ヌバイア・ガルシアが熱弁、UKジャズとクラブミュージックの深く密接な関係

「枠組みを横断することは私の使命」

―ヌバイアさんは、ご自身の曲のリミックスをたくさんリリースしていますよね。

ヌバイア:うん、かなりの量!

―ジャズミュージシャンで、これだけのリミックスを作る人はほとんどいないと思うんですよ。

ヌバイア:きっとお金も手間もかかるからじゃないかな。私は作曲やバンドでの演奏を始めた頃からずっと、リミックスもやりたかった。私のなかでそれらは繋がり合っていて、サックスをボーカルのように扱う、つまりボーカルのようなメロディとして扱うことで、みんなにもリミックスの面白さを感じてもらえたらなと思ってる。最近では、ほとんどのアーティストが数曲のリミックスを用意するのが当たり前になってきたけど、プロデューサーがジャズミュージシャンだったり、アシッドジャズのムーブメントのころのようなアプローチをしているのはかなりレアなケースだと思う。

リミックスを作る理由について……うまく言えないけど、もし私が作っているものを誰も望んでないとしても、私はリミックスを作り続けたい。「日々リミックスに取り組んでいる人たちは私の音楽をどう捉えるんだろう?」「音の世界をどこまで追求できるんだろう?」、私はそういうことを知りたいから。私の音楽は、新たな形に生まれ変わる時を待っているから。それに、クラブで自分の音楽を聴きたいじゃない?(笑)。それは明らかに理由のひとつ。とてもワクワクするし、自分の選んだ手段を誇りに思ってる。


Photo by Tsuneo Koga

―僕もちょっとだけDJをやっていて、いつもヌバイアさんのアルバムを持っていくんです。というのも、DJで使いやすいんですよね。大きな音でかけても低音がしっかり出るし、フロアにいる人が踊ってくれそうな曲が入っているので。リミックスではない自分の作品でも、DJにかけてほしい、クラブで映えるような曲にしたいとか意識しながら作っているんでしょうか?

ヌバイア:そのことは、アルバムの制作とミキシングのアプローチが違う理由と関係している。私はジャズのレコードみたいにミキシングはしないって決めていた。「ジャズレコードのようにミキシングやマスタリングをするんじゃなくて、まったく違うものにしてほしい」ってリクエストしている。音楽を制限するものは、レコーディングスタジオに限らず、音楽制作の至るところに潜んでいる。ミキシングやマスタリング、プロモーション、ライブのブッキングだってそう。ジャンルによってアプローチの方法は異なってくる。クロスオーバーのアーティストだとしても、例えば「彼女はサックス奏者だ」と聞けば、きっとジャズアーティストだって思うでしょ? 

私は、音楽の偉大な歴史の一部にいることを光栄に思ってるし、先人たちは素晴らしいことを成し遂げてきた。ただ、ゆっくりでも確実に変えていかなきゃいけないこともある。それは、あなたが聴いている音、あなたが感じている音を見直してもらうことから始まると思う。例えば、ジャズ・カルテットを聴いた時、ただジャズ・カルテットのようにしか聴こえないのか、それとも、他の何かを感じるようになるのかってこと。(ジャズ・カルテットの音源でも)カジュアルなレストランやジャズハウスだけじゃなくて、もしかしたらクラブでかけてみるのもいいかもしれないってこと。決まりきった枠組みを横断することは、音楽を制作するうえでの美学にもなりうる。私の使命は、ミュージシャンではない人々によって引かれた境界線を押し上げることだと思っている。

―ちなみに偶然、自分の曲がかかっている場面に出くわしたことはありますか?

ヌバイア:最近行ったパブでかかってた! 従姉妹に会いに行ったとき、彼女が遅刻して、私は1人でずっと待ってたんだ。すると、「Pace」――『Source』の中で1番クレイジーな曲が流れてきた。ソロの中盤にさしかかると、まさに盛り上がりのピークって感じで……信じられなかった! 貴重な瞬間だよね、まさか自分の曲を聴くことになるなんて予想してなかったし、あの曲はBGMって感じでもないから。流れる場所によってコンテクストも変わってくる。だから、みんながどんな反応するのかを知れたのもすごく良かった。



―少し話を戻して、リミックス・アルバム『Source ⧺ We Move』についても聞かせてください。ここに参加しているプロデューサーはどんな基準で選んだんですか?

ヌバイア:参加してくれたのは、私が常々尊敬してるプロデューサーたち。ほとんどは友達だけど(笑)。アプローチについて私が思うのは、もし憧れの人がいるとして、その人と一緒に何かしたいとする。相手が「イエス」って言うかは分からないけど、聞いてみない限りは「イエス」か「ノー」かすら分からないってこと。それは自分の安全地帯から一歩踏み出すような行為だけど、たとえ「ノー」って言われても世界が終わるわけではないでしょ? そのプロジェクトと合わなかっただけかもしれないし、単に忙しいだけかもしれない。相手がいつも断るとは限らないし、「ノー」という答えの裏側にもいろんな事情があるわけで。参加してくれたプロデューサーのなかには今回初めて知った人もいるから、どうなっていくか予想できなかった。OG legends(OG=Original Gangsta:パイオニア、創始者)にメッセージを送るなんて信じられなかったけど、私には何も失うものはない。実現できたことを誇りに思ってるし、一緒にできて本当に光栄なの。今までの作品と完全に違うものになったし、素晴らしいものに仕上がってすごく気に入ってる。

―リミックスのサウンドが自分のセレクターとしてのセットに入れやすいとか、そういったことも考えますか?

ヌバイア:うん、そのことも考えていた。このアルバムには旅をさせてあげたい――ダンスミュージックのなかでも、いろんな場所に存在してほしいっていう想いを込めた。だからアンビエントや、チューンアップしたダブ・ステッパーのバイブスも入れた。それから、私はデンゲ・デンゲ・デンゲ(ペルー出身のトロピカルベース・ユニット)の大ファンで……ほんっとに大ファン! 彼らにアプローチしたら「やろう」と言ってくれて……信じられなかった。実は、まだ彼らには会ったことがないんだけど。すれ違いが続いてて……でも、すぐに会いに行く、絶対にね! このアルバムが、私たちをどこかに連れて行ってくれるものになればいい、ラジオ番組やセットでも使ってもらえたらいい。それが目標としてあったんだけど、無事に達成できたかなって感じてる。




―最後に、新曲の「Lean In」について。UKガラージがインスピレーションになっていると思いますが、あなたにとってのUKガラージはどのような音楽ですか?

ヌバイア:電話がダンスフロアにあった頃の情景、ティーンの頃を思い出す音楽かな。暗くて汗のにおいが充満したクラブにDJのプレイを観に行ったこと、活気のあるエネルギーが溢れていたこと、ただ楽しい時間を過ごすっていう、みんなが同じ目的のために集まっていたこと。お互いが心を許しあって自分を開放する、それが私にとってのダンスミュージックの醍醐味。本物のダンスミュージック好きは、その音楽、その場から吸収するエネルギー、その場で発散されるエネルギーを感じるためにやってくるじゃない? UKガラージは、そういった素晴らしい経験を与えてくれたから。



―「Lean In」を聴いてUKガラージに興味を持った日本のファンにおすすめしたいプロデューサーもしくは曲を教えてください。

ヌバイア:そうね……ウーキー(Wookie)かな。グラストンベリーで、私は彼の曲をカバーしたから。(Sweet Female Attitudeの)「Flowers」から彼のヒット曲を演奏するっていう流れで、いわゆるメドレーみたいに。とても魅力的なエレクトロニックで、みんなの反応も新鮮だった。私はその2つを勧めたい。

それから、私の曲「Lean In」についてちょっと付け加えておくと、この曲には、私に多くの喜びを与えてくれたUKガラージへの敬意がつまってる。私の好きなものを分かちあうことで、あなたが好きな音楽を見つけるきっかけになるなら喜んで話したい。きっとあなたもその音楽を好きになるよって思うから。




―ところで先日(9月後半)、Wu-Luも日本に来ていたんですよ。

ヌバイア:そうそう、ちょうど彼が帰った日に日本に来たから会えなくて、お互い残念だねと言い合ってたんだ。

―彼がDJをしているのも見たんですけど、かなりジャングルをかけまくってましたよ。

ヌバイア:そうだ、ジャングルの話をしてなかった(笑)。手短に話すね! 私は1年くらいコンゴ・ナッティ(ジャングルのパイオニア)とライブをやったんだけど、それはジャズミュージシャンとしてダンスミュージックを演奏するきっかけになった。当時、私は大学を卒業したばかりで、ビバップのバンドを結成しようとしていた。たしかシャバカ・ハッチングスがツアーでできなかったから、コンゴ・ナッティが私を誘ってくれて。それが、音楽制作やキュレーション、DJ、コミュニティの構築……そのすべてを包括した歴史的なレジェンド、(レベル)MCとの初共演だった。当時の経験は私の財産になっているし、彼の存在もそう。彼がセットを構築する姿、彼を筆頭に周囲のメンバーがジャングルという音楽をどのように存続させていこうとしているのか、その一連を目の当たりにすることができた。あなたがWu-Luの話をしてくれたから、思い出せてよかった。私はジャングルが大好きだから!





ヌバイア・ガルシア
『Source』
発売中
https://www.nubyagarcia.com/

Translated by Miho Haraguchi, Natsumi Ueda

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