Ken Yokoyama、大いに語る 「普遍的なこと」を歌うようになった理由

KEN BANDにとっての共通言語

―インプットというと、新しいもの、未知のものから刺激を受けるイメージですけど必ずしもそうじゃない。

KEN そうじゃないの。同じ映画でも何回か観て初めて意味がわかることってあるでしょ? 古いものを繰り返し聴いたり観たりすることも俺は大事なインプットだと思ってる。新しいものでも自分の感覚に合うならすっと入ってくるけど、さっきダイシが言ってたように最近はなかなかないんだよね。新しいものを聴くのが億劫にもなってるし。最近どんなCD買ったかって、ローリング・ストーンズとブライアン・セッツァーの新作だもん。やっぱり変わっちゃいないのよ(笑)。だけど、生物が物を食べて生きていくのに近いよね。音だったり楽器だったり映像だったりを日常的に食べて、それを曲に落とし込んでんの。

―同じ白米でも違う炊き方をしたら味が変わった、みたいな。

KEN そうそうそう。そのことに1001日目に気づくかもしれない(笑)。

―Minamiさんはどうですか?

KEN (ニヤニヤしながら)Minamiちゃんはそこまでストイックじゃないよ! あはははは!

―あはは!

Minami うん(笑)。むしろ、昔より聴かなくなっちゃったかもしれない。

―やっぱりそうですよね。でも、こういう横山さんみたいな感覚の人と一緒にやるにはできるだけ追いつかなきゃっていう気持ちはないですか。

Minami 追いつこうとは思わないかな。だってできないもん。もうちょっと薄く広く人生を考えてるっていうか(笑)。もちろん、音楽をずっとやっていくために必要な音楽を聴くときはあるけど。憧れはあるよ? 「すげえな」って。でも、「多分自分にはできないな」って思う。

KEN なんで俺がそういうことをやるかっていうと、新曲が生まれたりバンドが動く瞬間に何事にも変えがたい喜びとか楽しさがあるからで。そのためには思いつく限りのことをやる。それに、このバンドでそういうことをやんのは俺しかいないし、根がそういう人間なんだよね。

Minami そうそうそう。

KEN だから、メンバー4人が同じ方向を向いてなくてもよくて。共通言語をもってればね。

Minami そういう音楽の聴き方ができるのも才能だったりするじゃない? 俺なんかが年がら年中音楽をかけてても、さっきのコスプレの話じゃないけど、すごく表面的なところしか入ってこないし、大体の人はそうだと思う。だから逆に、あまり周りのものに刺激されたくないから音楽を聴かないってこともある。


Minami(Photo by Yukitaka Amemiya)

―必ずしも4人が同じ方向を向いてる必要はないとは思うんですけど、横山さんが言うように共通言語は大事だと思います。KEN BANDにとっての共通言語というものを言葉で説明するとどうなりますか。

KEN バンドの中でしか通じない会話とかフィーリングっていうのはいっぱいある。特にMinamiちゃんとJunちゃんとはもう15年一緒にやってるわけでしょ?

―そうですね。

KEN バンドって極端に言うと人生を分け合う行為で、その人の生活のことまで考える必要が俺には出てきてて。たとえば、Minamiちゃんの生活ペースだとここまで求めるのは酷だよな、とかさ。それはJunちゃんもしかり。ほかにも、俺はこういう性根だから一晩でやっちゃいたくなるけど、人が考えたものにみんなが対応するには数日かかるよな、とか。EKKUNなんてまだ一緒にバンドをやりはじめて5年目で世代も俺たちとは違うし10年分の差って意外と大きいから、時間をかけて共通言語を一緒に持とうとしてるところ。

―人生をシェアするような感覚か。

KEN うん、そうよ。歳取ったバンドって特にそうだと思う。そうしないとバンドじゃなくてもいいじゃんってことになっちゃうのね。曲をつくる人間がいて、バンドを動かす人間がいて、その人たちだけで回せばよくない?って。バンドって独特な魅力があってさ、複数人が関わる社会の集合体の中でもすごく稀有な形だと思うのね。どんなにバンドが廃れても、バンドでしか見せられない、バンドに所属している者にしか得られない魅力ってものがあってさ。だから俺はバンドにこだわるし、バンドでいたいのよ。で、それを長く続けたいならお互いの生活とか性格をよく把握する必要がある。そうやって進めていくうちに自然と共通言語ってものが出てくるはずなんだよ。

―共通言語があるから続けられるんじゃなくて、お互いの人生をシェアする中で出てくるものが共通言語。

KEN うん、だと俺は思う。共通言語っていうのは色々あって、たとえば、拍の取り方も人によって違うわけ。それを統一することでバンドにとっての共通言語がひとつ生まれるのね。

―ああ、たしかに。

KEN そういった音楽的な共通言語から生活をシェアするための共通言語まで、バンドって奥が深いもんなんだよ。でも、バンドにはそれが必ず必要って言いたいわけじゃなくて、自分が関わっているのがたまたまバンドで、それに対して真剣になるうちに自然と共通言語がどうだとか、そういった部分と向き合わざるを得なくなったわけ。さっき、バンドは稀有な形とは言ったけど、まあ、集団ってそういうものよね。

―面白いですね。

KEN うん、面白いんだよね。カッコつけて言うと、バンドって哲学でさ。

―若いバンドならもっとシンプルなのかもしれないですけど、2人ぐらいの年齢の人たちがバンドを成立させるとなるとなかなか深いものがあるんですね。考えたこともなかった。

KEN そもそもバンドなんて社会からはみ出した人間がやることだからさ、こういうことは言語化しないのよ。Junちゃんなんかその最たるもんで(笑)。でも、Junちゃんがすごく話せる人だとしたら同じことを言うと思う。

―話は全然違う方向に転がりましたけど……。

KEN でも、面白いな、この話は。

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