ブランディー・ヤンガーが熱弁、ドロシー・アシュビーとジャズ・ハープが今求められる理由

ブランディー・ヤンガー、今年8月に開催されたブルーノート東京公演より(Photo by Tsuneo Koga)

 
ジャズにおいて、ハープという楽器はずっとマイナーなものだった。しかし近年、ミシェル・ンデゲオチェロやマカヤ・マクレイヴン、テラス・マーティンやバッドバッドノットグッドなど、様々なアーティストの作品からハープの優雅な音色が聴こえてくるようになった。そこで演奏しているのはブランディー・ヤンガー(Brandee Younger)。彼女の登場はハープという楽器のイメージから、その楽器のジャズにおける立ち位置まですべてをガラッと変えてしまった。

ミシェル・ンデゲオチェロは以前、こう語っている。「ブランディ・ヤンガーとは絶対に一緒にやりたかった。彼女は今、最も優れたハープ奏者だから。ハープは一種のエネルギー。とても力強い楽器なの。そのことをみんなに知ってもらいたかった」。

そんな彼女が今年4月に発表した最新アルバム『Brand New Life』は、知る人ぞ知るジャズ・ハープのパイオニア、ドロシー・アシュビーにオマージュを捧げている。1950年代、ジャズの世界にハープを持ち込んだドロシーは、ソウルやファンクも取り込んでいき、スティーヴィー・ワンダーアース・ウィンド・アンド・ファイアーにも起用されるなど、活動の場をどんどん広げていった。

とはいえ、彼女の音楽はジャズマニアの間でひっそりと聴かれる程度に過ぎなかった。しかし90年代以降、ピート・ロックをはじめとしたヒップホップのプロデューサーたちがドロシーのサウンドを発見する。定番のサンプリング・ソースとして、様々な楽曲の中で彼女のサウンドが効果的に機能するようになった。そして、コモンが2007年のアルバム『Finding Forever』で起用しているように、ドロシーに魅了された現代アーティストたちが、ハープのサウンドを求めてブランディー・ヤンガーに声をかけるようになった。ヒップホップがドロシーの価値を大きく高め、ヒップホップ世代であるブランディーがドロシーの功績を受け継いでいるというわけだ。

『Brand New Life』にはジャズ・ハープとヒップホップ、ドロシー・アシュビー、そしてブランディー・ヤンガーにまつわる歴史のすべてが詰め込まれている。ドロシーの革新性を表現するべくマカヤ・マクレイヴンにプロデュースを委ね、ピート・ロック、9thワンダー、ミシェルを招き、極上のプロダクションが生み出されている。この傑作を掘り下げるため、8月中旬に来日公演を行なったブランディーへの取材を実施。ここまでドロシーについて深く語られた記事は他にないだろう。




―あなたにインタビューするのは今回で3度目ですけど、過去の2回でドロシー・アシュビーの話をしているんですよ。今日もドロシーの話をしてもいいですか?

ブランディー・ヤンガー(以下、BY):もちろん(笑)。

―それは新作のアルバムのコンセプトが、ドロシーと関係があると思われるからで……。

BY:ええ、そのとおり。今回、彼女の未発表曲をレコーディングする機会があって、本当にワクワクした! それは「You're a Girl for One Man Only」「Running Game」「Livin' and Lovin' in My Own Way」の3曲。ちなみに「Running Game」のオリジナルタイトルは「Double-Talkin'」。私が名前を付けなおしたから、「Running Game」で検索しても出てこないと思う。この3曲は彼女の未発表曲だけど、彼女がピアノを弾いている「Running Game」の音源は存在していて、どこかのレーベルから出ていたはずだけど、流通はしてないと思う。

実は「The Windmills of Your Mind」や「Come Live with Me」は(ドロシー・アシュビーの人気曲の)カバーで、本当はやりたくなかった。でも、レーベルに言われたから、仕方なくね。私は彼女がリリースしていない曲を録音できるってことにとても興味を持ったから。



―なるほど。

BY:私のオリジナルは「Brand New Life」と「Moving Target」。「Moving Target」は私がマカヤ(・マクレイヴン)のために書いたもの。マカヤが変拍子の曲が好きだと知ってたし、彼の素晴らしさを発揮できるような曲が必要だと思ったから。私たちはレコーディングして、あと(のプロダクション)はマカヤに任せた。

「Brand New Life」は、このアルバムで“ワイルドカード”のような存在。ムム・フレッシュをフィーチャリングしたオリジナル曲で、彼女はドロシー・アシュビーとはまったく無関係。ピート・ロックやナインス・ワンダーがドロシー・アシュビーの曲をサンプリングしていたりするように、今回のアルバムに参加しているアーティストは、彼女と何らかの特別な関係がある。ミシェル・ンデゲオチェロだって彼女の大ファンだし。だからミシェルをアルバムに誘った。けれど、ムム・フレッシュは別の話。ソウルフルな声の持ち主で、スムースなバックもできる人を探していて、ずっと一緒に仕事をしているプロデューサーのサラーム・レミに相談したら、彼女を紹介してくれたのがきっかけ。私は彼女のことをラッパーだと思っていたくらい。でも、彼女のテイクには本当に驚かされた。そして彼女は、レコーディングの直後に亡くなってしまった彼女の弟に捧げた歌詞を書いてくれた。だから、この曲の歌詞はとっても特別なものになっている。


Translated by Kyoko Maruyama, Natsumi Ueda

 
 
 
 

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