Friko決定版インタビュー 「王道の名盤」をめざした高い志、衝撃デビュー作が起こした奇跡の裏側

今の時代、クールを気取ってる場合じゃない

―自分がアルバム全体から感じるヴァイブは、ダイナミックでエモーショナル、かつユーフォリックというものです。これはあなたたちが目指すところでもありましたか?

ニコ:感激だなあ。っていうか、そう、ホント目指してるのはそこだから。そんなふうに感じてもらえて、マジで嬉しいっていうか、狙い通り。

ベイリー:あと、これって、私の音楽との関係性の根幹にあるものなんだけど、何だかわからないけど心が動かされるっていう……理由なんて何だっていいの。とりあえず、強く感じるものがあれば、それ自体がすごく美しいことじゃない? これまで一度も会ったことがない人同士が繋がることができるんだから。それを自分たちの音楽でも実現できたらなって。それがまさに、自分が音楽をやっていく上での夢というか、目標かな。そうやって人々の心を動かすっていう。

ニコ:わかるなあ。今って、アパシーとか言ってる場合じゃないっていうか……いや、誤解のないように言っておくけど、自分だってそういうバンドは好きなんだよ? でも無気力とか無関心とか、一切心が動かないのって、なんか今の時代、ちょっと違う気がする。全部が全部ってわけじゃないけど、過去のクールなバンドの多くがどこか冷めてるというか、周りで何が起ころうが我関せず、みたいな態度だったわけで。それこそソニック・ユースとか……言っとくけど、自分はソニック・ユースの大ファンなんだよ!

―わかります。90年代のバンドって、アパシーという言葉でよく語られていましたよね。それに対して、いまの若い世代は社会や政治への関心が強いと言われていて。

ニコ:とはいえ、人によりけりだと思うけどね。今の世代にだって、クールな態度のバンドはいるし。だからって、そういうバンドをディスる気持ちは全然なくて。これは単に自分たちの性格もあると思う。そうやってクールな態度を取るのが苦手っていうか、困ってる人がいたら助けたいと思うし、普通に人に親切でありたい。

ベイリー:素の自分たちのままやってるだけだよね。

ニコ:ほんとそう。



―ただ昨今は、差し迫った環境問題があったり、アメリカは大統領選の問題もあったり、その支持層ごとの分断も増々深刻になっていたりして、もはやアパシーを感じていられるような状況ではない、という見方もできると思います。若い世代は物心ついたときから、そのような切迫した問題に晒され続けているからこそ、社会や政治に対する意識が高いっていう。

ニコ:それはものすごくあるね。今って悠長に構えていられる時代じゃないし、実際、今の自分たち若者世代って、どの世代よりも考えてるんじゃないかな。地球の未来についてなのか、あるいは他人に対する思いやりなのかわからないけど、確実に自分たち以外のことも気にかけてる。それは自分自身、今回のアルバムから感じるところだったりもするんだよね。

ベイリー:SNSの存在も大きいんじゃないかな。何か起きたら瞬時に明るみに出て即座に拡散される時代だから、知らなかったじゃ済まされない。真実に目を瞑ったままでは、もはやいられない時代だからね。ただ普通に生活してるだけで、イヤでも色んな情報が入ってくるんだから、それに圧倒されてしまうこともある。それでも、知らないよりかは知っておいたほうがいい。知ることで、今よりもっと上を目指そうっていう力になるから。

ニコ:とはいえ、SNSには嘘の情報も含まれるから、諸刃の剣でもあるんだけどね。でもほんと、目の前のすぐそこまで差し迫った危機が来てる。アメリカは今年、大統領選イヤーでもあるし、下手したら最悪のシナリオが待ってるかもしれない。そういう意味で、今年は本当に分かれ目の年だと思うよ。

―それこそ、ニコの書くリリックは、何かしらの困難が目の前にあり、必ずしもその解決の糸口が見えているわけではない状況を歌っているものが多いですよね。でも、サウンドに高揚感があるので、サウンドとリリックを合わせて聴くと、その困難を乗り越えて前に進みたいという意志が強く感じられるっていう。

ニコ:そもそも人生ってそういうものだし、自分がそのへんのバランスが取れてる音楽が大好きなのもあって。バランスというか、中和作業だよね。今それで、エリオット・スミスって言いかけたんだけど……エリオット・スミスって歌詞も曲も徹底的に悲しい曲もあるからなあ。もちろん、そっちのとことん落ちる感じの曲も大好きなんだけど。ただ、歌詞は超ダウナーなのに、音はめちゃくちゃハッピーな曲も作ってたりして。

ベイリー:歌詞と音楽のエネルギーの拮抗とかバランスって、曲によってケースバイケースだし、感情のままガーッと暴走してるような曲もあるし。「Crimson to Chrome」なんか、まさにそう。ものすごくアップビートで、しかもヒリヒリした内容の歌詞で、音楽も思いっきりそこに乗っかって、激情みたいな感じになってるし。ほんと、曲によるよね。

―じゃあ、リリックは自分たちのどのような側面や時期を表していると思いますか?

ニコ:歌詞については、ここ4、5年間の自分を記録したスナップ写真みたいな。ちょうど大学を入学1年目にドロップアウトして、今もそこで働いてるけど、大型量販店でバイトしながら音楽活動をしてて。それで思い出したのはミツキのインタビューで。ミツキが最初の4枚のアルバムは「人間活動をしながら音楽を作ってるようなものだった」と語ってて、まさに今回の自分たちのアルバムがそうだよなあって。情熱を賭けて打ち込んでるものがあるから、ものすごくハイになることもあるけど、ドーンと落ちることもある……うん、なんか、そんな悶々とした時期がそのまま反映されてる。



―『Where we’ve been, Where we go from here』というタイトルは、どのような意味合いでつけましたか?

ニコ:あの一節の中に、 自分の青春時代のすべてが凝縮されてるような気がして。 それこそ、今回のアルバムに辿り着くまでの何年か分のすべての経験が。で、それと同時に、そこから未来を思い描くみたいな……うん、そんな感じ。自分の胸の中にストンと落ちてきたんだよね。

ベイリー:わかる。そこに至るまでの自分たちの道のりをすべて振り返る、みたいな感じ。と同時に、未来は白紙のままオープンで、どっちの方向にも行ける。だからこそ、ワクワクするっていう。

ニコ:でさ、アルバムが出てから色んなところで指摘されて、自分でも「そうかも!」って思ったんだけど、長いタイトルってめっちゃエモっぽいっていう(笑)。別に狙ってたわけじゃないんだけどね。

―確かに(笑)。例えば、このアルバムはアーケイド・ファイアの『Funeral』、エリオット・スミスの『XO』、レディオヘッドの『The Bends』というトライアングルの真ん中に置くとしっくり来る、という見方がひとつには出来ると思います。そのような感じで、あなたたちのバージョンを考えてもらえませんか?

ニコ:うわ、いいね、今の最高! それって最強のトライアングルじゃない? 個人的には差し替えなしで、このままで何の問題もないよ。

ベイリー:私は正直、アーケイド・ファイアのアルバムってまだちゃんと聴いたことがなくて。ニコにもう何年も前から勧められてるんだけど。でも、エリオット・スミスとレディオヘッドには同意。




―じゃあ、アーケイド・ファイアの代わりに何か足すとしたら?

ニコ:ここは世間の声を反映して、ブライド・アイズって言っておく?(笑)

―いやいや(笑)。

ニコ:(ベイリーに向かって)何か思い浮かぶ?

ベイリー:今まさに、エリオット・スミスとレディオヘッドのアルバムジャケットを底辺とした三角形を頭の中に思い浮かべてる。良すぎる質問だな……何だろう……あ、アニマル・コレクティヴとかどうかな? 色んな角度から音楽にアプローチしてるところとか、そもそも変わってて実験的なところとか、とにかく楽しいってとことか。

ニコ:あー、わかる!

ベイリー:それか、ザ・マイクロフォンズだね。

ニコ:うん、マイクロフォンズに関しては、レコーディングにおける実験精神ってところで。自分たちもそっち方向を突き詰めることもできるんだけど、同時にライブ的な手触りも取り入れていきたいというか。マイクロフォンズもフィル・エルヴラムが全部一人で録音してるんだけど、そこはかとなくライブ的な感覚が漂っていて。

ベイリー:彼と同じ部屋にいて、目の前で演奏するのを見てるみたいな感覚になるよね。

―アニマル・コレクティヴの作品の中から一枚選ぶなら?

ベイリー:個人的には、『Campfire Songs』とか『Prospect Hummer』とか、EPのほうが好きだな。

ニコ:自分は『Sung Tongs』が一番好き。



Translated by Ayako Takezawa

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