TOOBOEが語る、ボカロ文化と和製ポップスのミクスチャー、求められる「現場力」の強化

「ボカロP出身」は利点であり弱点

—ボカロの曲も織り混ぜたセトリでしたが、そのバランスも違和感なくできましたか?

そうですね。去年のワンマンの次ぐらいのライブからは、比較的ボカロ曲はやっていなかったんですよ。というのも、ボカロP出身ってことは利点でもあるんですけど、弱点でもあると思っていて。「春嵐」って僕のボカロ曲があるんですけど、「春嵐」の人でしょって言われ続けるのもけっこう大変で。それで一時的にボカロを離れて、ボカロ以外の曲でもTOOBOEだぞって部分を鍛えたんです。でも今回のワンマンツアーで、デビューしてから2年ぐらい経ったこともあって、あえてボカロ曲をもう一回歌ってみたら、自分的に昔ほどボカロにすがってない状態でやれて。みんな「春嵐」が聴きたいから来てるわけじゃなくて、「心臓」とか「錠剤」を聴きに来てくれた人にも「春嵐」って曲をお届けするっていう文脈を持って構成できたことがよかったなと思ってます。



—今回リリースした最新シングル「浪漫」では、ライブの臨場感がうまくフィードバックされていて、ギターとドラムのガレージっぽい生々しさも聴きどころだなと思いました。この曲はどういったプロセスで出来上がったんでしょうか?

「浪漫」は今年の頭ぐらいから作りはじめた曲で。ワンマンツアーのフックとなるような、アップテンポな曲を作ろうっていうのが最初のコンセプトでした。ライブに来てくれた人に対しての感謝になるような、ポジティブなメッセージを送りたいということで、「浪漫」っていうタイトルをつけて。浪漫っていう言葉には「憧れ」とか「明るい未来」っていう意味があるらしいんですね。僕の曲って比較的ネガティブなものが多いんですけど、皆さんに明日から頑張ろうって思ってもらえる曲があったらいいなと思って作りました。



—それをライブでも披露できて、狙い通りに伝わった実感も持てたんじゃないですか?

はい。名古屋は全く告知せずにサプライズでやったので、さすがにみんなキョトンとしていましたけど、大阪、東京は知識として新曲をやることはある程度知っていたと思うので、ちゃんと盛り上がってくれました。

—途中でストリングスが入ってきますが、生々しさが損なわれないままストリングスの煌びやかさと融合していて、ユニークだなと思いました。

今回初めてライブを念頭に曲を作って、キーボード以外のギターとドラムとベースを、いつもやってるTOOBOEバンドの方に弾いてもらったんです。「With ensemble」っていうYouTubeのチャンネルがあって、そこで「錠剤」と「チリソース」って曲をオーケストラアレンジで披露させていただいたんですけど、その時「チリソース」の編曲をしてくれた森田悠介さんが、僕の好みにガチッとハマったんですね。そのストリングスの感じを、別の曲でも演奏含めてぜひお願いしたいって話を現場でもしてて。その時期に「浪漫」を作っていたので、この曲に生のストリングスを入れたら面白いことが起きるかなと思って入れてみました。生ストリングスは初めてですね。





—ストリングスもフックになっているけど、ギターとドラムがカッコいい曲だなと。

イメージとしては、2000年代ぐらいのバンド感。例えばポルノグラフィティみたいな熱量をイメージしています。今ってシニカルな曲が多いんですけど、そうじゃないものをのをあえてやるのは面白いかなってことでやってみました。

—歌詞の世界観はポジティブだけど、ワードのチョイスにボーカロイドカルチャーのバックグラウンドを感じさせるところがあって、それもTOOBOEさんの個性になっているように思いました。

歌詞がフィクション性を持ってしまうのは、よくも悪くも僕の特性なんです。自分の話をすることがあまりないので、曲の主人公を自分には置かないんですよ。今回の歌詞も漏れなく自分から出た言葉ではあるんですけど、テーマは応援歌であり、大正くらいのレトロな世界観をイメージしてワードチョイスをしましたね。

—言葉のインプットは、例えば小説とか漫画にもルーツがあるんでしょうか?

小説は、もともと奥田英朗さんって方の作品をよく読んでますね。

—「チェンソーマン」の時のように、原作を自分の中で消化して、解像度を上げて言葉にしていくことは得意ですか?

そうですね。どちらかっていうと、原作ありきのものを、原作ファンの方が喜んでくれるように作る作業の方が好きで。『往生際の意味を知れ!』っていうドラマの主題歌(「往生際の意味を知れ!」)を作った時も原作を読み込んで、原作のファンとかドラマから入るファンの人がニヤリとできるような要素を入れたり、さらに詳しい人にしか気づかれないようなサブストーリーを入れたりしていました。作者の米代(恭)先生からもお礼を言われて。そういったクライアントを喜ばせる作業はけっこう好きですね。



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