Ken Yokoyama、大いに語る 「普遍的なこと」を歌うようになった理由

普遍的な「大きなもの」

―いろんな気づきがあります。で、話を新曲に戻すと、「These Magic Words」は歌詞がとてもよくて。今回のシングルシリーズでは<Bitter Truth>(苦い真実)を我々にボコボコ突きつけてるわけじゃないですか。そんななかで、この曲では<“オーイェー 大丈夫さ そのうち オッケーになる”>(日本語訳)と歌われています。正直、こういう<Everything’s gonna be alright>的な曲っていくらでもあると思うんです。でも、この曲はそれらとは違うし、シングルシリーズの最後にこの曲が放り込まれることでより味わい深くなってると感じるんですよね。

KEN 俺だって自分が<オーイェー 大丈夫さ>なんて書くとは思わなかったもん。でも、これはてらいなく書いたなあ。まずね、曲ができたときに「いい曲ができたな」っていうのをすごく感じたの。俺たちは曲先行で歌詞は後から書くんだけど、この曲には普遍的な<大きなもの>を乗っけたいなと感じたのね。で、出てきた歌詞がこれなんだけど、これは子育てからヒントを得てるんだよね。

―へぇ!

KEN 自分の2歳にもならない子供と母親の触れ合いを見てたらさ、母親が子供に向かって「大丈夫大丈夫」って言うのよ。大人になったらそんなこと言われた記憶は残ってないかもしれないけれど、親から言われたそういう言葉って人格形成上、絶対大事だよなって。そこですごく美しいものを見た気になってさ、いつしか俺も子供に対してそう言うようになったの、「大丈夫大丈夫」って。でさ、それを言ってんのは自分なんだけど、子供に言わせてもらってんだよね。そのことに気づいたときに「豊かになったな」と思った。それで歌詞に落とし込んだんだよ。

―まさかそんな経緯があったとは。

KEN で、ここで言っておきたいんだけども、話はまたちょっと逸れちゃうんだけどさ…………俺、別にここで家族愛を売りにはしてないからね?

―あはははは!

KEN 俺、前の奥さんと離婚することが世間の人たちに知られたときにSNSですごく言われたの。まあ、SNSだから無責任なもんなんだろうけどさ、どうやら俺はたくさんの人を裏切ったっぽいのよ。

―ああ、そういうツイートはよく見かけましたね。

KEN 「KENって家族愛を売りにしてなかったっけ?」みたいな。いや、俺にとっては日常のことすべてが当たり前だったから、当たり前のこととして発信してたんだけど、それを「売り」として受け取られてたみたいでさ。まあ、それは俺が悪いんだろうけど。そのことが頭にあったから、今回こういう歌詞を書くにあたっても実は迷いがあって。こういうことを書いていいものかどうか、みたいなね。でもさ、「こうするとこう思われるからやめとこう」とか、そんなことはしたくないよなと思って。だけど、今回はこの注釈をつけさせてもらいたいなと思って話した。

―話を聞いて腑に落ちる部分はたくさんありますけど、この曲には家族愛も含めたもっと大きな意味があるように感じましたよ。

KEN そっか。でもさ、このインタビューはどこから着想を得て歌詞を書いたかっていうことを話すチャンスなわけじゃない? そうすると自分の子供の話をせざるを得ないのよ。嘘ついたっていいんだけど、それをちゃんと話さないとつじつまが合わないかなと思って。となると、さっき言ったみたいなイメージを持たれてることとも対峙せざるを得なくてさ。ま、そんなこと言っても無駄なんだけれどね。一度気に入らないと思われたらそれまでだし。

―まあ、伝わらないですよね。

KEN 家族愛を売りにしてる自覚があったら、「やば、バレた」って思うけどさ(笑)、そんなつもりは全然なくて。それで今、ちょっと話をさせてもらいました。


Ken Yokoyama(Photo by Yukitaka Amemiya)

―うん、それはわかりますよ。Minamiさんはこの歌詞についてどう感じているんですか?

Minami あんまり偉そうなことは言えないけど、共感するところはあるよね。俺にも家族がいるし。

KEN この曲の歌詞を書くときの原風景として、Minamiちゃんの娘の顔も浮かんだんだよね。うちの子だけじゃなくて、身近な人の子供たちの顔は出てきたな。

Minami 「大丈夫」って俺も思ってるけど、普段はあんまり言わないのね。最終的に言ってあげたいっていうか。今はいろんなところで揉まれて、いろんな屈辱を味わったり壁にぶち当たればいいと思ってて。それで最終的に「大丈夫」って言ってあげたいし、その見本にもなりたい。だから「お前に大丈夫なんて言われたくねえよ」みたいな存在にならないようにはしたいよね(笑)。

―さっきも言いましたけど、この歌詞が生まれる経緯を知らなくても、新社会人とか環境が変わる人なんかにもシンプルに響くと思います。

KEN そう、作品になったものを聴いて俺自身も励まされるのよ、50のおじさんが(笑)。インタビューだから曲の成り立ちについて話したけれども、どの世代にも通じる普遍的なことだよね。

―そうなんですよ。それに、いつもひねくれたことを言ってる横山さんが歌うことで余計に響くものがあったりして。「あの横山さんがストレートにこんなことを言ってくれるなんて」みたいな。それもけっこう大きくて。

KEN ああ、そう(笑)。

Minami それはわかる。

―いつも厳しい先輩が褒めてくれたら余計に嬉しい、みたいなのと似た感覚というか。横山さんが「大丈夫」って言うなら大丈夫なのかな、みたいな。横山さんは適当な慰めの言葉をかける人じゃないと思ってるから。

KEN まあね。俺が絶対言わなさそうなことだもんね。でも、そうか……(苦笑)。

―似たようなことを感じ取るファンはきっといると思いますよ。そうやって曲と歌詞が合わさることで本当にいい曲に仕上がったと思いました。

KEN あざます。

―そして、ここからフルアルバムにつながるわけですね。今の時点でアルバムの内容について予告できることはありますか。

KEN 今回とは真逆のふざけた内容の曲もあるし、盛りだくさんですよ。すげえいいアルバムができたと思う。

―俺もすでに聴かせてもらいましたけど、過去のどのアルバムとも違いますね。

KEN うん。シングルシリーズに入れた8曲は過去挑戦してこなかったようなものだから変化球に感じるとは思うんだけれども、アルバムはもうちょっとシュッとしてるし、アルバム然としてるかな。

―では、期待して待て、と。月並みな締めにはなってしまいますが。

KEN いや、その前の話が濃厚だったし、作品についてばかりじゃなくて今回みたいに哲学について語ることがあってもいいんじゃないかな。

―たしかに、これもシングルシリーズで何度もメディアに登場してるからできた話かもしれないですね。

KEN たしかにそう。シングルシリーズをやってよかったのは、人の手を借りて世の中に出る回数を増やせたことで。いま言ってくれたみたいに、単純にインタビューが載る機会が増えましたっていうんじゃなく、これまでは2年に1回しか取材しなかった人と1年に3回も話せるわけじゃん? そうすると話す内容も変わってくるよね。作品の話をするのってあくまでも作品の宣伝に過ぎないわけだし、音楽っていうことを超えて、社会のことについて話したり、偶然記事に出会った人でも興味が持てるような話題に触れることって大事だと思うんだよね。それもシングルシリーズの思わぬ副産物だったかな。



<INFORMATION>


『These Magic Words』
Ken Yokoyama
PIZZA OF DEATH RECORDS
発売中

These Magic Words Tour
12月9日(土)滋賀U-STONE
12月10日(日)岐阜CLUB ROOTS
12月12日(火)浜松窓枠
12日13日(水)静岡ARK
12月22日(金)横浜BAY HALL
https://www.pizzaofdeath.com/

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