SawanoHiroyuki[nZk]が語るアニメ音楽への姿勢、ポルノ岡野昭仁との化学反応

ー今のお話ともリンクすると思うんですが、ご自身でもターニングポイントとして捉えている『機動戦士ガンダムUC』。ガンダムシリーズは歴史が長い分だけ音楽も「こうでなければいけない」ある種の縛りがあると思うんですけど、澤野さんはどのようなマインドで臨まれたんですか?

過去のガンダム作品も観ていたんですけど、劇伴はそんなに注目して聴いていなかったんですよ。どちらかと言うと、映像と物語、あとは主題歌。TM NETWORKの「BEYOND THE TIME」(『機動戦士ガンダム 逆襲のシャア』主題歌)とか、森口博子さんの「ETERNAL WIND~ほほえみは光る風の中~」(『機動戦士ガンダムF91』主題歌)とか、そっちのほうに気持ちを持っていかれていたので。唯一、菅野さんの『∀ガンダム』の音楽は聴いていましたけど、そういう過去のガンダムの劇伴に引っ張られるよりは、自分が考えるガンダムの音楽を創ればいいと思っていたので、わりかし気負わずに臨めたんですよね。

ーその結果、澤野さんはガンダムフリークに限らず、多くのアニメ関係者やファンに注目されるようになりました。個人的には『機動戦士ガンダムUC』と澤野さんの世界観の親和性の高さに驚かされたのですが、元々それぞれが持つ素養の相性も良かったのかもしれないなって。

あと、タイミングも良かったのかもしれない。自分の『機動戦士ガンダムUC』以降に創っている曲は、メロディの書き方が変わっていっているんですよ。ハリウッドの影響を受けたりしていて、極端にメロディアスなメロディをあんまり書かなくなったんです。でも『機動戦士ガンダムUC』のときって劇伴作家歴5年目ぐらいで、日本人が好きそうなメロディアスな音楽を追及していたタイミングだったので、それが上手く合致して世に出せたと思うんですよね。なので、あと数年タイミングがズレていたら、最初のサントラのメインテーマみたいな曲は生まれていなかったかもしれないから、あのタイミングで創れてよかったなって。

ーその後も『機動戦士ガンダムNT』『機動戦士ガンダム 閃光のハサウェイ』といったガンダム作品だけでなく『進撃の巨人』『甲鉄城のカバネリ』『86―エイティシックス―』等々SFやファンタジー要素の強いアニメ音楽を手掛け続けています。

自分では「親和性が高い」なんて思っていないんですけど、でも純粋にSFは好きなんですよ。昔から海外のSF映画とかよく観ていて、そういったスケールのデカい作品の影響を受けて、自分もそういう作品に関わりたいなという気持ちをずっと持っていたので、今挙げてもらったようなアニメ作品の音楽を創っているときは本当に楽しいんです。それこそスケールの大きいオーケストラの曲を創りたかったとしても、日本の日常系ドラマだと浮いちゃったりする。でも、アニメだとスケールの大きい作品が多いから違和感なく響かせることが出来る。そういう意味では、自分の追求する音楽を素直にアプローチできる場所でもあるんですよね。歌モノの曲を劇中でバンバン流しても面白がってもらえますし。

ーこれまで数えきれないほどの楽曲をアニメやドラマの為に生んでいるわけですが、1作品に対し何十曲も制作したり、監督やプロデューサーからダメ出しされて作り直すこともあったり……心折れそうになる瞬間とかないんですか?

それがですね、これまでまったくリテイクがなかったわけじゃないんですよ? 僕は根に持つタイプだからリテイクされたら忘れないので(笑)。でも、これだけの本数を手掛けさせて頂いているわりには、かなり少ないほうだと思います。自分が「これだ!」と思ったものを提出して「オッケー」をもらったものがほとんど。自分からすると、打ち合わせをして方向性さえ掴めば、そこからあまりにも作品とブレた音楽を創ることなんてないと思っているんですよ。過去にドラマ音楽で「なんか違うんだよな〜」みたいなことを言ってリテイクするプロデューサーとかもいたんですけど、僕自身は「この作品にはコレだ!」と思って創っているので、それが「違う」となるんだったら、極端な話「そもそも選んでいる作曲家が違うんじゃないですか?」みたいな(笑)。

ーそれを言い切れるのは格好良い(笑)。

実際にそこまで傲慢を通すわけじゃないんですけど(笑)、それぐらいの想いでこちらは創っているんですよね。だから「リテイク」と言われて「はい、分かりました。すぐ創り直します」という気持ちにはなれないというか、それぐらいの想いで1曲1曲に取り掛かっている。その甲斐あってか「コレだ!」というモノをぶつけて、それを受け止めてもらえているケースがほとんどなので、リテイクで心が折れそうになった瞬間とかはないですね。

ーまた、澤野さんは劇伴と共にテーマソングも多く手掛けてきています。その歴史を語る上で欠かせない存在が[nZk]だと思うんですけど、このプロジェクトはどのような流れで立ち上げられたのでしょう?

音楽を始めるきっかけ自体はASKAさんや小室さんだったので、劇伴を手掛けていく中で「歌モノの曲を創りたい」という欲求がずっとあったんですよね。それをどこかしらで形にしていけないか相談しようと思っていたタイミングで、僕が劇伴に歌モノの曲を取り入れるようになっていたこともあって、ソニーさんから[nZk]の提案があったんです。ただ、最初はボーカリストを毎回変えていくプロジェクトになると思っていなかったんですよ。

ー最初から今の形をイメージしていたわけじゃなかったんですね。

ボーカリストを固定して、それこそ最初の『A/Z|aLIEz』(アニメ『アルドノア・ゼロ』エンディングテーマ収録)はイツエ(当時)のmizukiさんだったんで、mizukiさんとやっていくのかなと思っていたんですけど、3作品目から楽曲によって変えていく流れになって。まだそのときは新しい人たちと一緒にやっていくプロジェクトだったんですけど、3枚目のアルバム『R∃/MEMBER』でキャリアのあるメジャーな方たちとコラボしてみようと。それが面白くてシリーズ化していったら、ASKAさんにも参加してもらえるまでに至りました。それが実現したときは感無量でした。そんな感じで徐々に形を変えていったので、今やそのときそのとき「面白い」と思ったコラボ企画を実現する自由なプロジェクトになっていて。もう「[nZk]はこうだから」みたいなことは考えなくなりましたね。



Rolling Stone Japan 編集部

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