ニルヴァーナ『In Utero』30周年 チェロ奏者が初めて明かす参加の経緯、制作の舞台裏

当時のギャラはいくら?

—でも、レコーディングが終わると、ニルヴァーナのメンバーから連絡が来ることは二度となかった。

シェイリー:ええ。恥ずかしいのですが、唯一聞いた話によると、『病んだ魂―ニルヴァーナ・ヒストリー』(原題:Come As You Are: The Story of Nirvana、マイケル・アゼラッド著)という書籍の中で、コートニー・ラヴに侮辱されているんです。

—確かに、マイケル・アゼラッドの本の中で、スティーヴがコートニーのことを「頭のおかしなケダモノ」と非難し、それに対してコートニーが「スティーヴ・アルビニに理想的なガールフレンドだと思ってもらうためには、東海岸出身で、チェロを弾き、小さなフープイヤリングを付けて、黒いタートルネックを着て、スーツケースを同じシリーズで揃えて、ひと言もしゃべらないような女になるしかない」と反論した、という記述がありました。シェイリーさんは、コートニーがそれとなくあなたに言及したと思っているのですね。

シェイリー:コートニーは私の名前を出していませんが、読む人が読んだらわかります。それに気づいた友人たちから「コートニー・ラヴがこんなこと言っているよ」と連絡が来て。率直な感想としては、フェミニストを自称してるくせに、そういうふうに女性を叩くんだ、と思いました。そこで、からかうつもりで手紙を書いたんです。すると、真夜中に電話がかかってきて。寝ぼけていたのでよく覚えていませんが、「あなたのことを言っていると思わせてごめんなさい」的な感じで謝られました(笑)。

—素朴な質問なのですが、レコーディングのギャラはもらえたのですか?

シェイリー:これも思い返すと笑ってしまうのですが、ちゃんともらいました。スタジオにいた2時間半分のギャラとして、275ドル(約4万円)の小切手を受け取ったんです。毎年、なんらかの著作権使用料も入ってきます。ほとんどが日本とオーストラリアから来ていると思うのですが。

—著作権使用料も入るようになったんですね。結構な金額なのでしょうか? 役に立ちましたか?

シェイリー:ええ、役に立ちました。結婚式の前にかなりの額が振り込まれて。そのときは「カートは、私がお金を必要としていることを知ってたのね」と思いました(笑)。

—その後、ニルヴァーナは別のチェロ奏者とツアーを回りました。憤りは感じませんでしたか?

シェイリー:別のチェロ奏者が起用されたのは、私とスティーヴとの関係のせいだと思います。レコーディング後、メンバーとスティーヴの関係が微妙になったんです。なので、スティーヴの女とは関わりたくない!と思われたのかも(笑)。そうだとしたら、残念ですね。私は、生演奏が結構得意なんです。生演奏は楽しいですし、ステージ上でも結構動き回ります。なので、メンバーと一緒にツアーを回れたら楽しかったでしょうね。でも、気にしていません。当時も、特に腹を立てたりしませんでした。



—スティーヴがメディアに「ニルヴァーナのレーベルが『In Utero』に口を挟もうとした」(訳注:プロダクションが粗すぎることを懸念したレーベル側の意向を汲み、いくつかの楽曲が別のプロデューサーによって再ミックスされた)というイメージを植え付けようとした結果、メンバーとは疎遠になったようですね。でも、そんなことでシェイリーさんがツアーメンバーから外されたのは、残念で仕方ありません。可能性としては、『MTVアンプラグド』で演奏していたかもしれないのに。

シェイリー:そうですね。でも、『MTVアンプラグド』なんかに出演したら、緊張しすぎてライブを台無しにしていたかもしれません。

—ニルヴァーナというバンドのレコーディングに参加したというのに、わりと飄々とされているのが面白いですね。

シェイリー:そうかもしれません。夫にも「そんなに驚かないんだね。この件に関しては、いつも冷静だ」と、よく笑われます。私としては、年をとってから若い頃の出来事を振り返って「変なの。私は、本当にあんなことしたの?」という感じです。

Translated by Shoko Natori

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