VivaOla、藤田織也、つやちゃんが語る「オルタナティブR&B」の変遷

ブライソン・ティラー『T R A P S O U L』の存在

—お二人が、いわゆるオルタナティブR&Bといったものを認識した時っていつくらいなんでしょうか。そもそも当時はそういった名称で流通していたわけではなかったかもしれませんが。

VivaOla(以下V):フランク・オーシャンって、元はソングライターでしたよね。だから、特に初期はその名残が強い。自分は元々ロックを聴いていたこともあったしブリッジやサビを好むので、基本的にソングライターが好きなんですよ。だから最初のシングル「Swim Good」(2011年)とか好きだし、それもあって、フランク・オーシャンをオルタナティブR&Bとして聴いたことがあまりなかった。オルタナティブR&Bって、やっぱりフォームレスだったりシェイプレスだったり展開を変えていったりするものが多いじゃないですか。それらと初期のフランク・オーシャンは、けっこう種類が異なるものだと思うんです。ただ、それが『Blonde』(2016年)になると、オルタナティブR&Bと呼んで片づけてもいいかもしれないし、あるいは“ボン・イヴェールから影響を受けたオルタナティブ”として捉えてもいい。ややこしいのは、今言った“オルタナティブ”は“オルタナティブR&B”ではなくて——





—ロックの流れから来ているオルタナティブの方を指していますよね。

V:そう。レディオヘッドとかの流れにある、本来のオルタナティブ。一方で、R&Bの歴史の中でのオルタナティブというと、自分は例えばパーティネクストドアの『COLOURS』(2017年)のサウンドとかが近いと思う。



—早速ややこしくなってきましたね(笑)。整理すると、主にロックの流れの中でオルタナティブな文脈というのがあって、初期のフランク・オーシャンはソングライター出身だしインディロックの要素があるので、その流れにも位置づけられると。で、それとは別にR&Bでは2010年代にオルタナティブR&Bという潮流が盛り上がり、VivaOlaさんは例えばパーティネクストドアをその代表格の一つに位置づけている。フランク・オーシャンもアルバムを重ねるごとに作風を変化させていて、いわゆるオルタナティブR&Bと捉えてもおかしくないサウンドになっていったということですよね。藤田さんはいかがですか?

藤田(以下、藤):転換期は2014年~2016年だったと思います。自分はちょうど2014年~2017年までNYに住んでいたのでその時期とかぶっていて、変化を肌で感じていました。それ以前のR&Bには、クリス・ブラウン、トレイ・ソングズ、オマリオンとか、いわゆるインダストリープラントの人たちがいましたよね。サラブレッドとして小さい頃から教育されていたりソングライターが用意されていたりする人たち、つまりシンガーソングライターというよりはアーティストという人たち。そこから変化が起き始めたのは、2014年だったと思う。トレイ・ソングズの『Trigga Reloaded』(2014年)がその流れに終止符を打ちました。あの作品は、R&Bとして、アルバムのアートワークからサウンドまで統一したエスセティックを持っていた。ミニマルだったんです。それまでの彼のディスコグラフィと比べるとラジオヒット向けでない点も珍しかった。出た当時はタイトなサウンドに不慣れな人からはつまらないと批判されていましたけど、彼の色がとても濃く出ていて、中学一年生の頃 HOT 97 Summer Jamで彼のセットを見た時自分はシンガーの新たな境地を発見した気分でした。



そういった大きな変化がある中で、ブライソン・ティラーの『T R A P S O U L』(2015年)が出たことによってそれまでのインダストリープラントな人たちが一掃されてしまった。彼の「Don’t」という曲が2014年の12月くらいにSoundCloudにアップされて、当時vineのインフルエンサーの間で口パク動画等が流行った。そこから、ベッドルームで作るミニマルなビートで歌うアーティストというのがメジャーシーンでの市民権を得ていったと思う。さかのぼると、2011年に出たザ・ウィークエンドの『House Of Balloons』などもそうだし、いわゆる初期のSoundCloudを筆頭したティナ―シェとか、そのあたりのアーティストを振り返ってみても、けっこうメランコリックでタイトなビートの曲をやっている。それが今まであまりメジャーシーンには浸透していなかったんだけど、「Don’t」のヒットと『T R A P S O U L』のリリースによってやっと認知を得て、次いで似たようなアーティストがどんどん出てきたという印象です。だから、そこが転換期だったんだと思う。





—ブライソン・ティラーの『T R A P S O U L』って、オルタナティブR&Bにおいては確かに重要ですが、特に日本では軽視されがちなところがありますよね。

V:トラップも、初めはオルタナティブだったわけじゃないですか。2010年くらいにエレクトロR&Bが飽和化して、もうさすがにいいんじゃないかなってなった時に、トラップがエレクトロ文脈でのオルタナティブになったと思うんですよ。

藤:間違いない。



V:トラップはそもそもポスト・ダブの流れから来ているし。そう考えても、自分の中ではフランク・オーシャンはオルタナティブR&Bという感覚があまりない。ザ・ウィークエンドの流れは当時“ダークR&B”と言ってる人がいて、それはしっくりきた。『Beauty Behind The Madness』が出たのが2016年で、同時期にフランク・オーシャンもいたし、あの時はどう棲み分けたらいいかよく分からなかった人が多かったと思う。でも2016年というのは間違いなく凄い年で、オルタナティブR&Bと呼ぶものが完成したタイミングだと思います。というか、ポップ・シーンそのものが凄かった。



藤:ビヨンセやリアーナも、追ってオルタナティブなアルバム作品を出した。確かに、エレクトロを独自に取り入れているというのが、オルタナティブR&Bの傾向の一つとして強くあると思う。フランク・オーシャンはMGMT「Electric Feel」を使った「Nature Feels」(『Nostalgia, Ultra』収録)があったり、ザ・ウィークエンドもポーティスヘッド「Machine Gun」を使った「Belong To The World」(『Kiss Land』収録)があったり、パーティネクストドアもディクロージャ―「Latch」を使った「Sex on the Beach」があったり、エレクトロ的な要素はかなり重要なんじゃないか。





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