知らないうちに原子爆弾開発に関わっていた、若き女性たちの真実 米

オークリッジを24時間365日で稼働させ続けるのに必要な作業員を確保するべく、様々な採用方法が取られた。ドット・ウィルキンソンさんのような若い女性は、高校の廊下で採用され、そのまま現地に連れていかれた。いい稼ぎと戦争終結につながる仕事という保証は、ドットさんのような女性を納得させるには十分だった。テネシー州の田舎で育ったドットさんは兄のショーティを真珠湾で亡くしていた。経済的必要性と戦時中の愛国心は、強力で説得力のある組み合わせだった。

ドットさんたちが現地に到着すると、ならされたばかりの土地が夏の雨で水浸しになり、泥の沼と化していた。歩道はなく、間に合わせの板が一面の泥に渡してあるだけだった。住民と作業員はセキュリティバッヂを着用し、バッヂごとに乗車できるバス、飲食できるカフェテリア、入室できる施設が決まっていた。女性たちは様々な仕事を任された。教師、清掃員、料理人、バスの運転手、電話交換手。みなロスアラモスに送られることになるウランの濃縮に、知らず知らずのうちに関わっていた。

戦時中はウランを濃縮するために、気体拡散や電磁質量分離など複数の方法が試された。Y-12は電磁分離を行う施設だった。そこでドットさんを始め数千人の若い女性は「カルトロン」という機械を操作した。一般的なウラン238から、ウラン235という同位体を分離するカギとなる機械だ。


1944年1月1日、オークリッジではセキュリティ審査の一環で嘘発見器の検査が行われた(GALERIE BILDERWELT/GETTY IMAGES)

来る日も来る日も、ドットさんは椅子に座って目の前の操作盤を見守った。本人いわく、これほど複雑で革新的な科学機材のわりには、訓練はいたってシンプルだったそうだ。針を中央の位置でキープする。右に動いたら、ノブを左に回す。左に動いたら、ノブを右に回す。火花が出たら監視員を呼ぶ。

ゲートの中で暮らす住民に、これほどの大規模な計画の理由を想像するなと言うのは無理な相談だった。だが詮索しすぎれば職を失うだけでなく、しばしば住む場所も失った。誰かが話題にすれば、デスクや椅子に空きが出て、ほどなく他の作業員が補充された。オークリッジの住民が「クリープ」と呼ぶ人々も雇われた――住民を監視し、セキュリティ規制を取り締まる政府要員だ。洗濯物を干しながらおしゃべりしていた女性たちは、後でクリープの訪問を受け、話の内容を尋問された。だが政府はオークリッジの住民がほとんど何も知らない秘密を守らせるために、住民の手も借りていた。

Y-12工場で働いていた当時18歳のヘレン・ブラウンさんは、ある夜宿舎に戻ると2人の男から外に呼び出された。職場やカフェテリアでの会話に注意してくれないか? 内部事情に首を突っ込んでくる人間や、職務内容を話題にする人間がいたら気に留めて置いてほしい。もちろん彼女が密告しても全て匿名扱いにすると男たちは請け負った。ヘレンさんは男たちから記入用紙と、ノックスビルにあるACME保険会社の住所が書かれた封筒を受け取った。ヘレンさんは聞き耳を立て、目を光らせることに同意した。怖くて断れなかった。彼女は用紙を箪笥の引き出しの奥にしまった。できれば使いたくなかった。

Akiko Kato

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