アンディ・テイラーが語るデュラン・デュラン復帰の可能性、がん闘病からのカムバック

 
最新ソロアルバムの制作背景

―新しいソロアルバム『Man’s a Wolf to Man』がリリースされました。プロジェクトがスタートしたきっかけを教えてください。

アンディ:BMGのハートウィグ(・マズフ)CEOと、FaceTimeで会話した時に提案された。俺としては「受けた方がいいかな」と思った。ハートウィグは、他のCEOよりもずっと音楽に対する愛着が強い。それにデュラン・デュランの大ファンで、俺のこともよく理解してくれている。彼から「アルバムを作って欲しい」と言われたが、俺としては予期せぬ提案だった。彼は「パワー・ステーションのアルバムを作ってもいいし、自分のソロでもいい。結果はどうあれ、ジョン(・テイラー)に相談してみたらどうだろう」と言われた。

俺はとりあえずデュラン・デュランの事務所を通じてジョンにコンタクトしてみたものの、その時点では実現不可能だと思っていた。スケジュールの問題だけでなく、実現するための準備ができていない状態だったからね。例えばパワー・ステーションのアルバムを作るにしろ、まずはドラマー探しから始めないとならないからな。

パワー・ステーションは、トニー・トンプソンによる超人的なバスドラムのキックがなければ始まらない。トニー亡き後、彼に代わる新しいドラマーを見つけるのは至難の業だった。それで最終的に「ソロアルバムを作ろう」ということでまとまった。いろいろ検討すべきことも多く、どうやって実現するか考えねばならなかった。

ひとつだけ条件を出したのは、俺の裁量を認めてくれという点だった。「実現するために自分なりのやり方を模索させてくれ」ということだ。当時は56歳で、アルバムを作るにはいい歳だった。「ノーとは言わないが、自分流でやらせてくれ」とお願いした。



―当初は、どのような計画だったのでしょうか。

アンディ:とりあえずアルバムは形になり、2019年末のリリースへ向けてマーケティングを開始する予定だったが、全てが頓挫した。ちょうどがんと診断された時期で、「プロジェクトは数年間先延ばしにした方がいいんじゃないか」と思った。

BMGはパンデミックが収束してもそのまま放置するのではないか、と俺は思っていた。ところが予想は外れた。2022年の7月頃、デュラン・デュランがロックの殿堂入りすることを知った。「これはすごいタイミングだ」と思った。

その後、俺の健康状態が悪化した。でもイビサ島のスタジオで過ごせていたおかげで、何とか気持ちを保っていられた。「俺の人生の中で、こんなにも音楽がありがたいと感じた時期はない。気分が最悪の時は周りが見えなくなって、8時間も無駄にすることがあるからな」と周囲には言っていた。

アルバムは、2つの波を乗り越えて完成に至った。ひとつは、パンデミックと俺のがん宣告が重なって、俺が万全とは言えない時期。そしてもうひとつは、新たな治療法が見つかって寿命が延び、アルバムを完成させる時間をもらえたことだ。



―収録曲についてお話しいただきたいと思います。タイトルトラックでは、我々の社会が危機的状況にあると明確に警告しています。

アンディ:英国の哲学者(トマス・)ホッブズにまで遡る。曲では「自らを文明化・民主化しなければ、種族は自滅するだろう」と歌っている。歴史が一周して再び巡ってきた感じだ。米国で君らが騒ぐ以前に英国で俺を怒らせたのは、あのボリス・ジョンソンとブレクジットだ。俺より上の世代の英国北部に暮らす有権者を煽るために、人種差別主義が持ち出された。70年代に交わされていた会話が、再び聞こえてきた。人々の分断を促す典型的なモデルだ。ドナルド・“ランプ(Rump)”氏も、米国で同様のモデルを採用したのではないだろうか。

―論外ですね。

アンディ:英国における分断は、米国とはやや異なるが、人種を持ち出して個人崇拝へ持っていくやり方は同じだ。個人崇拝を利用してボリス・ジョンソンは当選した。トランプも同様だった。



―収録曲「Gotta Give」からは、ローリング・ストーンズ的な雰囲気を感じます。

アンディ:俺の友人でシンガーソングライターのマティアス・リンドブロムと、ジ・オールマイティーのリッキー・ウォリックとの共作だ。リッキーは、俺が知る中でも最高のロックンロールの詩人だ。彼は、今は亡きフィル・ライノットに代わってシン・リジィで歌っている。彼とは仲の良い友人だが、これまでに作品を一緒に書いたことはなかった。「Gotta Give」の歌詞の一部は、彼が書いた。カラフルでとても素晴らしいロックンロールの詩を生み出してくれた。そこに俺がメロディーを付けたのさ。

―「Reaching’ Out To You」は、一転してパワー・ステーション風とも言える作品です。

アンディ:労働者階級を歌った曲だ。俺はニューカッスル出身で、リッキーはグラスゴーにいた。2つの都市は英国の中でも特に治安が悪い港町で、海関連の産業で成り立っている。彼の書いた「クローズダウンしていく……」というフレーズを、俺が「工場が次々と閉鎖していく/支払いの期限も迫っている」といった感じで仕上げていった。

俺の父親の世代が経験した、70年代の様子を思い描いて書いた。鉄鋼業が最盛期で化石燃料も多く使用され、俺が子どもの頃は有毒物質に囲まれて育った。「Rich Men North of Richmond」(今年8月、全米シングルチャート1位を獲得したオリバー・アンソニーの楽曲)には賛否両論あると思うが、言っていることはその通りだと思う。現在の英国における貧富の格差は、ヴィクトリア朝時代と同レベルだ。米国では、当時の上を行っている。米国でも王室や、英国の証券取引所から利益を得ている数千のファミリーのように、支配階級が絶対的な存在として君臨している。

俺の親戚の中には、石油業者や銀行家がいた。中流階級だが、ものすごい金持ちという訳でもなかった。彼らがもしも現代に生きて同じ仕事をしていたら超裕福だろう。政治家の給料で、いったいどうやって3億ドルも蓄えられたと思う? それをインサイダー取引と言うんだ。

Translated by Smokva Tokyo

 
 
 
 

RECOMMENDEDおすすめの記事


 

RELATED関連する記事

 

MOST VIEWED人気の記事

 

Current ISSUE