「UKジャズはダンス・ミュージック」エズラ・コレクティヴが語るロンドン・シーンの本質

エズラ・コレクティヴ(Photo by Aliyah Otchere)

 
ここ数年におけるUKジャズの隆盛において、エズラ・コレクティヴ(Ezra Collective)はリーダーとしての役割を担ってきた。鍵盤奏者のジョー・アーモン・ジョーンズ、ドラマーのフェミ・コレオソといった、シーンを支える重要人物たちも在籍するこのグループは、「ロンドンらしさ」を鮮やかに体現。ジャズを軸にしながらグライム、アフロビート、レゲエ、スピリチュアルといった近年のロンドンを感じさせる要素を盛り込み、ダンサブルなサウンドに昇華してきた。

特にグライムとジャズを融合させる手法は特徴的で、そのハイブリッドなサウンドが新たな観客をジャズのライブへと誘ってきた。実際、彼らが2019年にBoiler Roomで行ったライブ動画を見ると、近年、ロンドンでどのようにジャズが演奏され、それがどのように受容されてきたのかがよくわかる。ロンドンにおけるジャズは“ダンス・ミュージック”であり、同時に“パーティー・ミュージック”なのだ。



2019年に1stアルバム『You Can’t Steal My Joy』をリリースしたあとも、ブルーノートのカバー企画『Blue Note Re:imagined』に参加したり、自身のレーベルからグライムのラッパーJMEとのコラボ・シングルを発表したりと、パンデミック中も精力的に活動。そして、3年ぶりのニューアルバム『Where I’m Meant To Be』を完成させた。

サンパ・ザ・グレート、コージー・ラディカル、エミリー・サンデー、ネイオ(Nao)といったゲスト陣にも目を奪われるが、何よりも作曲、演奏、サウンドなど、あらゆる面でレベルアップしていることに驚かされる。そこにはアマピアノやアフロビーツからの影響も加わり、そのサウンドはしっかり“今のロンドン”を表わしている。彼らがやりたいことが完璧に具現化された作品と言えるかもしれない。

今回はリーダーのフェミ・コレオソが、ゴリラズのUSツアーを回っている最中だったにもかかわらず取材に応じてくれた。彼がこれでもかと語り倒してくれたおかげで、エズラ・コレクティヴがどんなバンドなのか、どこよりも詳細に伝える記事になったと思う。そしてここには、ロンドン・ジャズがもつ魅力の秘密がいくつも詰まっている。

※12月22日追記:エズラ・コレクティヴが2023年3月に来日決定、詳細は記事末尾にて。

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フェミ・コレオソ


―今日はお時間をいただき、ありがとうございます。

フェミ:こちらこそありがとう。僕は日本が大好きなんだけど、パンデミック以来、全く足を運べていないんだ。日本では最高の夜を過ごしたこともあったからね。

―僕は2020年2月に、大阪でエズラ・コレクティヴを観ましたよ。パンデミックで全てが止まる直前のライブでした(翌日の東京公演は中止)。

フェミ:最高だね。あの翌日にパンデミックがまさに深刻化して、ライブが終わったら僕らはすぐ出国しなきゃいけなくなり、少しでも遅れてしまったらもう終わりって感じだった。本当にクレイジーな状況だったよ。



―まずは基本的な話から聞かせてください。エズラ・コレクティヴはどんな経緯で結成されたんですか?

フェミ:ロンドンにはティーンエイジャー向けのユースクラブがある。厳密には学校ではなくて、放課後に通うクラブみたいなもの。僕は16歳の頃にジャズを学べるクラブに参加したんだ。サックスのジェームス・モリソン、僕の弟のTJ・コレオソ(Ba)もそこに参加していて、僕らは自分たちのバンドも組んだ。それがエズラ・コレクティヴへと発展していったんだ。

―そのクラブって、Tomorrow’s Warriors(以下TW)のことですか?

フェミ:その通り!

―バンド名の由来も聞かせてください。旧約聖書にエズラという人物が出てきますよね?

フェミ:そうそう。旧約聖書に出てくるエズラは先駆者たちから学びを得て、その知見を元に前進していった。それは僕らの音楽へのアプローチにとても似ている。僕らはジョン・コルトレーン、マイルス・デイヴィス、エラ・フィッツジェラルドといった偉大な先人たちが残してくれたものから学んできた。エズラは旧約聖書の中で一人で活動していたけど僕らは集団で活動している。だから、Collectiveという言葉を繋げたんだ。

―ちなみに現在、YouTubeで確認できるエズラ・コレクティヴの最も古い動画は、2012年11月にTWがアップした野外ライブです。このときは今とメンバーが違いますよね?

フェミ:そうだね。僕は創設者の一人で、ジェームス・モリソンも最初のラインナップにいた。その年の4月が僕らにとって最初のパフォーマンスだったと思う。2012年はロンドンでオリンピックが開催された年で、音楽がどこにでも溢れていて、公園で音楽をプレイする人たちもたくさんいた。当時の僕らも公園でプレイしていたけど、自分たちが何をやっているのかを手探りで学んでいるような状態だったんだ。

その年の11月にジョー・アーモン・ジョーンズが加わり、ロニー・スコッツでのギグを行った。翌月にTJが加わり、2013〜14年くらいまでは同じラインナップで活動してた。そこからアルトサックスのデヴィッド・チュレイ、2019年にディラン・ジョーンズがバンドを離れたあと、トランペットのイフェ・オグンジョビが加わった。イフェのことはTWを通じて、彼が子供の頃から知っていたんだ。



―イフェを除いた現メンバーによるもっとも古い動画は、同じくTWがアップした、2013年11月のロイヤル・アルバート・ホール公演だと思います。このときはスーツを着て演奏していましたが、当初はどんなコンセプトで活動していたんですか?

フェミ:当時の僕らは“ジャズバンド”になろうとしていた。そもそも僕はマックス・ローチになりたかったんだ。だから、スウィングバンドのように見られたかったし、僕らが憧れていたのはJAZZ625(60年代に英BBCで放送されていた伝説的なジャズ番組)や、セロニアス・モンクの録音だったから。自分も彼らのように見られたかったんだけど、僕の姿を見て多くの人々がラップのアーティストだと思うだろうなって感じてたから、あのときの僕らはスーツを着ることにしたんだ。

音楽的にはたくさんの音楽を真似たり自分たちなりに解釈していた。マックス・ローチのドラムソロを学んだり、アート・ブレイキーの曲をプレイしていたよ。クリフォード・ブラウンの『Study in Brown』をコピーしたりね。だから、当時はまだ自分たちの声を持っていなかった。2013年はようやくビバップやスウィングジャズに、フェラ・クティやレゲエを融合させるアイデアを持ち込み始めた頃だったと思うよ。



―参考にしていたグループ、ロールモデルだと感じていたミュージシャンはいますか?

フェミ:“直接知っているわけではないけどヒーローだと思っている人”、“実際に知っている人”の二つのタイプに分けられるよね。前者はさっきも挙げたクリフォード・ブラウン&マックス・ローチ。『Study in Brown』に収録された「George’s Dilemma」、「Cherokee」や、「Daahoud」といった曲におけるジャズのサウンドがお気に入りだった。それからアート・ブレイキー&ザ・ジャズ・メッセンジャーズが持っていた“バンド”というコンセプトも好きだった。

その一方で、僕らはディアンジェロの『Voodoo』も好きだった。メソッド・マンやレッドマンが参加しているようにヒップホップの要素があるし、ロイ・ハーグローヴがいるからジャズもある。しかもJ・ディラからの影響もあった。「Feel Like Makin’ Love」にはジャズの影響を感じるし、一枚のアルバムに全てが詰まっているんだ。スラム・ヴィレッジの『Fantastic Vol.2』も僕らにとって外せない大切なレコード。あのアルバムの曲も僕らなりにプレイしていたよ。それからボブ・マーリーの『Catch a Fire』もかなりパワフルなアルバムだね。




エズラが始まった頃は僕らの周囲にいる人たちにインスパイアされていて、ロンドンのジャズクインテットのエンピリカル(Empirical)、ジャズ・ジャマイカ、TWのザラ・マクファーレンにもインスパイアされた。ソウェト・キンチ(Soweto Kinch)はUKで活動していた僕たちよりちょっと上の世代で、僕らに対して多くのインスピレーションを与えてくれた先輩だった。




―ディアンジェロやJ・ディラ、スラム・ヴィレッジを挙げたということは、ロバート・グラスパーも影響も大きいんじゃないですか?

フェミ:もちろんたくさん聴いてきたよ。僕は『Canvas』や『Double-Booked』で彼の音楽と恋に落ちた。クリス・デイヴがロンドンに来る時は必ず観に行ったし、僕がロニー・スコッツで初めて観たライブはロバート・グラスパーだった。その頃はまだ子供だったから父も同伴じゃないと入れなかった。父の膝の上に座って、クリス・デイヴのプレイに見入ったのを覚えているよ。「F.T.B.」が収録されたトリオアルバム『In My Element』、そして、『Canvas』や『Double-Booked』は僕にとって本当に大きな作品だ。彼はトラディショナルなジャズから『Black Radio』みたいな作品へと進化していった。彼がJ・ディラやネオソウルをジャズとミックスしていく過程は、僕らにとってすごく大きかった。


Translated by Tommy Molly

 
 
 
 

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