SKY-HIが語る、いまメッセージソングを歌う理由、 「人間的なもの」への希求

音楽表現の可能性

ー「BOSSDOM」でアリーナ規模のライブを成功させて、BMSGのアーティストもそれぞれの形で成功を掴んでいて、そこから生まれる自信があるからこそ、何でもやってみようというモードになれてるのかもしれないですね。

SKY-HI:わかった、いま承認欲求がてんでないんだ。

ー逆に言うと、割と最近まではあった?

SKY-HI:あったはずだと思うんです。それが自分に向いてないっていうだけ。BE:FIRSTとかBMSGに対してはあったんだけど、今はそういう意味での承認欲求はあんまり……それって承認欲求なのかな。マズローの三角形あるじゃないですか?あの社会的な認知のなんちゃら、みたいなやつですよね。それは多分あったんですけど、今はあんまりないかも。それが作品に表れてる気がしますね。BE:FIRSTもちゃんと評価をされていると思うし、会社にしても、もちろん向上心とか成長欲は変わらずあるけど、欲求というか、いやしさがどんどん抜けていってる。

ーそうやってあんまりよくない意味での自我みたいなものが抜け落ちてるっていうのは、アーティストSKY-HIとしてはとても健康的な状態かもしれないですね。

SKY-HI:そうだと思います。この先コンセプチュアルなアルバムを作ろうとしたときには、またいくつかやりたいことが出てくる気がするんですよ。会社もまだ4期目で、創業期から抜けたばかりだと思うので、5期満了くらいのとき、違うフェイズに会社が入ったときに、成長欲はずっと持ち続けたいけど、向上心は違うベクトルに向く気がしてて、マジな意味で「社会を良くしたい」とかがまた強くなってくる気がするんですよね。そのときに歌うことを歌える人になるための準備を今してるんじゃないですかね。

ー5月からのツアーに関してはまだ具体的なことは決まっていないというお話でしたが、現時点での構想があれば聞かせてください。

SKY-HI:1回健康を取り戻したいなとは思ってますね。ありがたいことに、どうしようもない大きな悩みみたいなものが1年継続してる年っていうのは今のところなくて、ただ割と人生を揺るがす大きな悩みみたいなやつが半年ごとに変わってるっていう状態なんです。それはパフォーマンスアーティストとしてあるべき生活みたいなものからはちょっと遠い気がして、でも一方ではアーティストとしての成熟も感じてるっていう、このジレンマ。なので、ホールツアーをちゃんとやって、1回フィジカルを戻さないとやばいなと思ってて。あとはまあ、1回ショーダウンした方がいいのかな、とかね。

ー「BOSSDOM」はコンセプトがしっかりあって、演出的にもショーアップしたものだったから、今日話してくれた「人間的」という意味でも、わりと日高さんそのままでポンって出て行くライブをやることも、2024年のSKY-HIにとっては意味があるのかも。

SKY-HI:ある気がする。無音でさ、チャリで出てくるとか。

ーやっぱりチャリで出たいんだ(笑)。

SKY-HI:チャリって放蕩者のイメージないですか? 古畑任三郎的な。そういうふざけたい気持ちはやっぱあるなあ(笑)。

ーツアーにコンセプトを掲げるとするなら、「ヒッピー」という言葉の意味をどう現代で再定義するのか、みたいなことですよね。そのひとつの方法が、チャリで現れることなのかもしれない(笑)。

SKY-HI:いや本当にね、みんな幸せになろうとした方がいいっていうか、結局ヒットチャートもそうですけど、幸せになろうとすることが全然トレンドじゃないじゃないですか。それはやっぱ良くないなと思って。

ー途中でも話したように、ペシミスティックだったり、悲劇的だったり、そういう方がもてはやされる。

SKY-HI:自虐的だったりもするし、他虐的なものもあるし、それを合わせて露悪的って言ってると思うんですけど、そういうムードを変えないとなって。Xとかだとそういうので人気の人がいっぱいいるでしょ?

ースキャンダルや炎上案件に関わるコンテンツで人気を得る、ダークヒーロー的な人がもてはやされる時代になってますよね。

SKY-HI:別にそういうのがあることに関してはどうとも思わないんですけど、メインストリームじゃないだろうっていうのは思います。単純にそういうコンテンツに触れてても幸せにはならないから。それはすごいね、見落としがちな気がするんですよ。絶対幸せな方がいいはずなのに、これ結構深刻な社会問題だと思ってるんです。幸せになろうとしない症候群。バッドエンドシンドローム。ボカロの曲でありそう(笑)。

ーありそう(笑)。

SKY-HI:今って日本を取り巻く不幸合戦が、より不幸なものを生み出そうとしてて、ペシミスティックとかってレベルじゃなくなってきてる。それに対して解決し得ないストレスがすごくあって、ジャニーズ崩壊以降の世の中の殺伐の仕方とかもそうじゃないですか。今所属している方々もそうですが、ファンの方の気持ちが荒んでしまうのは凄く理解できるし、そこから悲劇が連鎖していて見ていて本当に哀しい気持ちになる。BMSG起業当時に一番自分が救いたかったのって、今のBE:FIRSTになる前の少年たちみたいな方々ですから、今も所属にかかわらず夢を追う皆に幸せになって欲しいですし、それこそ「D.U.N.K.」とかを通して、IMP.とかTravis Japanもそうだし、ATEEZみたいな素晴らしいグループが日本で更に活躍するきっかけが作れたらとか、日本のダンス&ボーカルシーンにおいては端くれながら、そして烏滸がましくも貢献度を感じられてるところもすごくあるんだけど、それでもどうやったって全てのファンの気持ちまでは救えないので。件の事件に関しては、長い目で見たら、もうああいう悲劇を起こさないためには「架空のものを作り上げることに人間そのものを投じることの業の深さを考え直していこうよ」ということなんだけど、理と心は別という人はいるというか、今この瞬間に救われない人の多さに自分もちょっとくらっちゃってるんですよね。この話も自分の都合の為に切り取って使用する人がいるかもしれませんが、アーティストはそれで発信をやめるべきでは無いと思いますし。

ーそういう状況を変える意味でも、やはり今日最初に話したような「夢を叶えること、その姿を見せることの社会的な意味」はすごく大きくて、それぞれが自分にとっての「幸せ」を見つめ直すきっかけにもなるはずだと思います。

SKY-HI:それは思いますね。システム的なところでどうこうは無理じゃないですか。Xの構造を変えようみたいなことはどうしたって難しい。直接的なデモとかを行ってる人は基本的に応援したいけど、それを先導するようなリソースは今の自分にはないし。それよりは、音楽表現としての何かを作りたい。「アーティストなら音楽で言え」とか言うタイプじゃ全然ないですけど、今の自分は音楽表現でもっと何かできることがあるんじゃないかっていう、そういう気持ちは強くあります。


Photo by Takuya Maeda

<INFORMATION>


「ヒッピー」
SKY-HI
配信中
https://SKY-HI.lnk.to/20240212_HPY

SKY-HI TOUR 2024 -HPY LIFE-

5月4日(土)宮城・仙台サンプラザホール
5月6日(月)静岡・アクトシティ浜松 大ホール
5月10日(金)大阪・フェスティバルホール
5月11日(土)大阪・フェスティバルホール
5月17日(金)福岡・福岡サンパレス
5月19日(日)広島・広島上野学園ホール
5月22日(水)北海道・カナモトホール(札幌市民ホール)
6月2日(日)愛知・名古屋国際会議場センチュリーホール
6月8日(土)新潟・新潟テルサ
6月14日(金)埼玉・大宮ソニックシティ 大ホール
6月16日(日)千葉・市川市文化会館 大ホール

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