BREIMEN・高木祥太とヘアスタイリスト・木村一真が語る、ヘアメイクの奥にあるもの

左から、木村一真、高木祥太(Photo by Goku Noguchi, Hair and Make-up by Kazuma Kimura, Styling by Riku Murata)

BREIMENのボーカル・高木祥太が、「この人の人生や考えを聞きたい」と思う人物を呼んで対談する連載企画。今回のゲストは、ヘアサロン「SKAVATI」のオーナーでありミュージシャンや俳優のヘアメイクを手がける、ヘアスタイリスト・木村一真。サポートミュージシャン/アレンジャーとしても活躍する高木と、サロンに来るお客様や表現者たちのビジュアルを作る木村の共通項から、「誰かのためのもの作り」の本質を探る。

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※この記事は「Rolling Stone Japan vol.25」に掲載されたものです。

ヘアメイクが完成するまで

今回の撮影場所は、木村がオーナーを務めるヘアサロン・SKAVATI。普段、高木が通っている場所でもある。

高木が到着後、挨拶とラフな会話を交わしてから、さっそくヘアスタイルを作っていく。我々スタッフからは木村と高木に誌面のページデザインや撮影のイメージだけを大まかに伝えて、あとは二人のフィーリングと想像力にお任せ。「あくまで『インタビュー』のためのヘアメイクだから、やり込まなくてもいいのかな?」という木村に、「せっかくならやってもいいんじゃない? やり込むと、やり込まないのあいだ?」などと返す高木。今回は「インタビュー」と「ヘアスタイリング」を掛け合わせた特集ページで、スチール撮影も映像収録もあり、しかもヘアスタイリストが対談ゲストであるというイレギュラーな条件だらけ。「これらの条件にハマる、高木祥太を生かすヘアスタイルとは何か」について木村も頭を悩ませている様子。

木村は高木の髪の毛を触りながら、「何もしないっていうのも面白いかなと思っていたんだよね」「リップとかする?」などいくつかのアイデアを挟んで、完成図の想像を膨らませる。「いつもヘアメイク中はインタビューで話すようなことをキム(木村)と語ってる」と高木がいう通り、最近互いが考えていることなども共有し、それらをヒントにしながら互いのクリエイティブが交わる点と今日作り上げるべきヘアスタイルを探っていく。

「『赤裸々SESSIOONe』はゲストがメインだから、キムの好きなようにやって」という高木の言葉が合図となったかのように、木村は「わかった!」とひらめいた表情を見せた。「わかったというか、最初に思っていたものが鮮明になったわ」。そこから華麗に手を動かし、30分もかからない間に高木のヘアメイクは完成した。

そして、まずはスチール撮影を開始。木村はポージングや撮る場所などについても気にかけてくれる。ヘアメイクだけが自分の仕事ではなく、最高な一枚の絵を作ることこそが成すべき責務であるという考えが彼にはあるのだろう。

色々な撮影方法を試しきってチーム全員が満足したあと、和やかな雰囲気で対談へと進んだ。

本日のスタイリングテーマ
「様になる違和感」

ー最初に、今日の祥太さんのヘアメイクを作り上げる過程で木村さんが考えていたことを教えていただけますか。

木村 いつもその日の衣装、撮影する場所、ライティング、対談相手とかによって、ヘアのテクスチャーやデザイン変えるんですけど、今日はちょっと特殊で。そもそも今日の俺の仕事は「インタビューをする高木祥太」のヘアメイクをすること。だからまずは「インタビューのときの高木祥太像」を俺の中で作る。でもインタビュー相手は俺で。しかも「写真を撮ること」が先行している企画ではない。そういったことが頭の中にあったんですけど、祥太と話している間に、ただただかっこよく、いい感じに艶を出して、みたいなことを求めてはいないんだろうなと感じて。祥太に面白い表現として受け取ってもらえて、俺もかっこいいと思えるヘアスタイルって何だろうと思ったときに、シンプルに彼の今の髪の状況をいかして、対談していても様になるけど写真を撮ったときも違和感があるようなシルエットや質感をデザインすることを考えました。

ー手の甲に「Red」と書いたのは、どういった発想からですか?

木村 何かスパイスが欲しいなと思って。普段から、文章や文字からイメージすることが多いんですけど、今回は「赤裸々SESSIOONe」というワードから考えたときに「赤」だなと。でもリップをつけるとか目のところを赤くするとかではなく、もっと雑なストリートスタイルを取り入れる方が「赤裸々SESSIOONe」においてかっこよく映るんじゃないかなと思って。綺麗にステンシルで入れるとかでもなく、手書きの雑さみたいなものが、今回の「赤裸々SESSIOONe」の写真へと導けるんじゃないかなと思ってやってみました。

高木 赤の要素でひとスパイス入れたいというときに他にもやりようがある中で、ここにいける人っていないと思う。俺も「赤リップとかいいな」と思ったんだけど、安直な感じは嫌なんだろうなと思って。あのスピードで発想の転換をできるのがキムのすごいところだと思う。反射神経が速い。

木村 自分の頭の中に記憶の宮殿みたいなものがあって、そこから引っ張り出してくる感覚なのかな。


Photo by Goku Noguchi, Hair and Make-up by Kazuma Kimura, Styling by Riku Murata

高木が木村を信頼する理由

ーそもそも、祥太さんと木村さんのご関係は?

高木 最初は、俺がベースを弾いてるTENDREがフジロックに出たときに会ったんだよね。そこから(高木がサポートを務める)TENDRE、Tempalay、AAAMYYY、saccharinとかの現場でヘアメイクをやってもらうようになって、普段髪を切るのもキムに頼んでる。

ー祥太さんは木村さんのどういうところを信頼しているんですか?

高木 キムのこと、信頼してなくて。いや、信頼してるんだけど(笑)。信頼って、たとえばラーメン屋に行って、毎回ちゃんと同じ味のラーメンが出てくることも「信頼」というと思うんだけど、そういうベクトルでいうなら真逆。予想を裏切ってくる。俺はそういうことが好きだから。髪の毛を切るときに「こういう感じにしたい」と頼んでも大体それ通りにならないし、基本的に想像の外にいく。それが魅力かな。

木村 ありがとうございます。

高木 そもそもなんでキムを「赤裸々SESSIOONe」に呼んだのかというと、シンパシーを感じるからで。TENDREとかTempalayでの携わり方も「本人をバックアップする」という立場でいえば近いし。ヘアメイクさんにもいろんな人がいるけど、もし俺がヘアメイクだったらこんな感じのスタイルだろうなって勝手に思ってる。俺がベーシストとして何かに参加するときのスタンスとしても、同じ味を出すラーメン屋じゃなくて、基本的に想定の外へ行きたいと思っていて。大事にしている部分が近いんじゃないかな。

木村 シンパシーはめっちゃ感じるね。

木村が美容師になるまで
「自由」のルーツ

ー二人がシンパシーを感じているところについて深く語り合ってもらう前に、まず木村さんのプロフィールを簡単に聞かせてください。

高木 キムって、美容院での美容師スタート? ヘアメイクからではなくて。

木村 うん。

高木 どの段階で美容師を目指したの?

木村 高校。専門学校に入る前。

高木 なんで目指したの?

木村 選択肢が2つしかなかった。美容師か、料理人。4人兄弟で下に3人いるから、下に余力を残したかったらしく「就職するか、どうにかしなさい」って言われて。

高木 大学とかじゃなくてね。

木村 そうなったときに、料理人としてどこかに弟子入りするかとも思ったんだけど。

高木 なんで料理?

木村 料理、好きで。昔から作ることがやりたかったんだろうね。自由度が多いことをやりたいと思ったから、美容師という選択肢しかなかったかな。

ー美容院で働かれていた中で、どうやってミュージシャン界隈と関わるようになったんですか?

木村 27歳のときに同い年のやつら4人で「darlin.」というお店を始めたんですけど、そこで音楽の人たちとより会うようになりました。もともと高校からダンスをやっていたのもあって音楽は好きで。30歳までに自分で店をやろうとはずっと考えていたので、コロナの期間中にdarlin.を抜けて、駒場東大前にある1店舗目をオープンしたという感じです。

高木 ここ(2店舗目)はいつからだっけ? 1年経った?

木村 1年経った。

ー木村さんのもの作りに対するルーツの根底にあるものとは?

木村 記憶にあるのは小1かな。小学1年生のとき、席の一番後ろで段ボールで枠を作って、その中で授業を受けている男の子がいて。

高木 なんで?

木村 多分、それがその人の個性だった。俺はそいつを見たときに衝撃が走って。「こいつはなんて自由なんだ。超かっけえ」って。そこでとらわれないもののかっこよさみたいなものに目覚めて、そこから「オリジナル」とか「自由」というものを常に自分のそばに置きながらやってた。だから小学校時代がルーツの根源にあるんじゃないかな。そいつを見習って、授業中に抜け出して飼ってたインコの餌を取りに行ったりしてた。

高木 どういうこと?(笑)

木村 できる限り自由にさせてほしかったの。

高木 めっちゃいい学校じゃない?

木村 そう、それを肯定してくれるから。俺も肯定されるように言うわけよ。「先生、インコがすごくお腹減ってそうなんですけど餌がなくて。今取ってきてもいいですか?」とか。その餌を取りにいく時間がものすごく気持ちよかった。

高木 いいね。

木村 授業を抜け出して、作業員の人らの要員室に置いてある木とか電ノコを使って1人で工作をやったりもしてた。そういうことがルーツになってるかな。

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