Friko決定版インタビュー 「王道の名盤」をめざした高い志、衝撃デビュー作が起こした奇跡の裏側

めざしたのは「王道中の王道の名盤」

―『Where we’ve been, Where we go from here』に対する自分の第一印象は、USインディが何十年もかけて紡いできた歴史を凝縮した美しい結晶のような作品、というものだったんですが。

ニコ:うわ、嬉しすぎるコメントなんだけど。

―でも、これまで話してくれたように、もちろんあなたたちはイギリスのクラシックロックとか、いろんなものを聴いていて、影響を受けているわけですよね。

ニコ:自分に関して言えば、ここ4、5年は昔の音楽に夢中で。いわゆる名盤と呼ばれる王道中の王道の作品。歌詞があって、メロディがあって、ハーモニーがあって、ものすごい基本的なレベルで人々の心にコネクトするような音楽に強烈に惹かれているんだよね。老若男女、誰でもアクセスできるっていう。それこそ、まさに音楽の成せる技で。



―ええ。フリコの音楽にも、間違いなくそのような魅力が宿っていると思います。

ニコ:こうして言葉も文化も全然違う日本のオーディエンスと自分たちが繋がってるのだって、まさに音楽の成せる魔法以外の何物でもないし! 結局、自分たちの音楽のルーツはそこにあると思うんだよね。同時に、2人とも音楽に対してはオープンマインドなんで、色んな違う音に挑戦したいんだ。その(クラシックロックの土台の)上で、インディロックの核になる精神というか、自分のやってる音楽もまさにそうだけど、若者ならではのエネルギーも入ってきてるんだと思う。

ベイリー:わかる。今ニコが昔の音楽に興味があるって言ったけど、それと同じくらい最近の音楽だって聴いてるし。リスナーとして自分が聴いてきたものが自分の音に全部出てくる、しかもどういう形で出てくるのか予想がつかない。そこが逆に面白いんであって。

ニコ:あと今の話で、一言触れておきたいと思ったのは、ブライト・アイズのコナー・オバーストの件で。

―ああ、海外のインタビューではよく引き合いに出されていますね。

ニコ:それが自分たちにとっては意外というか、2人とも実はブライト・アイズの音楽ってちゃんとは通ってきてないんだよね。人から指摘されて、ようやく聴くようになったくらいで。それがもう、あまりに毎回色んなところから言われるんだ。まあ、どう思うのかは完全に聴く人の自由だから、あんまり気にしてないけど。

―ただやっぱり、一部のメディアやリスナーの間で、フリコはゼロ年代半ばのインディ、特にブライト・アイズのようなSaddle Creek Recordsのアーティストを思い起こさせるという反応があると、そんな小さな枠組みに押し込めないでほしいと感じますか?

ニコ:いや、自分でもそう言われるのは、めっちゃわかって。震えるような高いトーンの声とか、自分でもすごく似てると思うくらいだし。楽しんでもらってるぶんには、どういう受け止め方をされようが構わない。ただ、2000年代の音楽で個人的に一番影響を受けてるのはアーケイド・ファイアなんだよなあ……。

―それはよくわかります。

ニコ:思春期に一番思い入れのあった作品っていうか、自分たちの世代のロックの感覚でいうと……自分が11、12、13歳ぐらいで、年齢的にもちょうどロックに目覚める時期にガチっとハマってるのが、あのへんの音楽だから。

ベイリー:今の話のくだりで思い出したけど、そう言えば、私、中高生の頃、カーシヴの大ファンで! いつもインタビューで言い忘れちゃうんだけど、カーシヴもサドル・クリーク周りだよね。そのへんのスピリットが今もちゃんと自分たちの音楽に生きてるんだなあって思うと、なんかほっこりしちゃう、私的には。

ニコ:ってか、カーシヴが2000年前後のSaddle Creek周りだったって、今初めて知った(笑)。

ベイリー:まあ、世代的にはちょっと上だけど。

ニコ:でも、カーシヴは自分も好き。




―じゃあ、アルバムを作る上でどんなヴィジョンを持っていたのか、教えてください。

ニコ:結局、どの曲でも、やってることってそんなに変わらない気がするんだよね。自分の一番ディープな感情の部分にアクセスするっていう。そのとき浮かんできたものを、何でもいいから形にしていく、そのときの自分の人生が曲になる……そのためには、自分の心の奥深いところに行かなくちゃ。だから、特にテーマを掲げていたわけじゃないけど、時間をかけて徐々に形になってきたものというか。

ベイリー:本当に、ニコの言った通りだと思う。私たちと曲との関係性も変化してきたわけで、それこそ現在進行形で変化し続けてる。毎日が違う一日であるように、毎回同じ曲を演奏してても全然違うから。

ニコ:「Where We’ve Been」だって、最初はもっとコンパクトな曲だったんだよね。アルバムに入ってるのが、スタジオに入って初めて本格的にレコーディングしたバージョンなんだけど、結果的に結構なボリュームの曲になったっていう。

ベイリー:ただ、オープニングを「Where We’ve Been」にしようっていうのは、ニコのアイデアとしてあって。うちのバンドの全てがあの曲に詰まってるからって。あの曲には、ものすごくリアルで迫ってくるものがあるし。それをアルバムの第一声に持って来ようっていうのは、確実に自分たちの意志によるものだった。

ニコ:アルバムのオープニング、もしくはエンディングは、最初からあの曲って決めてたんだ。ライブではクライマックスの締めであの曲をやることが多いんだけど、1曲目から完全に自分たちの世界に引き込むようなイメージで、あの曲を最初に持ってきた。自分たちが世界に向けて放つステートメントとして、冒頭に結論を持ってくることで、このアルバムの続きを聴くか、そもそもナシなのか、今ここで決めてくれ、っていう意思表示の意味を込めて。



―あの曲でもそうですが、本作の大きな特徴のひとつは、随所で登場するヴォーカルハーモニーですよね。

ニコ:グループヴォーカルの一体感に関しては、ライブでバンドみんなが一緒に歌うところから自然に培われてきたもので、スタジオに場所を移してもライブと同じようにみんなで一緒に歌ってるだけでもあるし、曲がそういう感覚を求めてたからでもある。みんなの声が一つになるみたいな、コミュニティの感覚というか。グループヴォーカルの一体感なんて、その感覚を出すのにうってつけなわけで。

ベイリー:私が今みたいにドラムを叩きながら歌うようになったのは、完全にニコの影響なんだよね。そもそもオプションとして考えてなかったし。ニコに後ろからガンガン背中を押されまくって、なんだか知らないけど、ここまで来ちゃったって感じ(笑)。

―そうなんだ(笑)。

ベイリー:でも、今となっては本当に感謝してる。3ピースでやってると、隙間をどう埋めるかっていうのが一つの課題ではあって。それをこれまで何年か、ライブで考えながらやっていくうちに、スタジオでの音にも反映されていって。

―なるほど。

ベイリー:あとは、もう単純にそれが自分たちの脳味噌の中で鳴ってた音だからっていうのもあるし。すごく印象的なのは、「Crimson to Chrome」の、ラストの怒涛のハーモニー。あれはニコの案なんだけど、最初から「最後、この展開ね」っていう感じで。「ここでこうして、こうやって、最後ガーッていって」って指示されて、それに従ってやったら見事にハマったっていう(笑)。

ニコ:うん、そうやって作ることもあれば、2人で意見を出しながら作ることもある。あの曲のエンディングにしたって、ベイリーがドラム叩きながらガーッて歌ってるのに感動して、そこからインスピレーションを受けたものだし。「Chemical」では、ベイリーがバックでガンガンに歌ってるんだけど、ドラムのほうもガンガンで、あれとかマジで圧巻だし。


Translated by Ayako Takezawa

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