガーが増えたことはオルタナティブR&Bが大きくなった一因にあるのかもしれない。ヒューストン出身のトラヴィス・スコットも『Birds In The Trap Sing McKnight』(2016年)ではタイトルの通り、ブライアン・マックナイトがトラップを歌うようなアプローチもあった。ヒップホップがR&Bの良さも吸収していったから、そうなると、今まではファンタジー要素が多かったR&Bシンガー達もラッパーのリアルさやフロウを取り入れないとトレンドに対応出来ないと捉えた人は多かった。カニエ・ウエストの『808s & Heartbreak』を筆頭とし、日本のTR-808がオルタナティブR&Bに与えた功績はものすごく大きい。



V:あと、オートチューン。オートチューン自体は90年代からあったけど、使い方が大きく変わった。カニエの「Coldest Winter」を聴くとそう思う。



藤:フランク・オーシャンも、文脈が違うとは言え、浮遊感があるじゃないですか。(アナログシンセの)Prophet-5などのシンセはTR-808に近いニュアンスがある。

V:80年代にKORGとか日本のメーカーが作ってた楽器が最近アメリカのブティックショップに売ってて、それを使い直したっていうムーブメントがちょっとあったじゃないですか。ザ・ウィークエンドが使ってるシンセとか日本製のものが多いし、そういう背景もあるのかもしれない。そう考えていくと、やっぱり『T R A P S O U L』は、歪みが重要だと思う。

藤:シンセの浮遊感があるが、808自体は凄く歪んでる。

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